冒険者の登録
「冒険者登録を、お願いします」
ガインさんとハートさんに付き添われ、冒険者ギルドにやって来た。
ギルドの中は静まり返り、みんなが私達に注目をしている。
そりゃそうだよね。
急に聖女に冒険者登録って言われてもね。
「し、少々、おみゃ、お待ちください!」
いつもの受付のお姉さんが、声を裏返して奥へと消えた。
はは。小さな頃から来ているおなじみの場所なのに。
「おいおい、今日はどうした? お前らビビってんのか?」
にやけ顔のガインさんが大きな声で、みんなを挑発をする。
「どうなってんだよガイン!」
「わははは。ハートの娘が聖女とか聞いてねーぞ!」
「だから教会に娘を通わせてたのか? すっかり騙された」
黙って様子を見ていた冒険者達が、せきを切ったように喋り出した。
「大きくなったねぇ」と私のほっぺを突く色っぽい姉さんや「冒険者になるのか?」と目を丸くするいつものおじさん。
良かったー。
やっぱりここは変わらない。
ギルド長が顔だけ出して「よう。入ってこい」と顎で向こうを指す。
喧騒の中、保護者ふたりに連れられて、奥のギルド長室に入った。
「あんなに小さかったマリーが、まさか聖女様になるとはな! あのパレードは凄かった!」
膝をバンバン叩いて興奮するギルド長は、やっぱりギルド長だ。
「あの演出は教皇様とガインさんで考えたのですよ。ハートさんに花びら舞わせて、師匠にミストを降り注いでもらって」
「神秘的な演出だったろ?」
「ああ、凄かった。さすがの俺もマリーを拝みたくなったわ!」
がはははと豪快に笑うギルド長が、両手を組んで私を拝む。
「ちょっと。やめてくださいよ」
みんなが私の顔を見て「それはないな」と笑いだす。
あはははは。失礼だけど、何故かつられて笑っちゃう。
「で? 冒険者登録ってなんだよ」
ギルド長がテーブルに足を投げ出して、ソファーの背に腕を置いた。
「それがな。マリーを俺たちの正式なメンバーにしようと思ってな」
ギルド長が眉を顰めて、ガインさんとハートさんを交互に見つめる。
「ああ、マリーを冒険者にするつもりだ」
ハートさんも私を見ながらそう言った。
「よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げると「聖女稼業はどうすんだ?」と想定内の質問が来る。
「聖女の派遣は、教会から冒険者ギルドに指名依頼をしてもらう事になった。俺達 “黒龍” にな」
ガインさんが『俺』と親指を自分に向けた。
ふふふ。なんだかちょっと嬉しそう。
「なるほどな。聖騎士団の人件費や神官達の宿泊費や移動には金がかかるもんな」
ギルド長はうんうん頷いて腕を組んだ。
そう! まさに、それ。
「そうなのですよ。指名依頼ならギルドは手数料で儲かるし、私たちも儲かるし、教会は節約出来るし誰も損をしないのです!」
「教会の上層部にもこんな感じでマリーが説得したんだよな」
「はい!」
えへへ。そんなに褒められたら照れるな。
あの時は聖女が裏庭で極秘に育てられた事を正当化する為に、論点を変えただけだけど。
「そういや、回復薬が大量に出回るようになったのも、価格が下がったのも聖女のおかげだってな」
「確かに開発したのは私ですが、価格を下げる為に頑張ったのは教皇様ですよ」
「ほう。俺が想像していた教皇様のイメージとは全然違うな」
どんな想像だよ。
めっちゃオモシロおじいちゃんなのに。
「俺もずっと信用できなくてな。裏では権力に溺れた悪魔だと思ってたし」
ガインさんもわははと笑っている。
そんな事を考えていたなんて、初耳なのですが……。
「マリーが10年近くかけて開発した “魔力を使わず精製できる” 回復薬が教会の収入源になって、各地で魔力量の少ない人の手仕事になるとはね」
「あら、ハートさんが教会に入る前日に、魔法と剣を禁じたのですよ。 “今後は頭使え。情報と人脈を武器にしろ” ってね」
私がハートさんにそう言うと、びっくりした顔で口に手を当てる。
「それは学校に通うことが前提だった。もしかして10年間もそれを?」
当り前じゃないですか。
「ガインさんがハートさんに言わせたのですよね?」
「そうだけど、誰も見てない裏庭なら……」
ハートさんは気まずそうにしているし、ギルド長は『何の話だ?』とはてな顔だ。
私の中では、ガインさんに言われたことは絶対なのだ。
シルバーウルフに襲われたあの日に、心の底から身に染みたんだもん。
今更その染みは落ちないもん。
「その言葉だけを頼りに色々と頑張ったのですよ」
結果オーライだと笑うと、嬉しそうなガインさんに、久しぶりにゴリゴリと頭を撫でられた。
そして冒険者登録の為、ステータスをオープンする。
『フルで見せろ』とごねるギルド長を保護者ふたりで黙らせて、やっとギルドカードが発行された。
『教会みたいに煩くないから心配するな』って、そういう意味だったのか……。
Fランクだって。
ガインさん達に追いつけるのかな。
読んでいただきありがとうございました。
※明日から1日1話の更新になります。
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