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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第三章 冒険者編

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リリーとの旅の始まり

「まったく。マリーの家族じゃなきゃ、こんな依頼は絶対に受けないんだけどな」

「教皇様って会ってみると印象が変わるよな。確かにちょっと面白い」

「僕はあれがマリーの双子の妹とは信じたくないね」


 狸の言う通り、確かに事態の収拾はすぐに出来た。


「彼女が見たステータスは見間違(みまちが)いではない。だが、リリーは特異体質だという事が判明した。今から見せるステータスが本来の彼女の物だ」


 我儘娘(リリー)に指示をして、ステータス偽装のペンダントを使用させる。


 この我儘娘は元々変わり者だったらしく、村人達はあっさり信用してくれた。

 リリーの友達の女の子も「ずっと変だと思ってた」と呆れている。


 いい子で良かった。


「そう言う事で、彼女の体質は特殊な為、家族も含め、教会が詳しく調べる事になった。彼らには山の(ふもと)の小さな村に移住して貰う事になる」


 村人達にリリーの家族の移住を伝えると、各々(おのおの)で別れの挨拶などが始まる。

 俺たちはその間にまとめた荷物を荷馬車に積み始めた。


「手伝うよ」

「悪いな。キリカ」


 ただ、婚約者の男も一緒がいいと騒ぐ娘の為、この男も一緒に連れて行く。

 突然の移住に巻き込まれたキリカは、黙々と俺たちを手伝ってくれた。



 と、ここまでは良かったんだよ。



 しかしこれから先、予定通りに辿り着ける気が全然しない。

 2か月、いや、3か月はかかるかも……。


 とにかく、この我儘娘が予想をはるかに超えた、モンスターだった。


「マリーの所に行くの? 母さん、私が聖女になるってマリーに言って」

「はぁー。分かったから静かにしていなさい」

「約束だよ」


 キリカが突っ込みたくてうずうずしている。

 分かるぞ。


 娘もおかしいが、この母親のリアクションも少しおかしい。

 父親は不機嫌そうにダンマリだし、キリカも母親の手前、何も言えずに戸惑っている。


 リリーは俺たちが護衛と知ると、嬉しそうに魔獣の群れに突っ込み、ふざけてこっそり逃げ出して笑う。


 鬼ごっこ感覚のリリーの為に、体を張って庇うハートが心身共にボロボロだ。

 用意していた回復薬も、これじゃすぐに底を付く。


 夜中に抜け出す可能性も考えると、俺とフェルネットは殆ど眠れないな。

 疲れ切ったハートはきちんと寝かしてやりたいし。


 このままじゃ全員の神経が持ちそうにない。

 こうなったら娘の教育が急務だ。


「そろそろ野営をするから準備します」

「俺は(まき)を拾ってくる」


 キリカは自分で出来ることを探し、ちょこまかと動いてくれる。

 慣れない野営の手伝いも、何か自分に出来ないかと聞きに来る。


 問題はこの親子三人。


 不満そうに黙って座り、心の底では “自分たちは被害者だ” と思っている。

 態度を見ればまるわかりだ。


 教皇様の慈悲(じひ)で、生きていられるだけなのに。


 スープと焼いた肉を配ると、本日何度目かの「私そっちがいい」

 俺とスープを取り換え、ハートと肉を取り換える。


 めんどくせぇ。


 その度に、申し訳なさそうにするキリカが気の毒で仕方がない。

 この男だけが唯一話が通じる常識人。今や俺のオアシスだ。


 マリーの作ったカトラリーは使えないらしく、手や棒で器用に食べている。

 村育ちでは当たり前だが、ついついマリーと比べてしまう。


 ははは。

 横を見たらふたりも同じだった。


「ステータス偽装のペンダントは差し上げます。ただ、そのペンダントは違法なものなので扱いには注意してください。お嬢さんには “加護の件” をきちんと言い聞かせてください。それと次に同じような事があれば、拘束するそうです」


 フェルネットの丁寧な説明に、父親は初耳のように目を剥いた。


「お聞きになって、いないのですか?」


 そして、母親と教皇様が約束した内容を伝えると、ものすごい目で母親を睨む。


「マリーを教会に入れた事も、リリーのせいで私達まで死罪になる事も、何故いつも他人から聞かされて知るんだ」


「だって、言えばリリーを叱るじゃないですか」


 急に夫婦喧嘩が始まってしまい、本当にうんざりする。


「ねぇガイン。マリーと、どんな旅をしたの?」


 夫婦げんかに飽きた娘が突然話題を変える。

 空気を読まない娘に今だけは感謝だ。


「マリーには荷馬車の上で読み書きや計算の勉強をさせていたな」

「そうそう。地理や歴史も。ダンスのレッスンもやったね」


「何それ楽しそう」

「お前も勉強するか?」


 娘は突然立ち上がると、フェルネットをダンスに誘う。

 フェルネットは一瞬驚いたが、すぐにダンスを教え始めた。


「下を見ないで顔を上げて」


 元々が猫背で固まっているのか、首筋を伸ばすこともままならない。

 すぐに指先はグーになってしまうし。ま、村の子ならこんなものか。


「足を踏んでも構わないよ。そうそう。顔を上げて」


 楽しければ何でもいいと、上手にフェルネットがエスコートをしていた。


 フェルネットは流石だな。

 俺ならもっとこう、ごちゃごちゃ(うるさ)く言ってしまうだろうな。


 マリーは元々姿勢が良くて食べ方も綺麗だったな。

 ずっとそういう家で育ったと思っていたけど、違ったんだな。


 俺、お前の事、何も知らなかったよ。


「キリカ、彼女はどのくらい読み書きが?」

「読む方はちょっと。書く方は全然ダメ」

「なるほどな」


 明日から荷馬車の上で、読み書きの練習させることにした。


読んでいただきありがとうございました。

※お時間がある方はぜひ、活動報告もご覧いただけると嬉しいです。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝してます!

誤字報告、いつも本当に本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
なぜ旅立つ前にこの両親と妹に死が自分たちの直ぐ背中にあると知らしめない? フル装備の聖騎士に抜き身の剣を持たせ3人を囲み殺気と威圧で剣を向けて死の恐怖を与えるぐらいしろ 3人に現状置かれている立場と状…
1番の被害者、キリカの家族。
なんで障害児の教育をS級冒険者がやってるの…? ちゃんと完結済みの作品を色々読んでるのですが、ここまで酷い設定、世界観、倫理観の作品は久しぶりに読みました。書籍化してるんだよね!?!??本当にどんな…
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