守りたい理由
しまった。軽率だった……。
「ごめんなさい」
「ははは。いいんだ。隠すつもりもないし。むしろ知っていて欲しいな」
ハートさんは私が罪悪感を抱かないように、優しく微笑む。
私の隣にそっと座ると、とてもとても優しい声で話しを始めた。
「俺の両親は旅商人でね。妹と俺と家族四人で、物を売りながら街を渡り歩いてたんだよ。その日は森を抜ける為、冒険者を雇って……」
別の冒険者が、雇った冒険者を、理由は分からないが追いかけて来た。
そして雇った冒険者は口論の末、殺されてしまう。
目撃者と思われたのか、荷馬車にいた両親と幼い妹が殺された。
全員殺してしまえば、魔獣に襲われた事にも出来ただろうし。
前で手綱を持っていたハートさんは、父親からの『逃げろ』と言う声と妹の悲鳴に動揺し、動けなくなった。
そして追い詰められ、いきなり風魔法が暴発する。
気が付くと、周りは血の海だったって。
どのくらいそこに居たのか分からないが、通りがかった師匠に助けられたと。
『家族を守れなかった』って言ったハートさんに『ちゃんと仇は討ったろ。偉かったな』と何度も褒められたのが救いだったって。
身を守る為とはいえ、人を殺してしまったハートさんの心が壊れないように、師匠がずっと肯定し続けてくれたんだって。
「それからずっとシドさんと旅をした。ずっと人を守りたいと思ってた。家族をね」
この人の心がこんなに強くて優しいのは、師匠の優しさに触れて育ったからなんだ。
「師匠もガインさんもフェルネットさんも、みんなハートさんの家族なのですね」
「ああそうだ。俺の家族は “黒龍” だ。マリー、お前もだよ」
ハートさんがいつものように優しく笑い、私の頭を撫でてくれる。
ふふふ。家族、家族かぁ……。
私が愛されたくて堪らなかった、本当の家族。
彼らの事を思い出すと、胸がチクリと痛くなった。
だからかな。
みんなは言い聞かせるように、何度も私にそう言ってくれる。
私を愛してくれる家族はここにいる。
「さてと! 狩の続きだ!」
ハートさんが明るい声を出して立ち上がると、遠くをめがけて矢を射った。
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むしゃ、むしゃ、もっ、もっ、もっ、もっ。
お、おいしい……。
「あのお姉さん、料理上手ですね」
「そうだな。意外でびっくりしたよ」
家庭的には見えなかったけど、料理上手とかポイント高いな。
「料理上手なお母さんが欲し……」
ゴッ!
「いたっ」
くぅ。ちょっと揶揄ったら睨まれた。
やばい、次の剣の稽古が怖い。
もう、揶揄うのやめよっと。
家に帰ってガインさんにふざけて喋ったら、翌朝の稽古は容赦なかった。
お母さんが出来てもいいのはホントなのに。いや、年齢的にはお姉さんか。
とにかく遠慮なんていらないのにぃ。
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