パレードの裏側
聖騎士の先導で、鼓笛隊やら、大きな旗を掲げた人やら、みんなを引き連れ私達は大通りに出た。
うわぁ、人が多くて圧倒される。
告知は直前だったのに、こんなにも大勢の人が来てくれたのか……。
「ハート。平気か? シドさんは早めに回復薬を。フェルネット……は、そのまま頑張れ」
あ、フェルネットさん、索敵酔いしているのか……。
私と教皇様の張付き警護が、万一の時に戦えないと困るので、演出をしながら指揮するガインさんは大変だ。
娘の晴れの舞台だと気合を入れているけれど、こっちが心配になっちゃうよ。
みんなあんまり無理しないでね。
「もう、腕が限界じゃ」
はいはいと、教皇様にも疲労回復魔法をついでにかける。
右に左に疲労回復魔法を放ち、固めた笑顔で顔の筋肉がおかしくなりそう。
魔力をこんなに使うのは初めてで、量が減るとここまで疲労するとか初耳だよ。
ははは。疲労回復魔法で疲労とか、全然笑えないし。
---
「お疲れさまでした」
「うむ、疲れたが演出は成功じゃったな」
「ここまでする必要があったのですか?」
「今まで隠して来た事をうやむやにする為じゃ。今日はご苦労じゃったな。ゆっくりと休むがいい」
神官達に囲まれて教会に入る教皇様を見送ると、聖騎士の皆さんや、一緒に練り歩いて頂いた方達に、感謝を込めて疲労回復魔法の大盤振る舞い。
「すごいなぁ」「わぁ」「これはすごい」「体が軽くなる」
「あ! おじいさま!」
帰りを待っていたおじいさまを見つけて駆け寄ると「マリーは世界一だ」と、いつもの孫バカでホッとする。
ガインさん達も集まって、よくやったと褒められた。
えへへ。なんだかんだでガインさんのこの言葉が聞きたかったんだよね。
「今日で私は成人しました。これからは、仲間として宜しくお願い致します!」
ハートさんが花びらを舞わせると、師匠が空に光の粒を放ち、とても綺麗な虹を作る。
ガインさんとフェルネットさんが「まさに女神だな」と空を見上げて微笑んだ。
護衛のハートさんが手を差し出して「エスコートさせてください聖女様」とカッコよくキメるので、久々にシンデレラになりきって、あの豪華な控室まで送って貰う事にした。
---
「ふぅー。終わったー」
靴を脱ぎ棄てドレスを脱がなきゃ……って思いながらも、そのままソファーにダイブ。
「づがれだ……」
トントントン。
やばい。
慌てて靴を履き、ドアを開けると白神官さん達がゾロゾロと入って来る。
「聖女様、お着替えを」
そうでした。
確かに自分ひとりじゃ脱げないわ。
「ありがとうございます」
ドレスを脱がして貰い、お風呂に入ってメイク落として、すっきりさっぱりいつもの私に戻る。
「お疲れなら、少しお休みになって行かれたらどうでしょう?」
「はい。気力も体力も限界で。出来ればお願いしたいです」
「こちらへ」
パーテーションで区切られた場所に大きなソファーが用意してあり、本当に至れり尽くせり。
白神官さん達のサポートが完璧すぎて驚きだ。
ソファーにダイブすると、彼女達は私をひとりにしてくれる。
ちょっと休んだら復活したし、夕食の鐘が鳴ったので私は足早に食堂へ向った。
いつものようにトレーを取って入って行くと、モーゼのように道が開く。
そして辺りが静かになった。
……。え?
いつものようにビュッフェに向かい、おかずを適当に乗せ、教皇様から常に聖女として振舞うよう言われたので、いつも以上に優雅に食べ始める。
誰も動かない。
そしてみんなが見ている。
え?
聖女になる前からここにいたし、いいのよね。
あれ、ダメだったの?
うわーん。
ノーテさんはなんて言ってたっけなー。
早口だったから聞き流したよ。
頭の中でパニックになりながらも優雅に食べ続ける。
食事を終えて席を立ち、食器を片付け食堂を出ると、いつもの喧騒が戻ってきた。
「あれマリーだよね? 聖女様だったの?」
「聖女様を呼び捨てにする事は、私達が許しませんよ!」
「資料室の魔術師が聖女様? 嘘だろ。散々こき使ってたよ」
「俺なんか聖女様に怒鳴り散らした事があるんだぞ。もう終わりだ」
「そんな事より、明日から、資料室はどうなるんだよ!」
聞こえてくる内容のほとんどが資料室の心配で悲しすぎる。
一般職員にとってはそうでなくても、なぜか神官にとっての聖女は神にも等しい存在だ。
お姉様達とはもう、普通に会話出来ないのかな。
それはちょっとさびしいな。
そして聖女誕生のニュースは、思いのほか早く、国全体に広まった。
翌朝、控室に勢いよく入って来たノーテさんに『教会で着替えた後、家に帰らず、一般食堂で夕食を取り、馬車を待たせたまま控室に泊まっていく聖女がどこにいますか!』とめちゃくちゃ叱られた。
そういや成人したら教会を出て行く予定で、おじいさまの家に引っ越したのだった。
私が疲れているからと、神官さん達が気を使ってくれたみたい。
聖女には誰も注意が出来ないのか。申し訳ない。
今後は、教会内で食事を取る時には、神官に部屋まで運ばせるように、と。
門限を過ぎたら翌朝まで外出禁止は変わらないので、研究室に籠るときは気を付けるようにとも。
ははは。確かに説明を受けました。ごめんなさい。
今までと何も変わらないノーテさんに、何故かとても安心した。
読んでいただきありがとうございました。
※皆様のおかげで100万PV達成しました。
ありがとうございます。今後も宜しくお願い致します!
ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!
誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!





