リリーに説明
「あなた……マリーの事、聞きました?」
「ああ、くそっ。どうなっているんだ」
いつもより早く帰ってきた夫は、乱暴にドアを閉めると不機嫌そうに椅子に座る。
マリーが光魔法を使えるのなら、家から出したのは間違いだったのでは……。
「とにかくリリーに説明して、ちゃんと理解させるしかない。あのバカは何を言い出すか分からん」
「え、ええ。リリーを呼んでくるわ」
「こんな事になるとは……。マリーの奴……」
はぁ。どうしてこんなに、次から次へと。
料理に飽きて癇癪を起こしたリリーを叱ったばかりなのに。
今のリリーはとても神経質になっている。
なるべく夫と会わせたくなかったわ。
私はリリーの部屋の前でそっと声をかけた。
「リリー? ちょっといいかしら?」
「なに!?」
「大事なお話があるの」
「今じゃなきゃダメ!?」
「そうね」
リリーは不機嫌な顔で居間に入ると、夫の存在に気付き、急におとなしく椅子に座った。
「なに?」
「聖女様のパレードの事は耳にしたか?」
「何それ? 知らない」
夫はホッとしたように息を吐いてから、少し前のめりになる。
「お前の双子の姉、マリーは生きている」
リリーは意味が分からないという顔で、夫を見つめていた。
本当に言葉が足りない人なんだから。
「あのね。マリーはリリーの双子の姉なの。前に死んだと話したけれど、それは嘘なの。王都のおじいさまの所で暮らしているわ」
「おじいさまの所に?」
まだ訳が分からない、という顔で私を見る。
「マリーは加護を奪われた事に凄く怒って、出て行ってしまったの。二度とリリーに会いたくないって。だから死んだ事にしたのよ」
「そうだ。お前のせいでマリーが出て行ったんだ」
「なにそれ! 私が王都のおじいさまの所で暮らしたかった! 私もそっちが良かった!」
また始まった。
リリーはすぐにマリーになりたがる。
「お前が加護の横取りなんかしなければ! はぁ。とにかく、お前じゃ旅は無理だ」
「やだ。今からでも行きたい!」
「行きたきゃ勝手に行け。行った先でどうするんだ?」
あなた……。それを言うのは酷な話よ。
リリーは一人じゃ何も出来ない子なのに。
「私もおじいさまの所に住む!」
「お前のせいでマリーは出て行ったんだ。一緒に住める訳ないだろ」
「じゃあマリーをおじいさまの家から追い出せばいいじゃない」
「今度は居場所を奪う気か?」
「何も奪ってなんかいないもん! なんで奪ったって言うの! うわーーん!」
リリーはわんわん泣くし夫は怒って黙り込むし、どうしたらいいの……。
私は優しくリリーを撫でた。
「リリー。マリーは王都で聖女のパレードをしたの。これから噂になると思うけど、誰にも話しちゃだめよ」
「……。マリーが聖女?」
ケロっと泣き止んで、不思議そうに私を見る。
「そう。生まれつき光の適性があるマリーは聖女なのよ」
「光の加護があるのは私なのに?」
リリーの顔がみるみる憎悪に染まる。
「リリーは緑の適性でしょ? マリーとは違うのよ」
それっきりリリーも夫も何も話さなくなった。
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「聞いたかリリー。王都で聖女様のパレードがあったんだって。ルディがパレードを見て手紙をよこして来たんだよ」
キリカが興奮気味に手紙を広げて私に見せる。
フン、興味が無いから手で払った。
「あ、あのルディが食事のマナーや喋り方で苦労してるらしいぞ。あれでも通用しないんだな」
へぇ。あのお貴族様気取りのルディが……。
「あんなに変なしゃべり方で、あんなに奇妙な仕草だったのに? 王都って変なのー」
「聖女様もいるし、俺たちとは別世界なんじゃないのか?」
また聖女様。
キリカまでマリーの事。
「聖女様聖女様って。そればっかり。私だって聖女なのに……」
「ははは。俺の聖女はリリーだけだよ」
キリカがふざけて笑う。
知らないって気楽だよね。
「聖女様はキラキラと虹色の光が降り注いでいて、花びらが舞ってたんだって」
「へー。花びらが……」
周りに花びらが舞う中、光を浴びている所を想像してうっとりする。
本当なら私がそこにいたのに、マリーが私の聖女の力を奪ったから。
本当ならマリーがみすぼらしい服を着て、こんなに薄汚く狭い部屋で薄汚れた男といたはずなのに。
「しかも、民衆に向かって魔法をバンバンかけてたらしいぞ。ルディもかけて貰ったって」
あれ? 魔法が使えないんじゃなかったの?
父さんの話と違う。
もしかして、マリーの為に私を犠牲にした?
やっぱり!
「ねぇキリカ。絶対に秘密を守れる?」
「リリーがどうしてもって言うなら守る」
私はキリカに体を寄せて「ステータスフルオープン」と唱えた。
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リリー 女 15歳 緑適性
Lv.1
HP 10/10
MP 5/5
光属性Lv.1
加護
光の精霊
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