教育係のノーテさん
トントントン。
……。
トントントン。
え、え、どうしたらいいのかな。
あのおじいちゃんの部屋の時は、ノック3回で中からドアが開いたんだよね。
恐る恐るドアを開けてみる。
「遅い!」
ひぃ。
白神官の、神経質そうな30歳くらいの女性に、いきなり叱られた。
「ま、自分で気が付いて、ドアを開けたのは褒めてあげましょう」
「はい」
「私はノーテと申します。あなたの教育係です」
ノーテさんは両手を前で重ね、軽く腰を落として挨拶する。
「マリーです。よろしくお願いします」
私も同じように真似して挨拶すると、ノーテさんは満足そうに口角を上げた。
「ついていらっしゃい」
ノーテさんと雑談をしながら後を付いて行くと、ごみや落ち葉だらけの、汚くて薄暗い裏庭に着く。
私は今後の為に [ノーテさんは歴史や地理の話題が好き] と死ぬ気で脳内にインプットする。
「今日からはここが、あなたの清掃担当の場所です。ごみで今は見えませんが、一応花壇もあります。手入れしておきなさい。つぎは……そうですね」
なぜか私を値踏みをするように長い時間見つめた後、ずんずんと歩き出し、正門前の一番大きな建物に入った。
中には白神官に混じり、私服の大人も沢山いて、普通に働いている。
廊下をどんどん進み奥の扉を抜けると、狭くて暗い階段を降りて “資料室” と書かれた扉の前で止まった。
扉を開けると、本や資料が山積みで、書類の入った箱も乱雑に積み上げられ、言われなくてもやることは理解できる。
「読み書きも計算も出来るって、先ほど言ってたわよね?」
「はい」
言わなきゃ良かった。
「ではここを整理しなさい。今後の一日のスケジュールも、休日も自分で決めなさい。朝食は2の鐘、昼食は4の鐘、夕食は6の鐘。9の鐘が門限です。門限だけは問答無用の絶対厳守です。外出するなら私に声をかけなさい。外泊申請は5日前までに提出。質問は?」
「ありません」
流れるような説明に “もう一回言って” とは言い出し辛い。
ま、何とかなるかな。
「私物でも日用品でも、欲しいものがあれば申請しなさい。今日はこれで自由時間です。明日からきっちり働いてください」
「はい」
そうして私の新しい日常が始まった。
一日のスケジュールは、こんな感じで決めて提出した。
休日は後で決めよう。
教会の鐘がいい感じで鳴ってくれるので、それに合わせる事にした。
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1の鐘で起床、身支度
2の鐘で朝食、その後は裏庭の掃除
4の鐘で昼食、その後は資料室の整理
6の鐘で夕食、その後は入浴、自由時間
7の鐘に送迎登録者が迎えに来た時だけ外出
9の鐘は門限
就寝までは自由時間
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実はあの後の自由時間に、お母さんに渡された地図を見ながら、一人でおじいさまに会いに行ったのだ。
門限前にハートさんと教会に戻ると、門の前で仁王立ちしていたノーテさんにめちゃくちゃ怒られた。
そして外出の為の手続き(送迎者の登録と証明書の発行)をその場でして貰った。
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