リリーが真実を知った日
「父さん、私もみんなみたいに魔法が使えるようになりたい」
テーブルの向かいに座る父さんは、表情を硬くしたまま「無理だ」と言う。
「ねぇ、なんで? なんでダメなの?」
「リリー……」
「母さんは黙ってて! 父さん! ちゃんと説明してよ!」
父さんと母さんは、顔を見合わせて頷いた。
やだ、何? 怖い。
「そろそろ話してもいい頃だな。ところで、ステータスを見たのは初めてか?」
「うん」
「昔、教えたはずじゃ……いや、禁止にしたのか」
父さんはため息交じりに「ステータスフルオープンと唱えなさい」と言った。
「ステータスフルオープン?」
---------------------------
リリー 女 10歳 緑適性
Lv.1
HP 10/10
MP 5/5
光属性Lv.1
加護
光の精霊
---------------------------
うそ、これ “ひかりのせいれい” って書いてあるよね?
「きゃー!! 私に光の精霊の加護! 私、聖女だったんだ!!」
あまりにも嬉しくて、悲鳴を上げた。
あの時白い光を見たと思ったのに、父さんが違うって言ったから!
やっぱりあれは、夢じゃなかったんだ……。
それなのに父さんも母さんも悲しそうな顔で私を見る。
あれ? 字が違うのかな?
ちょっと不安。
「なに? 違うの?」
「よく見ろ。お前の適性は緑だ」
「でも、加護は光だよね?」
「ああ」
父さんは深くため息をついて姿勢を正した。
なんで今まで、私が聖女だって事を隠して来たんだろう?
父さんのただならぬ雰囲気に緊張する。
「適性のない加護は使えない、というのは知っているよな?」
「それは聞いた事あるけど……」
父さんは、ゆっくり、はっきりとした口調で続ける。
「お前は光の適性が無いから、光の加護があっても使えない。加護がないのと同じなんだ」
やっぱり光の加護なんだ。びっくりさせないでよ。
「意味わかんない。だって光の加護なんだよね?」
みんなに光の加護を自慢しよーっと。
みんなの驚いた顔が早く見たいなー。
へへへ。ミーナに自慢したら悔しがるかな。
「リリー。落ち着いてよく聞きなさい。お前に双子の姉がいるのは、覚えているだろ?」
「うん。なんとなくは。生きてるの? みんなが話題を避けるから、死んだのかと思ってた」
「ああ、ここで生きてはいない。光適性があったのはお前の姉で、姉の加護をお前が奪ったんだ。そこにあるのは姉の加護だ」
ふーん。やっぱり死んでたんだ。
「で? 私、早く自慢しに行きたいんだけど」
「いいから座りなさい! 加護を貰った時の事は、覚えているだろ?」
うずうずして腰を上げたら怒鳴られた。
もう、めんどくさいなぁ。
早くしてよ。
「んー、なんとなくは覚えてる。きれいな光が見えて飛びついたけど……あれやっぱり光の加護だったんだよね。すごーい。これでいい?」
「なんてことを……」
母さんが両手で顔を覆って泣き出した。
え? なんで泣くの?
嬉しくないの?
自分だけが浮かれていて、両親の重い雰囲気に戸惑ってしまう。
「どういう事?」
「奪われた姉は、どうなると思う?」
は?
「それ、私に関係ないんだけど」
「お前と同じ “加護無し” になったんだ」
父さんが、徐々に苛立ち始めてなんか怖い。
それに、同じじゃないもん。
「私には光の加護があるじゃない」
「光の適性がないから、使えないと言ったろ?」
「光の加護があるのに?」
「そうだ。……はぁ。お前にはまだ、理解するのが難しいのか……。あの子はあの年で、私よりも早く、すべてを理解したというのに……」
父さんはため息を吐いて「それで? 字は書ける様になったのか?」と聞いた。
出来ないの知ってるくせに……。
「……まだ」
「なぜまだ出来ないんだ? いつまでそうやって、嫌なことから逃げ回る気なんだ」
「逃げてないもん! 魔法を教えてくれたら、やってあげるって言ってるの! それに、私は聖女なんだから命令しないで!」
バン!!
急に父さんが机を叩いて、びっくりした。
「二度と自分を聖女と言うな! もし言ったら教会に入れるから、そのつもりでいなさい!」
何、急に。孤児にするって脅すなんて信じられない。
結局、魔法を教えてくれる話はどうなったの。
もう言える雰囲気じゃないし。
父さんは「くそっ! あいつさえいたら、こんな事には……」と悔しそうに呟き、怒って自室に帰ってしまった。
母さんは、目に涙を溜めて私を見る。
「リリー。光の加護を奪った罪は、死罪なのよ」
え?
じゃあ、姉がわたしの光を奪ったって事?
「なにそれ。許せない。双子の姉は、それで死罪になったの?」
「違うわ。奪ったのはリリー。あなたよ。あなたが全部悪いの。まだ10歳だから理解するのは難しいかしらね」
「なんで私が? 死罪になっていないじゃない」
さっき死罪って言ったばかりじゃない。
死んだのは姉の方じゃない。
「ほんの小さな子供だったから、許されたの。でもね『リリーが “光の加護” を持っている事を、周囲が知ったら投獄する』と言われたわ。だからよく聞いて。この事は絶対に秘密にするのよ」
「白い光に飛び付いただけなのに? 持ってるだけで?」
「それが奪った証拠になるのよ」
なにそれ。なんで急に悪者にされちゃうの。
「じゃあ光の加護は、誰にも自慢できないの?」
「そうよ」
「魔法が使えないのも、そのせいなの?」
「そうよ」
「私の加護は死んだ姉が奪ったの?」
「違うわ。あなたが姉の加護を奪い取った時、自分の加護を捨てたのよ。あなたに色々と教えてくれていた、姉と一緒にね」
捨ててなんかいない。
欲しい方に飛び付いただけだもん。
「そんな……」
だったらいらなかったのに。
なんで止めてくれなかったの。
全部、全部、姉のせいだ。
読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!
誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!





