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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第三章 冒険者編

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閑話 ソニーとシド

 ガヤガヤと煩い大衆酒場で、今日はシドと待ち合わせをしている。


「ソニー殿!」


 奥のテーブルで先に一杯やっていたシドは、店に入ったわしを見つけて笑顔で手を上げた。


「おおシド。さっきそこでマリー達とすれ違ったが、初めて魔獣を討伐したと喜んでおったわ」


 わしは席に着くなり、先ほどマリーに会った事が嬉しくて、つい興奮気味に話す。

 シドが「やっと一番弟子が巣立ったな」と少し寂しそうに笑った。


『弟子は取らない』と公言(こうげん)していたこの男に、一番弟子と言わせるわしの孫は流石だ。

 フッ。そう言えばこの間、マリーのおかげで教える事の楽しさを知ったと、酔って漏らしていたな。


「さっき出がけにギルド長から渡された」


 そう言ってシドは、ポケットからとても小さな一角ウサギの角を出し、テーブルの上にそっと置く。


「随分と小さいな」

「ああ。子ウサギが初魔獣とは、実に嬢ちゃんらしい。わははは」

「これがあの子が倒した魔獣か! 確かにわしの孫らしいな。ふははは」


 この角は師匠から弟子へのプレゼントにする為に加工するらしい。

 冒険者の伝統的な習慣なんだとか。


「それで、今の教え子たちはどんな様子だ?」


 酒とつまみを注文しながら聞くと、シドは苦笑いをしながら首を振った。


「どうした? 問題か?」


 心配して聞くと「そうじゃない。自分の未熟さを思い知ったんだ」と自虐的に笑う。

 シドが未熟?


「少し前から二十人くらいの冒険者希望の男女を、5歳から上は15歳くらいまで集めて特訓を始めたんだが、驚いた事に(まった)く練習にならないんだ」


「練習が出来ない? ん? どういう事だ」


 訳が分からないと言うと、シドが力なく笑って肩を揺らす。


「魔力量が少なすぎて、魔法の練習が一日に数分しか出来ない。困ったもんだよ」

「あー。ふむふむ。なるほどなぁ。マリーの時はどうしていたのだ?」


「嬢ちゃんの魔力量は桁外れだ。一日中使ったところで魔力疲労すらしない」

「ほう。それじゃ同じようには出来んな」


 マリーは凄いな。やっぱりわしの可愛いマリーだな。

 流石だ。


「そうなんだよ。どうやって教えたら良いのか途方に暮れて。そこで、魔力が切れたら剣を教えようとしたが、魔力切れで動けない。無理をさせると体を壊すから、気を付けてはいるがな」


「大変じゃなぁ。鍛えようがないではないか」


 シドはグラスを空にしてテーブルに置くと、ため息を吐く。


「私もそう思ったよ。才能のない奴に教えても無駄だ、と切り捨てようと思っていた所に嬢ちゃんが来てな。『毎日魔力切れまで練習するなんて、根性ありますね』って『私なら無理だ』って言われたよ。目からウロコだった」


「確かに、魔力切れの疲労はキツイな。それも毎日だなんて」


「そうなんだ。私も自分の魔力量が多いから忘れていたんだ。そこでやっと、やる気に満ちた生徒たちを、上手く育てられないのは “自分が未熟だったから” と、気付いたって訳だ。ははは」


 シドは空のグラスを(もてあそ)び、意外にも嬉しそうな顔になる。


「いや、そう思えるシドも凄いぞ」

「ふふふ。私も子供の頃はそうやって鍛錬したものだった。あの子達は私を超えるかも知れんな」


 届いたつまみをシドにも差し出し、シドの空いたグラスのお代わりを注文した。

 少し酔ったシドは『ふふっ』と思い出し笑いをし、機嫌よく話し出す。


「嬢ちゃんは特別な子だったよ。魔力量が、じゃない。それも凄いが、もっと凄いのが好奇心だ」


「好奇心?」


 マリーはわしにとっては全部が凄いのだが、好奇心?


「当時の嬢ちゃんは10を言えば5は理解する。その後あの子は好奇心だけで、勝手に20まで辿り着く」


 ふむ。研究者向きだな。


「普通はどうなのだ?」


「そうだな。子供なんて10を言って1を理解すれば合格だ。それを10にしてやるのが指導者の仕事だな」


「それもそうだな」


 確かにマリーは凄いな。

 うん。わしの孫、凄い。


「育てたハートも優秀過ぎた。だから忘れていたんだよ。言葉を尽くして理解させる事の大切さを。今の生徒たちには苦労させてしまった。私も新米先生だよ」


 シドは届いたグラスに口をつけ、毎日が勉強だと楽しそうに笑う。


 わしも若者達の為に何かしたいな。


 そうだ、ギルドで何か手伝いをさせて貰おう。

 時々若い奴らに、上手い飯でも作ってやろうかな。


 貸し出している屋敷の管理の仕事を、金の無い若者に任せてもいいかもしれんな。


読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
弟子が優秀すぎると師も大変……というか最初らへんに教えた子が大成功するとそれでいいんだと勘違いして出来ないのは生徒が悪いってパターン現実にも結構ありそう……
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