ルディが見た聖女のパレード
おっと。
道行く人にぶつかりそうになる。
「アルフ先生。王都はとても人が多いですね」
「迷子になるなよ、ルディ。待ち合わせの場所は、この先だ」
アルフ先生は僕の火魔法の先生だ。
辺境の小さな村を出てから数か月。
王都に着いた僕は門衛に、外壁門まで先生を呼んで貰うようお願いした。
来て貰って良かったよ。
本当に迷子になりそうだ。
僕はアルフ先生の紹介で、魔法を教える教師になる為、王都にいる先生の師匠の所で下宿させて貰える事になった。
たどり着いた王都はお祝いムード一色で、なんと明日、聖女様のお披露目パレードが行われるらしい。
全然知らなかった。
「アルフ!」
古い魔道具店の前で、恰幅の良い年配の男性が人混みの中、僕たちに手を振っている。
「先生!」
僕たちはその男性に駆け寄り、人混みを避けて脇道に入った。
「本日はお忙しい所、ありがとうございます。これは先日お話しした、私の教え子のルディです。ルディ、こちら私の師のオニキス先生だ」
「ルディです。よろしくお願いします!」
「よろしくな。パレードに間に合って本当に良かったな」
オニキス先生はとても優しそうで、とても上品な雰囲気の方だ。
流石、都会だな。
人も街も洗練されている。
「新しい聖女様が生まれていたのだな。今後はお顔を拝見する機会が増えそうだ」
「僕と同じ年なんですね。全く知りませんでした」
「私も全然知らなかったから驚きさ」
オニキス先生もアルフ先生も、聖女様の誕生に興奮していた。
そりゃそうだよな。もう何十年も誕生してなかったんだ。
ご高齢の聖女様の方は、そろそろ引退すると言う噂だし。
都会じゃ薬学も進歩していて、とても効果の高い回復薬も開発されているけれど、やっぱり聖女様がいるって言うのは希望だもんな。
「今日はルディの勉強に必要な物を、一緒に揃えようと思ってな」
オニキス先生は先ほどの古い魔道具店で、いくつかの魔道具を勧めてくれた。
買い物が終わると僕たちはアルフ先生と別れ、オニキス先生の屋敷に向かう。
「今日からお世話になります」
「好きに使ってくれていいからね」
先生は時々弟子を下宿させていたようで、同居には慣れた様子だった。
「旅の疲れもあるんだ。今日は早く寝なさい」
「はい」
早めに風呂に入り、今日からここが僕の部屋になるんだと、改めて部屋を見回してからベッドに入る。
荷物は明日解けばいいや。
それにしても王都は凄い都会だな。
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朝早くアルフ先生が、僕と一緒にパレードを見に行く為に、屋敷まで迎えに来てくれた。
「すごい人だな」
「すごい人ですね」
「ですね」
近隣の街からも人が集まり、王都は人で溢れかえっている。
大通りには出店や大道芸、吟遊詩人の歌や踊り。
舗装された道に美しい街並み。
辺境の村とは全く違う景色に圧倒された。
「僕みたいな辺境の村から来た人間にとって、ここは別世界ですよ」
「あはは。普段はここまで賑やかじゃないさ。今日はお祭りだ」
何とかパレードが見学出来る場所を確保し、聖女様をドキドキしながら待つ。
少しずつ歓声が近付いて来ると、心臓が高鳴りバクバクしてきた。
先導の聖騎士が通り過ぎ、最初に目に飛び込んできたのは、空を舞う花びら。
次に聖女様に降り注ぐ、虹色に煌めく光の粒。
細い肩と白い首筋が儚げで、ハーフアップのベージュの髪はキラキラしている。
沢山の聖騎士に囲まれ、屋根のない豪華な馬車に乗り、教皇様の隣で優雅に微笑む彼女は、まさに女神様だ。
あぁ、なんて美しい、なんて美しい人なんだ……。
生まれて初めて、言葉で言い表せないほどの感動を覚えた。
「うわぁ!」
聖女様がこちらに向かって手をかざすと、背中がほんのり暖かくなり急に体が軽くなる。
僕たち全員に、疲労回復の魔法が放たれたんだ。
すごい魔力量だ、桁が違う……。
聖女とはこういうものなのか。
これは国民が熱狂するはずだ。
「先生……」
「ああ。本物は初めて見たが、聖女様は我々とは格が違うんだな」
「感動です」
先生方も聖女様を見て惚けている。
歓声がどんどん遠ざかっていくのに、しばらく誰も動く事が出来なかった。
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