10歳になったリリー
「魔法を教えてくれたら、字を書く練習をするってば!」
「リリー。読み書きが先って、お父さんに言われたでしょ?」
もう10歳になったのに、父さんも母さんも、なんで魔法を教えてくれないの。
頑張って少し字が読めるようになったのに!
書く方もだなんて知らない!
嘘つき!
みんな小さな頃から魔法を親に教えて貰ったり、どこかの偉い先生を雇ったりしてるのに。
「ルディは魔法の先生に、火魔法を習ってたよ。私も魔法の先生がいたら出来るのに! ルディだけずるい! 私も習いたい!」
どんなにお願いしても、母さんは悲しそうな顔で笑うだけ。
本当にイライラする。
「もういい。遊び行ってくる!」
気分を変えて広場に行くと、1つ年上のワースと、同じ年のミーナが楽しそうに歩いて来た。
「どこに行くの?」
「今日はワースと二人で、お祭りの時の踊りを練習しに行くの」
ミーナは頬を染めて、とても嬉しそうにワースを見る。
へぇ、楽しそう。
「私も行きたい!」
「二人一組だから、リリーも誰か連れて来ないとダメよ」
「だったら私がワースとじゃダメ?」
ちょっと首をかしげて言えば、ワースが「わぁっ」っと喜んでくれる。
ふふ。
ミーナが眉を顰め、急に不機嫌になって怒り出した。
「じゃあワースと行ってよ! あたし、キリカを誘って来るから!」
ミーナってばすぐに怒るんだから。
でもそう言われると、キリカの方が良かったかも。
「うふ。やっぱり私もキリカがいいかな」
せっかくワースを譲ってあげたのにふたりとも不機嫌になるから、私は面倒になってキリカを誘いに行く事にする。
ホント、女ってめんどくさいな。
意味わかんない。
広場の近くの小さな家の2階にあるキリカの部屋を見上げ、私は大きく息を吸った。
「キリカー。お祭りの踊りの練習に行こうよー」
キリカが窓から顔を出し、私を見つけて笑顔になる。
「今、ルディが来てるから後でなー」
何それ。キリカの癖に。
「私も混ぜてー」
しばらくするとドアを開けてくれた。
「いいけど我儘言うなよな」
「ルディが魔法を教えくれたら、我儘言わないもん」
急にキリカの機嫌が悪くなり、顎を上げて腕を組む。
「自分の名前すら書けない癖に。魔法より先にそっちだろ?」
また、その話。
魔法を教えて貰えるまで、絶対に母さんが喜ぶ事なんかしないんだもん。
何にも知らない癖に。
「意地悪言うキリカなんて、嫌い」
「ごめんって。そんなんじゃないって。俺が字を教えるって言ってるだけだよ」
キリカってば私には弱い癖に、すぐにお説教をするんだから。
キリカは黙って、私の言う事を聞いていればいいの。
ふんだ。
私たちが階段を駆け上がり部屋に入ると、ルディが半透明のパネルを眺めている。
「何それ?」
「おい! 勝手に他人のステータスを見るなよ!」
覗き込んだ私に驚いて、ルディはすぐにパネルを消した。
見えなかったもん。
「そんな言い方しなくても……」
少し泣きそうな顔をして見せると、ルディとキリカが凄く慌ててる。
ふふ。
「初めて見たんだもん」
「まさか自分のステータスを、見た事がないのか?」
ルディみたいに先生に習ってないもん。
意外そうに言わないでよ。
「うん」
「分かった。分かった。怒鳴って悪かったよ。ステータスオープンって言ってみて」
「ステータスオープン?」
---------------------------
リリー 女 10歳 緑適性
Lv.1
---------------------------
ルディが私のステータスを見て、首を捻る。
「レベル1? 魔獣を倒した事が無いのは分かるけど……。もしかして、魔法すら使った事が無いのか?」
キリカも覗き込んで、眉を顰めた。
「ほんとだ。流石に少し遅いな。親に相談してみろって。な?」
「……うん」
ふたりとも私の頭を撫でて慰めてくれたけど、違うんだもん。
魔法を教えてくれないから、出来ないんだもん。
自分でやってみても、分かんなかったんだもん。
キリカは落ち込んでいる私をベッドの上に座らせると、お水を持って来てくれた。
----
「母さん! これ見て!!」
私は家に帰るなりステータスをオープンさせ、母さんに『これ』と、指差す。
---------------------------
リリー 女 10歳 緑適性
Lv.1
---------------------------
「みんなにレベル1だってビックリされたの。どうして魔法を教えてくれないの?」
夕食の準備をしていた母さんは、悲しそうな顔で振り返る。
もういいってば、その顔は。
なんなのよ。いったい。
「お父さんが帰ってきたら説明するから、先に手を洗って着替えてらっしゃい」
なにそれ。説明って。
とりあえず話を聞く為に言われた通りに手を洗い、着替えてから父さんの帰りを待った。
読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!
誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!





