偽装婚約がしたい
「おじいさまー!! 私、恋愛結婚がしたいのです!!」
「む! 何があったのだ!」
私は家に入るなり、荷物も降ろさずおじいさまに飛びつく。
ハートさんは苦笑いしながら、ゆっくりとドアを閉めた。
「どうせダンスのレッスンか何かを、勧められた程度だろ」
「なぜ分かったのですか?」
師匠は読んでいた本から目線を上げて、呆れたようにため息を吐く。
エスパーか。
「嬢ちゃんの思考パターンなど、誰でも分かるわ」
「……」
「ははっ」「なんじゃ。がはは」「フン」
みんなが笑うのがムカつく。
こっちは真剣なのに。
だって側室だよ、妾だよ!
妄想だけど。
「ダンスくらい、今後の為にも、習っておいて損はないだろうが」
「それはありがたいと思っているのですが……」
うう。
脳内の妄想を全部語ったら、変態にされそうだ。
「で、何がしたいんだ?」
「偽装婚約を頼もうかと……」
師匠が大笑いする。
「マリー。わしは反対だぞ」
「おじいさま。この先、何があるか分からないじゃないですか」
おじいさまとふたりで悲劇に浸っていると、ハートさんが笑いながら立ち上がった。
「分かった。いいよ、マリー。俺と、結婚してくれないか?」
「ハートさん!!」
「待て待て待て待て。どうしてそうなる」
片膝を突いて私の手の甲にキスをするハートさんを見て、おじいさまがひっくり返りそうになる。
はははは。
あ、笑ってごめんなさい。
ハートさんも冗談だと笑っているけど、いや、この際、誰でもいいんですけどね!
「嬢ちゃん。どうしても心配なら、同年代を探した方がいい」
「何故ですか?」
逆にリアルで怖い気が……。
じゃなくって!
誰であっても、愛されていないのは嫌なんですって。
「嬢ちゃんと同年代の、利害が一致する相手を選べばいい。成人まで結婚はないから、安心だろ?」
利害が一致……。
時間稼ぎか。
脳内妄想が、更に加速しそうなんだけど。
「……。ところで今日、ガインさんとフェルネットさんは?」
「ガインさんは知り合いの子供の剣の訓練。フェルネットは諜報」
「諜報……?」
ああ、フェルネットさんてコミュ力最強なのに、何故か気配ゼロだもんな。
しかも陰謀とか好きそうだし。
「と、とにかく、誰か見つけて頼んでみます。おじいさまもそのつもりで! 今日はちょっと用があるので、早めに帰りますね」
「そのつもりって……。嫌だー! マリー!」
師匠がいつものようにおじいさまを羽交い絞めにし、ハートさんがいつものように送ってくれた。
結局日常だ。
「なんだかお騒がせしてすいません」
「楽しいから全然構わないよ」
「何かあったら……と思うと不安です」
「ははは。そうなったら、あのフェルネットが動くさ」
「……確かに」
あの他力本願のフェルネットさんに面倒事を押し付ければ、自分が楽をする為なら何だってしてくれるはず。
ふふふ。
ハートさんも悪よのう。
そしてハートさんの個人情報を漏らしたことを、かなり歪曲して報告したので助かった。
そのうちバレると思うけど、こっちの方が時間稼ぎが必要だ。
読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!
誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!
気が向いたらブックマーク、評価など頂けるとうれしいです。





