閑話 ソニー(おじいさま)の憂鬱
10歳になって、ますます美しく成長した孫が心配でならない。
偽装婚約なんて、わしは絶対に絶対に認めん。
マリーの事は、わしが守るぞ!
思い返すと5年前、娘から孫を頼むと言う手紙に書いてあったあの子は、好奇心は旺盛だが、無口で自分の殻に籠りがちだと。
あいつはマリーの、何を見て、そう思ったのだろうか。
実際のあの子は聡明で我慢強く、とても素直で明るい子だった。
ちゃんと我儘も文句も沢山言ってくれる。
それはわしらの愛情を信頼し、遠慮が無いという証だ。
何よりも、あの子がわしに『大好き』と言って、笑ってくれる所がたまらん。
うん、マリーは可愛くてたまらんな。
「なぁ爺さん」
「なんだ、ガイン」
「あいつの親から、誕生祝いの手紙は届かないのか?」
そうなのだ。
祝いどころか、5年間、何の連絡もない。
「5年前に、マリーを頼むと寄越したっきりだ。こちらからは何度か、マリーの保護の取り消しを願う手紙は出したが、返事が無いので諦めた」
「最後の見送りの時も、俺たちには声をかけるのに、マリーの事を見ようともしなかったからずっと気になっていたんだが……。やっぱりか」
シドが「罪悪感なのかな」とグラスを傾ける。
シドの事をマリーが「師匠、師匠」と慕っているくらい、あの子にすべてを教えてくれたこの男には、感謝してもしきれない。
S級冒険者から魔法の指導を直々に受けるなんて、普通は金を積んでも無理だ。
惜しみなくマリーに最高の教育を施す男たちに、わしはどう報いればよいのか。
問題はもう片方の孫の事だ。
「双子の妹のリリーは、天真爛漫で明るい子だと、手紙には書いてあったのだが、加護も無くてどうしているのだろうか」
「幼い妹ちゃんが自分の罪に潰されていなきゃいいんだがな。まぁ、両親が付いているんだ。心配なかろう」
「そうだな」
わしにはマリーがいるから、リリーにまでは手が回らない。
リリーには両親も揃っているし、ちゃんと支えられている事を祈るしかない。
少し思い耽っていると、急に『わははは』と明るい笑い声がドアから入ってくる。
「そこで話を聞いたけど面白そうだから、マリーの婚約者候補になる事にしたよ」とフェルネットが笑いながらハートと共に帰って来た。
「な!」
いやいや、認めんぞ。
年は近いが、それでもだめだ。
「俺はシングルファーザーだしな」
「義父上!」
「こんな息子いらないぞ」
「わはは」「ははは」「ふふん」
皆が笑う中、ガインが申し訳なさそうな顔でハートを見る。
いつものように「望んだことだ」とハートは笑う。
世間じゃ色々と風当たりも強い筈なのに、マリーの為に申し訳ない。
そうだな。
マリーの為にこんなに沢山の愛情を注いでくれる、こんなに沢山の父親がいる。
もう我が娘達の事は忘れて、わしもマリーの為だけに生きよう。
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