15歳直前 マリーの進路
「お前、そろそろ15歳だろ。将来はこのまま白神官になって、資料室の魔術師として就職するのか?」
資料室の魔術師……。
でも確かに、このまま流されたらそうなりそう。
前世の年を越えて、この私がとうとう成人する。
何も考えず、ここまで楽しく過ごしてしまった。
「どうしましょう」
保護者全員が揃ったおじいさまの家のリビングで、私は初めての進路に頭を抱えた。
「お前は何に、なりたいんだ?」
みんなでテーブルを囲み、ガインさんが私を正面から見据えて『何でも言ってみろ』と優しく微笑んでくれる。
薬草と回復薬を研究する。これは一生変わらない。
でも、冒険者になって、尊敬するガインさん達に少しでも近づきたい。
戦闘もした事が無いのに、甘いのかな、迷惑かけちゃうかな……。
いや、ここは相談の場。
遠慮せず、全てを吐き出し、聞いてもらおう。
「……甘い考えかもしれませんが、冒険者になりたいです。そして将来は恋愛結婚を……」
パコン。
苦笑いの師匠に頭をはたかれる。
いや、ふざけてないってば。
「恋愛結婚は置いといて、冒険者になりたいってのは本当か?」
ガインさんが嬉しそうな顔で前のめりになった。
「はい。冒険者になって、皆様のような尊敬出来る人間になりたいです。当面の目標は、皆様に見合う程度の実力を付け “黒龍” に正式に加入する事です。また、将来、寿退社した暁には転職し、資料室の管理、薬草園の管理、回復薬の研究などをしながら、余生を過ごす事が夢です」
みんな目をぱちくりさせて「寿退社?」「転職?」「余生?」などと叫んで、ぐったり脱力する。
ちょっと夢を詰め込みすぎちゃったかな。
むふふ。つい欲張ってしまった。
「ははは。まさか嬢ちゃんが、私達を目指したいと言ってくれるとはな」
師匠が嬉しそうに私の肩を揺らす。
えへへ。ちょっと照れる。
「安心しろ。お前は俺たちのパーティーメンバーのままだ」
「嬉しいじゃないか。僕は応援するよ」
「これからは仲間だな。とうとう父親卒業か」
反対するどころか、みんなは嬉しそうに応援してくれた。
うふふ。また、みんなと一緒に居られる!
冒険者登録もしていないのに、あれからずっとメンバーのままなんだよね。
距離が離れていると経験値が入らないから、あまり意味はなかったのに。
それともう一つ。
私は昔からずっと考えている事がある。
それは、教皇様に本物のステータスを見せて、正直に話す事だ。
冒険者の仕事と回復の仕事。
今の私なら、両立出来ると説得出来るはず。
でもそれは、複数の加護持ちの悪魔として、捕らえられる可能性も。
あまりにリスクが大きいので、ずっと避けてきた。
この機会に全てを話し、ガインさん達の意見も聞かせて貰いたい。
私が何度か言い淀んでいると、師匠が「何でも言ってみろ」と頷いてくれる。
「実は……」
私はこの10年近くの間、教会や教皇様に、どれだけ良くして貰ったか。
そんな教皇様を騙したまま生きて行くのは嫌だ。
教皇様のお人柄を、包み隠さずみんなに語った。
「今の私は教会で “かなりの実績と信用を得ている” ので、リスクが少ないと思うのです。ぜひ、皆様のご意見をお聞かせください」
みんなは押し黙り、それぞれに考え込んでしまった。
おじいさまは難しい顔をして、腕を組んで唸っている。
私はとてもとても緊張しながら、みんなの言葉をじっと待った。
長い長い沈黙の後、最初に言葉を発したのは、意外にもフェルネットさん。
「僕はいいタイミングだと思うよ。どのみち聖女としての活動は成人後だし。教皇様さえ黙認してくれたら、普通の聖女として扱って貰えると思う」
「教会側には、非公開で聖女教育期間中だったと誤魔化せるしな」
続いてハートさん。
「嬢ちゃんにはガインが聖女教育を叩きこんでいたから、問題はないか……」
師匠が唸りながらも、そう言う。
「俺は正直怖い。確かにそれも想定して、困らないように教育した。だが俺たちの娘として育ててきたマリーが、万が一望まない人生を歩む事になったらと思うと恐ろしい」
ガインさんは「教会の力は大きすぎるんだ」と項垂れて、師匠に肩を叩かれ居心地悪そうに笑う。
そしてみんながおじいさまの顔を見た。
今まで成り行きを見守っていたおじいさまが、重い口を開く。
「わしは……マリーが信じた人を信じるだけだ。心のつかえが取れぬまま冒険者になっても、後悔するだけだと思うぞ」
目を真っ赤にしたガインさんが、私を見て頷いた。
「俺もマリーが信じた人を信じる。すべてお前に任せるよ」
「ここまで育てていただき、本当にありがとうございました」
感極まって涙が溢れ、感情のままに昔の癖で頭を深々と下げてしまう。
そんな私をみんなが抱きしめてくれるから、凄く凄く嬉しいのに、子供のように大泣きしてしまった。
後は全部、私次第。
読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!
誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!





