追う者と追われる者
「いったいあの娘はどこにいるんだ……」
「山……また超えちゃいましたね……」
高台から、遠くにある王都を眺めて途方に暮れた。
もう2往復した。
「教皇様に進捗を催促されていて胃が痛い」
「目的地の祖父の家を、交代で見張るというのはどうですか?」
副団長の立場はのんきでいいよな。
「なぁ、通常ルート以外で山越えって出来るものなのか?」
「私はS級冒険者ではないので正確なことは分かりません。ただ個人的な意見としては、子連れで他のルートは無理かと」
「私もそう思う」
荷馬車も安全に通れる整備された通常ルートでは、季節にもよるが馬車なら2か月、強化魔法をかけた馬なら2週間ほどで超えられる。
体力のない幼児を乗せた荷馬車なら、4か月から半年くらいが無理のないペースなんだが……。
高温地帯、寒冷地帯、雪原地帯があるし、空調結界が施され、色々整備された野営ポイント以外での野宿はさすがに無理だ。
更に野営ポイントでは行商人が商売しているし、食料も生活物資も手に入りやすい。
それに通常ルート以外では、魔獣の討伐をしていないから、生息する魔物の強さも桁が違う。
怪我でもして動けなくなっている可能性もあるのか……。
うーーん。
「祖父の家で話を聞いてみるか」
「準備してきます」
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「あれが王都ですか?」
「そうだ」
「フェルネット。マリーの爺さんの家の安全確認に行って来てくれ」
途中で会った行商人から、馬を一頭だけ買ったのはこの為だったか。
ちゃんと考えているんだなー。
フェルネットさんはあっという間に駆け抜けていった。
「ちなみに私がいなかったら、皆さんは村から王都までどのくらいで着くのですか?」
「何もなければ3か月くらいか? 急げば1か月ちょっと……かな」
「な!」
「元々フェルネットやハートの訓練の為に、魔獣を倒しながらゆっくり王都に戻る予定だったんだ」
「馬を走らせるのと荷馬車にあわせてノロノロ歩くのじゃ、そのくらい違うしな」
「今回は追っ手もいたし」
なんと!
車と歩きじゃ確かに違うけど……。
私の体調に合わせてって言うのもあるけど、確かに合宿もしたけど、でも3か月が1年て!
本当ならそんなに短縮できるの?
一生会えない距離に向かうんだと、気合を入れて家を出たのに!
「さ、フェルネットが帰ってくるまで、俺達はここで待機だ。マリー、結界といつもの野営の準備を頼む。ハートはマリーの護衛。シドさんと俺は狩りだ!」
みんなが散ると、私は結界を張り、壁を作ったりテーブルや椅子を作り始めた。
ハートさんは器用に高いところにある果物を、風魔法でスパーンと切って、落ちてくる実を風でふんわり受け止めている。
魔法ってあんな風にも使えるのか……。
勉強になるなぁ。
もう夏も終わるのに、今日はちょっと湿度が高くて暑いから、結界の中から湿度を取って少しひんやりさせた。
空調結界てエアコンがない世界ではほんと便利。
そう考えるとコンセント1つでエアコンも冷蔵庫も電子レンジも使えるなんて、魔法みたいだったんだよなぁ。
「マリー。これちょっと成長させてくれ。サラダに使いたいんだけど量が足りないから」
ハートさんがレタスっぽい野菜を指さした。
目を瞑り成長をイメージして魔力を流すと、すぐにハートさんに手を取られる。
「そこまでだ」
目の前には大きく成長したレタスが、いくつも生えていてびっくり。
ハートさんは苦笑いして「マリーはすごいな」と収穫した。
ここでどのくらい待機するのか分からなかったので、お風呂やキッチン、個室を丁寧に作って満足していると、木の剣をポンと手渡される。
手に持った木の剣をしばらく眺めて、すごーく嫌な顔をハートさんに向けた。
「そんな顔をしても無駄無駄。ほら構えて」
「……はい」
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