ファーストヒール
「すみません。買い物に行きたいので、護衛を頼みたいのですが……」
聖騎士の練習場に顔を出すと、第三聖騎士団が稽古をしていた。
「お、マリー。この間は強力な回復薬ありがとな!」
作りたての強力な薬を無料で治験して貰ったのに、何故か感謝されて心が痛い。
「はは。こちらこそ、いつも治験ありがとうございます」
いいんだ、いいんだと第三の人達は笑う。
ちゃんと説明したけどホントに分かってるのかな。
「あれ? そんな綺麗な格好をして、デートか?」
いやいや、ダンスの練習用ドレスを来てデートは無いですって。
女心が分かってないなぁ。そんなんじゃモテないぞ。
「違います。靴を買いに行くので、護衛をお願いしたくて」
「それなら俺が行く。行きたい奴は剣を取れ」
「よし、俺が行く。勝負だ」
「なら俺もだ!」「俺も!」「俺も!」
あなた達って、戦う理由があればなんだっていいのね。
これだから『第三は』って言われちゃうのよ。
練習場は大盛り上がりで、何の騒ぎだと第一聖騎士団がゾロゾロと覗きに来た。
「あいつら何してんの?」
呆れたようにヴィドバリーさんが笑う。
「出かける為に護衛を頼んだら、戦いが始まったのです」
「馬鹿なんだな」
ははは、直球過ぎる。
「ちょっと待ってて」と馬を連れて来ると、私の手を引っ張り上げて横抱きに乗せてくれた。
「いつもすみません」
「いいんだよ。弟の友達だしな。いつでも専属になるって」
確かにエヴァスさんとは仲がいいけど、だからと言ってヴィドバリーさんにそんな……。
いつも護衛してくれるのはありがたいけど。
この兄弟は、私の知る貴族とは全然違うから拍子抜けしちゃう。
領民思いだし。
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ボルドーさんのお店に着くと、いつものように馬番さんに馬を預けて正面からお店に入る。
ふふ。最初は裏から入っていたんだよなぁ。
「マリー様。本日はどのようなご用件で?」
かなり前からボルドーさんに『マリー様』って呼ばれるようになった。
これも、もう慣れた。
「ダンスの練習用の靴を買いに来ました」
「それはそれは。どうぞこちらにお座りください」
勧められるままお貴族様風に優雅に座ると、ボルドーさんは嬉しそうにコーデンさんに色々指示しいくつか私の足に合わせる。
「練習用という事は、今後夜会に?」
「今すぐでは無いと思いますが、将来的に……。まだよく分かりません」
よく考えたらそんな機会があるとは思えないな。
それに、ダンスも習い始めたばかりだし。
「マリー様がご希望した訳では、ないのですか?」
「希望したと言えば希望したのですが、家族からも勧められて……」
ダンスの事だよね? 夜会の事なら違うけど。
あれ、訂正した方がいいのかな?
「なるほど、なるほど」
ボルドーさんは頷きながら3センチの踵が付いた、スクエアトゥの白い靴を私に履かせて手を取った。
するとすごく上手にエスコートし、軽くダンスをする。
ヴィドバリーさんが保護者のような目で、微笑ましく見てて笑っちゃう。
「マリー様はすごく筋がよろしいのですね」
「ありがとうございます」
ボルドーさんのエスコートが絶妙で、とても踊りやすい。
この人、凄いな。
「こちらで問題なさそうですね」
「はい」
前世も含めてこれが初めてのヒールの付いた私の靴。
大事にしよう。
「ファーストヒールを当店から、プレゼントさせてください」
ボルドーさんが靴を箱に入れて、渡してくれる。
ファーストヒール? なにそれ?
そんな習慣、ラノベでも読んだ事が無い。
ヴィドバリーさんを見ると嬉しそうに頷いているので、ありがたく受け取った。
貰っちゃっていいのかな?
貴族の習慣なのかな?
帰り道、ヴィドバリーさんに「ファーストヒールってなんですか?」と聞いてみた。
その店の店主が将来を見込んだ特別な娘に、最初の練習用のヒール靴をプレゼントして『本番用のドレスや靴は当店で買ってね、末永くお付き合いしてね』と願いを込めるらしい。
「ファーストヒールを貰えるなんて、とても光栄な事なんだぞ。良かったな」
なんと!
成人するまでは教会にある本番用のドレスや靴を借りるのに!
とても申し訳ない事をしてしまった。
せめて末長く付き合おう。
元々私にとって特別な靴だったのに、これは更に特別な靴になった。
成長して履けなくなってもこの靴は一生大事にしよう。
ふふふ。履くのが楽しみだな。
読んでいただきありがとうございました。
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