訓練の始まり
移動中の荷馬車の上で、今日から魔法の特訓が始まった。
シドさんが魔法を教えてくれるんだって。
「集中しろ」
「はっ!」
「手のひらに小さく魔力を丸めて、水を思い浮かべて」
……。
こんな感じかな? よく分からないな。
なにかが生まれる気が全くしない。
水は適性が無いから無理な気もする。
「ほれ、集中しろ」
「はっ!」
が、師匠はそう思っていないらしい。
へへ。勝手に弟子入りした。
えい、こんな感じでどうだ?
……。
今日は冷えるから寒いな……じゃなくて。
すぐに別の事が頭に浮かぶ。
目を瞑って無心だ、無心。
……。
全く魔力の流れとか感じ取れない。
中二病の人の方がよっぽど魔力を感じてそう。
……中二か。
「この封印されし我が左手よ、力を解き放て!」
天に向かって手をかざす。
ギロリと師匠に睨まれた。
ひぃ。
集中集中。
小さい水の玉。小さい水の玉。小さい水の玉。
こうなったら念仏作戦だ。
半日ほど唸ってたら、何故か分からないけどいきなり来た!
バッシャー。
魔力が動くってこんな感じなんだ!
「し、師匠! 水が大量に出ました!」
パコン。
「出ました、じゃない。加減しろ」と師匠に丸めた紙で頭を叩かれた。
ブーブー。
やっとの思いで初めて水が出たのに、師匠はスパルタすぎ。
「マリーはこの後みっちり読み書きの練習があるから、体力を残しておけよ」
怖いくらいニコニコしてるハートさんが、びしょびしょの私の水分を、風魔法で一気に飛ばしてくれた。
なにこれ、魔法ってすごい。
生まれて初めてこの身に受けた魔法に感動した。
魔法にはこんな使い方もあるんだ……。
----
「シドさん。マリーはどんな感じで?」
「適性が無い加護の魔法は苦労はしているが、まぁ水も出せたし使える事は分かった。ある程度はモノに出来るようにするさ」
シドさんが珍しくやる気だ。
どんなに魔法の弟子入りを志願されても全く相手にしなかったのに。
フェルネットがびっくりして目を丸くしている。
あいつは諜報に才能があったから、シドさんはそっちを伸ばしたんだがな。
ふふふ。
それとも鬼のシドさんでもやっぱり娘には弱いのか?
「ハート。お前の方はどうだ?」
「筋は悪くないけど……剣だけならどんなに頑張ってもC級止まりかな」
「なるほど」
C級なら自分の身を守るには十分か。
「弓は行けそうか?」
「体幹を鍛えたらそこそこは……。でも注意力が足りないから向かないかも」
注意力は確かに皆無に近い。
「そうか。よし! 受け身と護身術メインだな。気配の読み方も鍛えてやってくれ」
「フェルネットはどうだ」
「おそらく覚えたら結界魔法は余裕かと。あの魔力量で押し切ればドラゴンですら破れないはず。課題は展開の速さと重ね掛けの実験くらいかな」
「なるほど。任せる。あと、マナーのレッスンも頼むな」
マリーのこれからの教育計画を頭の中でシミュレーションしていると、みんなが俺をニタニタと生暖かい目で見ていた。
「な、なんだよ」
「ガインさんが一番ノリノリ」
「マリーが可愛くて仕方ないんだな」
「娘には甘くなるんだな」
さんざん揶揄われたけどお前らだって同じじゃないか。
ただ俺はマリーが心配なだけなんだからな。
子供だからすぐ熱出すし、無理するとすぐに弱るし。
まったく。
俺は憎まれ役で十分なんだ。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!





