閑話 ボルドーさんのお店
「ボルドーを出せ」
店に大店の店主が殺到して、今日は営業どころじゃなくなっている。
「3階の一番大きな商談室へどうぞ」
フン。これで何人目だよ。
服だけを見てマリー様をつまみ出した癖に。
俺は平民の服を着ているのに、綺麗な白い肌やよく手入れされた髪、姿勢の良い立ち姿ですぐにピンと来たんだ。
追い返したらダメな客だってね。
しかも話し方は上級貴族のようでさ。慌てて水を出し、膝を突いたんだから。
後でボルドーさんにも凄く褒められた。
ボルドーさん自ら、教会まで送りに行くくらい、彼女は最初から特別だったのに。
まさか聖女様だったなんてな。
今じゃ彼女の私服も靴も日用品も、すべてうちの店で揃えてくれているんだ。
同じ物が欲しいと、今後は依頼が殺到するだろう。
あはは。ファーストヒールを貰ったのが嬉しかったんだってさ。
あんな昔の事なのに、覚えていてくれたんだな。
あの時はいくら相手がマリー様でも、黒神官にファーストヒールはやり過ぎだと思ったけど。
やっぱりボルドーさんの人を見る目は凄いや。
俺ももっと勉強しなくては。
眉間に皺を寄せた男が、また一人入って来る。
はぁ。
「ボルドーは?」
「3階の一番大きな商談室へどうぞ」
次から次へと、まったくもう。
そろそろ商談室のお茶でも、取り換えに行くかな。
「だから紹介してくれって言ってるんだよ!」
「独り占めなんて、許さないからな!」
「ちょっと会わせてくれるだけでいいんだよ」
あーあ。酷いもんだ。
階段の途中でも、はっきりと聞こえてくるよ。
聖女様に取り入ろうと必死なのは分かるけどさ。
もうちょっと節度ってものがあるだろ。
「くそっ! まさかあの教会の子供が!」
「見る目がないお前が言うな!」
「追い返したあの者は、とっくに裏に回したわ!」
おいおい。今度は大店の店主同士で喧嘩を始めたよ。
お茶は下げた方がいいかもしれない。
「ボルドー、お前知ってて隠していた訳じゃないよな?」
「まさか! 皆さんと同じですよ」
はぁー。そのやり取りも、見飽きてる。
朝から何度目だと思ってんだ。さっさと下に戻ろう。
気の毒に……とボルドーさんを見ると、目が合ってニヤッとされた。
いや、やめて。
突然ボルドーさんが立ち上がり、手をパン! パン! と大きく叩く。
「聖女様の担当は、10年前からずっとコーデンです。聖女様に御用聞きに行く際は、彼が一人だけ選んで連れて行きます。今後、交渉は彼と直接してください」
全員が一斉に俺を見る。
ちょっとー!! ボルドーさーん!!
その後は、店主達にもみくちゃにされながら、なんとか順番リストを作成出来た。
ボルドーさんに「さすがコーデンだな」と褒められたけれど、服はボロボロだし複雑だ。
でも、ボルドーさんに聖女様の専属担当に任命されたんだ。あはは。
「やったー! 初めての専属顧客!」
嬉しくて何度もひとりで飛び跳ねた。
母さん、俺、聖女様の専属になれたよ!
読んでいただきありがとうございました。
※次回から、本編に戻ります。ぜひ、お楽しみください。
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