教皇様に悪魔の告白
「うむ。側近まで下がらせて、ふたりだけで折り入って話しがしたいと聞いたが、どのような用件じゃ?」
扉が閉まると教皇様は、ニコニコしながら私の前まで歩いて来た。
「申し訳ございません!!」
緊張で頭が真っ白になり、私は考えて来た全てを忘れて土下座した。
ごめんなさい、教皇様!
おそらく、土下座を初めて目にした教皇様は、慌てふためき「資料室が燃えたのか?」とか「別室に同じ資料が保管されておる」とか「怪我はなかったか」などと言いながら、肩を支えて私を起こす。
「違うのです。ステータスを偽っていたのです!」
そう言ってステータスをフルオープンした。
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マリー 女 14歳 光適性
Lv.112
S級冒険者「黒龍」所属
HP 1073/1073
MP 78028/78028
光属性Lv.28
闇属性Lv.25
火属性Lv.32
水属性Lv.49
緑属性Lv.18
土属性Lv.22
風属性Lv.16
加護
緑の精霊
光の女神
闇の女神
火の女神
水の女神
緑の女神
土の女神
風の女神
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「な!」
教皇様が固まってしまった。
私も最初見た時はそうでした。
教皇様、本当にごめんなさい。
あまりにも長い時間、教皇様が動かなくなったので、いつもお茶を入れてくれていたモーラス司教様の代わりに、私が紅茶を準備する。
処理落ちしたままの教皇様をソファーに座らせて、その前に紅茶を置いた。
「マリー……」
「申し訳ございません!」
隣に座り、もう一度深々と頭を下げると、教皇様は頭を抱えながら「それはもうよい」と手をひらひらさせる。
「きちんと説明してくれるか?」
真剣な顔つきになった教皇様を前に、私もきちんと姿勢を正した。
「はい。実は、6歳の時、違法なアイテムを使用し、ステータスを誤魔化しました。この、複数の加護がある為に、悪魔の子として教会に拘束されるのが怖かったからです」
「そのアイテムはどうしたのじゃ? この加護はどうしたのじゃ?」
「アイテムは返却済みです。加護は……」
私は加護を貰ったあの日の出来事を、包み隠さず全て話す。
「なるほど……女神様が……」
教皇様は放心状態で、上を向いてため息を吐いたり、考え込んだりしている。
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神が7種の女神を作り、女神の眷属が精霊。
それぞれの精霊は人々に加護を与える。
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この教会の教えの女神が存在したのだもの。
驚くのも無理ないよね。信じてくれるといいけど。
「マリー。複数の加護があっても、教会がおぬしを悪魔として拘束する事はない。安心せい。今後、おぬしには衣食住と安全の全てを、教会が提供する」
悪魔の話は加護の横取りの抑止力の為に、教会が広めた噂だと。
そして、歴代の聖女達を神官達が神の様に扱うのは、聖女の仕事が崇高なものだから。
そんな崇高だけど、かなり大変な仕事を私にお願いしたいと。
その為に教会はどんな協力でもしてくれるらしい。
「身の安全の為に護衛を付けるが、公務以外の行動は強制しない。聖女教育は必須じゃがな」
聖女派遣の公務以外にも、外交や寄付集めの茶会や夜会などがある為、マナーや一般常識、ダンスなどの教養が必要だからと。
寄付集めの公務は強制はしないが、出来るだけ参加して欲しいと言われた。
「あ、あと、結婚は自由にできますか?」
「結婚?」
「ほら、私って光適性じゃないですか。どこかのお貴族様の妾とか側室にされて、愛のない結婚生活を送るのかと心配で心配で……」
私にとって一番の懸案事項だった結婚についても、この際ついでに確認。
「め、妾? 側室?! なんて心配を……。もちろん自由じゃ。マリーが聖女でなくても、本人が望まぬ結婚なぞ、わしが許さんわい。安心せい」
教皇様は驚き呆れかえった後、優しく微笑みながら私の肩を軽く叩く。
なんと! 確かにすべて脳内妄想だったけど。
カトリーナには、後でお礼の手紙を書いておこう。
「今後、聖女の派遣要請が出たら、護衛に第二聖騎士を、側仕えに神官を、いくらでも連れて行ってかまわん。この国の聖女は、現在ご高齢の聖女とマリーだけじゃ。人手が足りない時は、他国の聖女も応援に来るが、逆に他国への応援もある」
「護衛はS級冒険者でもいいですか?」
「国内ならな。S級冒険者の国境越えは国が嫌がるからな」
確かに。
「じゃあ、国内で聖女に派遣要請する時は、冒険者ギルドに依頼してください。私たち “S級冒険者 黒龍” が引き受けます! 護衛も側仕えも必要ありませんので、かなり経費削減できますよ!」
ドンと胸を叩くと、教皇様は私の迫力に「そ、そうか……ははは」と力なく笑う。
「これは……何とも……。長い間いらぬ気苦労をさせて、本当にすまなかったのぉ」
教皇様は申し訳なさそうな顔で私を見た。
いやいや、教会の中の事は外の人間からすると、未知だから恐れていただけですって。
「いえいえ。勝手に想像して、勝手に誤解した私が全部悪いのです。もっと早く教皇様に相談すれば良かったのです」
信じてくれて良かったーー。
そして信用して話して良かったーー。
流石にあの加護に関しては、教皇様とモーラス司教様だけの秘密にすると言っていた。
「今後は覚悟して欲しい。おぬしが成人したら、聖女のお披露目をする。聖女誕生は、何十年も国民が待ち望んでいた希望じゃからの」
「はい」
「そしておぬしは自身を誇るがよい。おぬしが世に出した “魔法を使わず生成出来る回復薬” のおかげで、各地で回復薬が量産出来るようになった。おかげで教会の資金源が大きく増え、薬が安く提供出来るようになったのだぞ」
「良かったー! 光魔法の事を隠していたから、罪悪感で必死だったのですよ」
教皇様は嬉しそうに「ふぉふぉふぉ。そうじゃったのか。成人してからも、離れの自室や裏庭は自由に使うがよい」と私が望んでいた事を逆に提案してくれた。
「最近は薬草の議題が多くてな・・」と呟いていたのは聞き流すことにする。
その夜はおじいさまの家で私の “黒龍” 正式加入歓迎会が盛大に行われた。
ちなみにステータス偽装は6歳の時だったし、時効にしてくれました。
ありがとう教皇様。
読んでいただきありがとうございました。
※タイトルでネタバレしないよう何度も変更してごめんなさい。
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誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!





