表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第二章 教会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/163

15歳直前 マリーの進路

「お前、そろそろ15歳だろ。将来はこのまま白神官になって、資料室の魔術師として就職するのか?」


 資料室の魔術師……。

 でも確かに、このまま流されたらそうなりそう。


 前世の年(14歳)を越えて、この私がとうとう成人する。

 何も考えず、ここまで楽しく過ごしてしまった。


「どうしましょう」


 保護者全員が揃ったおじいさまの家のリビングで、私は()()()()()()に頭を抱えた。



「お前は何に、なりたいんだ?」



 みんなでテーブルを囲み、ガインさんが私を正面から見据えて『何でも言ってみろ』と優しく微笑んでくれる。


 薬草と回復薬を研究する。これは一生変わらない。

 でも、冒険者になって、尊敬するガインさん達に少しでも近づきたい。


 戦闘もした事が無いのに、甘いのかな、迷惑かけちゃうかな……。


 いや、ここは相談の場。

 遠慮せず、全てを吐き出し、聞いてもらおう。


「……甘い考えかもしれませんが、冒険者になりたいです。そして将来は恋愛結婚を……」


 パコン。

 苦笑いの師匠に頭をはたかれる。


 いや、ふざけてないってば。


「恋愛結婚は置いといて、冒険者になりたいってのは本当か?」


 ガインさんが嬉しそうな顔で前のめりになった。


「はい。冒険者になって、皆様のような尊敬出来る人間になりたいです。当面の目標は、皆様に見合う程度の実力を付け “黒龍” に正式に加入する事です。また、将来、寿退社した(あかつき)には転職し、資料室の管理、薬草園の管理、回復薬の研究などをしながら、余生を過ごす事が夢です」


 みんな目をぱちくりさせて「寿退社?」「転職?」「余生?」などと叫んで、ぐったり脱力する。


 ちょっと夢を詰め込みすぎちゃったかな。

 むふふ。つい欲張ってしまった。


「ははは。まさか嬢ちゃんが、私達を目指したいと言ってくれるとはな」


 師匠が嬉しそうに私の肩を揺らす。

 えへへ。ちょっと照れる。


「安心しろ。お前は俺たちのパーティーメンバーのままだ」

「嬉しいじゃないか。僕は応援するよ」

「これからは仲間だな。とうとう父親卒業か」


 反対するどころか、みんなは嬉しそうに応援してくれた。

 うふふ。また、みんなと一緒に居られる!


 冒険者登録もしていないのに、あれからずっとメンバーのままなんだよね。

 距離が離れていると経験値が入らないから、あまり意味はなかったのに。



 それともう一つ。



 私は昔からずっと考えている事がある。


 それは、教皇様に本物のステータスを見せて、正直に話す事だ。


 冒険者の仕事と回復の仕事。

 今の私なら、両立出来ると説得出来るはず。


 でもそれは、複数の加護持ちの悪魔として、捕らえられる可能性も。

 あまりにリスクが大きいので、ずっと避けてきた。


 この機会に全てを話し、ガインさん達の意見も聞かせて貰いたい。


 私が何度か言い淀んでいると、師匠が「何でも言ってみろ」と頷いてくれる。


「実は……」


 私はこの10年近くの間、教会や教皇様に、どれだけ良くして貰ったか。

 そんな教皇様を騙したまま生きて行くのは嫌だ。

 教皇様のお人柄を、包み隠さずみんなに語った。


「今の私は教会で “かなりの実績と信用を得ている” ので、リスクが少ないと思うのです。ぜひ、皆様のご意見をお聞かせください」



 みんなは押し黙り、それぞれに考え込んでしまった。

 おじいさまは難しい顔をして、腕を組んで唸っている。


 私はとてもとても緊張しながら、みんなの言葉をじっと待った。



 長い長い沈黙の後、最初に言葉を発したのは、意外にもフェルネットさん。


「僕はいいタイミングだと思うよ。どのみち聖女としての活動は成人後だし。教皇様さえ黙認してくれたら、普通の聖女として扱って貰えると思う」


「教会側には、非公開で聖女教育期間中だったと誤魔化せるしな」


 続いてハートさん。


「嬢ちゃんにはガインが聖女教育を叩きこんでいたから、問題はないか……」


 師匠が唸りながらも、そう言う。


「俺は正直怖い。確かにそれも想定して、困らないように教育した。だが俺たちの娘として育ててきたマリーが、万が一望まない人生を歩む事になったらと思うと恐ろしい」


 ガインさんは「教会の力は大きすぎるんだ」と項垂(うなだ)れて、師匠に肩を叩かれ居心地悪そうに笑う。


 そしてみんながおじいさまの顔を見た。

 今まで成り行きを見守っていたおじいさまが、重い口を開く。


「わしは……マリーが信じた人を信じるだけだ。心のつかえが取れぬまま冒険者になっても、後悔するだけだと思うぞ」


 目を真っ赤にしたガインさんが、私を見て頷いた。


「俺もマリーが信じた人を信じる。すべてお前に任せるよ」


「ここまで育てていただき、本当にありがとうございました」


 感極まって涙が溢れ、感情のままに昔の癖で頭を深々と下げてしまう。

 そんな私をみんなが抱きしめてくれるから、凄く凄く嬉しいのに、子供のように大泣きしてしまった。



 後は全部、私次第。


読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!

誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
b8gg8nd6c8mu9iezk3y89oa1eknm_l3q_1cu_1xg_1p76v.jpg

3hjqeiwmi49q1knt97qv1nx9a63r_14wu_1jk_qs_6sxn.jpg
― 新着の感想 ―
今更だけど奪った加護では魔法が使えない時点で、奪ったとか言われる事あるのか? あのアホ親ですら知ってる常識なのに
マリーが教会がいいところだと思ってるのに驚き。 普通の家庭で育った子供だったら耐えられない環境だったよね。 確かにいい人もいたけど、かなりの労働をさせられていたのに…
[良い点] あったかい(´;д;`)ブワッ 好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ