山越えの戦い
ぐわぁぁぁ。
猛スピードで襲ってくる、視界に入りきらないほどの大きな熊。
あまりの規格外に腰が抜ける。
フェルネットさんが私にウィンクし、余裕の笑みで結界を展開すると、熊の動きが急に遅くなった。
ガインさんが一瞬で熊の懐に入り、火を纏った剣で足を切りつけ膝を突かせる。
痛みで暴れた熊の鋭い爪が師匠を狙う。
師匠は大きく飛んで避けた後、双剣をクロスにして、熊の爪を根元から次々と切り落としていった。
すごい爪切りだ。
言葉にするとダサいけど、実際はすごい迫力。
岩に駆け上がったハートさんの放つ大量の矢は、放物線を描かずまっすぐ熊の目に突き刺さる。
だけど毛が固いのか他の場所は弾かれた。
フェルネットさんが熊に別の結界を張り頭を固定すると、ガインさんがお腹のあたりに剣を突き立てグイっと切り裂く。
そこにハートさんの放った黒っぽい矢が一気に何十本も刺さり、ガインさんは別の場所にも剣を突き立て切り裂いた。
頭を固定された熊は、ブンブン腕を振り回して暴れてる。
両手の爪が師匠により切り落とされたので、切り裂かれるリスクはなくなったけど、あれに殴られたら死ぬと思う。
師匠が暴れる熊の腕を踏み台に飛ぶと、熊の首に手を当ててゼロ距離で鋭い水の刃を連続で放つ。
すぐにハートさんが師匠に代わって同じ場所に風の刃を連続で放つと、熊の首が落ちてやっと熊が倒れてくれた。
めっちゃドキドキしたし、息するの忘れてたよ。
頭の中でピコンピコン鳴ってるから、レベル沢山上がってそう。
「もう出てきていいよ」
ハートさんが私を呼ぶので急いで駆け寄った。
いつも誰かが一刀で倒してたから、こんなに苦戦する戦いを初めて見てびっくりしたし。
「いやぁ、思ったより毛が固くて苦戦したな。おかげで魔力がすっからかんだわ」
師匠の魔力がすっからかん?
慌てて師匠に魔力の回復薬を渡すと、嬉しそうに頭をポンポンされた。
フェルネットさんとハートさんにも魔力回復薬を差し出すと「ありがとう」って二人とも腰を下ろす。
「ガインさん、お怪我は無いですか?」
「おお、ちょっと折れたから頼むわ」
お、折れた? いつ?
回復魔法をかけると「助かった」と私に笑いかけ、腕をぐるぐる回して「シドさん、少し休んだら、爪の洗浄を頼みます」と言って熊の解体を始めた。
山にはこんなのがごろごろいるのか……。
最短ルート恐るべし。
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