師匠から弟子へ
依頼達成の受付で、いつもと違い『少々お待ちください』と言われて待たされる。
「毎回、あの薬草を売りに出すのは、怪しかったですかね?」
「どうなのかな? 少し儲け過ぎたかな。ちょっと気になるね」
先に師匠に相談しておけば良かった、とちょっと後悔。
教会で育った私は常識に疎いし、テッドさんはお坊ちゃんだから更に疎い。
そんな心配を余所に、ニコニコしながら受付のお姉さんが、私達のギルドカードを持って戻って来た。
「おめでとうございます。おふたりともEランクに昇格です」
「「え?」」
ついふたりで顔を見合わせて、吹き出してしまう。
ぷっ。さっきの心配はなんだったの。
「やったー!」「やったね!」
ふたりで手を合わせてハイタッチ。
わーい。やったー。
「それでは、ギルドカードをお確かめ下さい」
私達は差し出されたギルドカードを、まじまじと見つめた。
大きく “E” と書かれている事を確認し、その文字を指でなぞってニヤけちゃう。
「間違いありません」「私もです」
うふふふん。
みんなと一緒に喜びたい。
まずは師匠から。
「師匠に報告して来ましょうよ」
「そうだね」
ギルドの裏手に回るとちょうど休憩時間らしく、子供達がそれぞれに休んでいた。
「よう! お前さん達、ちょうど良かった」
「師匠!」
師匠が立ち上がり、パンパンと服に着いた土を払いながら、私達の方まで歩いて来る。
「これをマリーに渡そうと思ってな」
それは一角うさぎの角で作った、小振りのストラップみたいな物だった。
「ギルド長から、嬢ちゃんが倒した子ウサギの素材を渡されてな。その……。まぁ、なんだ。師匠から弟子に渡す、冒険者の習わしだ。ほれ、さっさと受け取れ」
師匠はとても恥ずかしそうに、ワザとそっけなく私の手にストラップを握らせる。
「師匠が初めて私の事を弟子って……。どうしよう! 嬉しい! ありがとうございます! 感動です!」
何これ、涙が出ちゃう。
師匠から弟子に渡すんだって。
初めて師匠の口から私の事を弟子って言ってくれた!
ストラップを握りしめて、何度もお礼を言った。
「ギルドカードに、初魔獣の素材で作ったアクセサリーをつけるのが一般的なんだよ」
そう言って、テッドさんが自分のギルドカードに付いたストラップを見せてくれる。
そうなんだ。すごいタイミング。
「師匠ーー! 私達、さっき、Eランクに昇格したのですよ!!」
「はい。昇格しました」
テッドさんとふたりで “E” と大きく書かれたギルドカードを師匠に突き出す。
「おお、ふたりとも凄いじゃないか。随分と早いな」
師匠が差し出されたギルドカードを確かめるように見ると「流石だな」と嬉しそうに笑ってくれた。
「次からは依頼内容も少し変わる。気を抜くなよ」
「「はい!」」
なんだか色々嬉しくなって、つい師匠に飛び付くと「こらこら」と、いつものように引き剥がされて、手をひらひらさせながら戻って行った。
「普通はね、一緒に討伐した指導者から貰うんだよ。マリーはシドさんの弟子だから、きっとギルド長が気を利かしてくれたんだね」
後でギルド長にお礼を言わなければ。
あの人ってば、意外と気の回る人なんだよね。
あー、でも嬉しいなぁ。
「私、ずっと自称弟子だったのですが、これ、正式に弟子と認められたって事ですよね? それが嬉しくて嬉しくて。本当に泣きそうなのですよ」
「ははは。シドさんも照れ屋だなぁ。みんなマリーの事を、シドさんの弟子だと思っているよ」
師匠はいつも『弟子は取らない』って言うから……。
そうだったんだ。もっと弟子っぽい事をすれば良かったな。
えへへ。どうしよう、顔が緩んで仕方がない。
早速ギルドカードに取り付けて、何度も取り出してはニタニタしちゃう。
「テッドさんは誰からですか?」
「私はガインさんからだよ。貰った時は嬉しかったなぁ。一日中眺めていたよ」
分かるーー!
今日は一日中眺めていたいもん。
「そういえばガインさん達は、ひと月以上も何をやっているのですかね? 帰ってくる頃にはSランクに追いついちゃいそうですよね」
「あはは。それはいいね。でもあれっきり連絡もなくて心配だよね。『戻るまでにCランクにしておけ』と言われたのだけれど……」
「へぇ。そうなのですか」
Cランク?
そんなに長く遠征するつもりだったの?
ホントにまた5歳児を連れて、山越えでもしているのかな。
保護者達は今頃、いったい何をしてるのだろう。
読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝してます!
誤字報告、いつも本当にありがとうございます!!





