裏庭薬草庭園
聖騎士見習いのヴィドバリーさんは時々、裏庭薬草庭園(予定)に来るようになった。
実家の領地が、主に薬草を扱っているらしい。
なので私から聞く薬草によって変える土の成分や、効能を高めるために使う肥料などに興味津々なのだ。
ちょっとだけ貴族を見直したよ。
貴族って、もっと、こう……。
刷り込まれた、ラノベのイメージが抜けないので自粛。
ヴィドバリーさんの家は侯爵家で、領主さんとかなんとか。
貴族社会には関わりたくないので、失礼にならないよう気を付けるのみ。
そして、あの天使君はヴィドバリーさんの弟さんで更にビックリ。
世の中狭いなぁ。
だからこの兄弟、やたら裏庭薬草庭園の制作過程を見学に来る。
そして、なにかと手伝おうとするの、ホントやめて欲しい。
「このレンガをここに積むんだよね?」
「そうですけど、絶対に触らないでくださいね。見学以外禁止ですよ」
「俺は聖騎士で護衛なんだから、ちょっとぐらい良いんじゃないかな?」
「……。早く訓練に行って下さい」
やれやれと、ヴィドバリーさんは弟君を置いて帰っていった。
弟君の名はエヴァスルーゼン。私の1つ上の7歳。
7歳にしては、とてもしっかりしている。
地頭も良いのだろうけど、教育も良い様子。
次男なのに、長男が聖騎士になったので家を継ぐらしい。
「お怪我でもしたら大変です。エヴァスルーゼン様は、そちらにお座り下さい」
「エヴァスでいいよ」
そういえば、いつもの胡散臭い笑顔の執事はどこよ。
坊ちゃんをひとりで放置しないで……と思っている所に「こちらにおいででしたか」と執事が毛布やらバスケットやらを色々持って歩いてきた。
ここにいると分かっているからこその、余裕なんだろうけどさ。
もっと危機感を持ってよ。
いつのまにか建築現場で優雅にお茶とか始めちゃうけど、敢えて突っ込まない。
気にしたら負け。
そんなお貴族様のお遊びは無視して、無心にレンガを積む。
ひたすら積む。
ドロドロを作っては積む。
昼食の鐘が鳴ったので作業を終わらせると、手を洗う為にお湯の入った桶を差し出された。
この執事、気が利くな。
「ありがとうございます」
相変わらず胡散臭い笑顔の執事にお礼を言うと、泥だらけの黒神官服のまま椅子に案内され、昼食が並べられる。
え、まさかここで、お坊ちゃんと一緒に食べろって事?
私も負けじと笑顔のまま「失礼致します」と座った。
坊ちゃんに、学校はどうしたよ……とはさすがに直球すぎて聞けないな。
なんて、面倒な。
「エヴァス様。普段このお時間は、何を?」
「学校で勉強しているよ。今日は学校の都合で自習になったので、ここで勉強させて貰いにね」
お茶をしながら黒神官がレンガを並べる姿を見るのは、勉強とは言わない。
「まだ、苗を植える段階ではなくて申し訳ございません。退屈でしょう? 春には完成予定ですよ」
春まで来るなよと遠回しに伝える。
執事とアイコンタクトで、ちゃんと見張っとけと無言で釘も刺しておく。
「いえいえ、本当はお手伝いしたいけど、周りが許してくれなくて。でも、とっても楽しいよ」
あああ、全然通じてない。
そして、私はちっとも楽しくない。
そんなんじゃ貴族社会どころか、京都でさえ生きていけないぞ。
後で執事から話を聞いてよね。
「……私もですわ」
にっこり笑って泥だらけの黒神官服で優雅にほほ笑んだ。
もう無理。
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