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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第一章 旅立ち編

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初めての宿屋

「いやぁ、ガインさんの訳アリ予感は的中だったね。もう追っ手がいるとはね」


「フェルネットの情報網は流石だ」


 ガヤガヤとした町の食堂で、私は幸せいっぱいに串焼き肉を頬張って大人達の話を聞いている。


 お店のお姉さんが椅子の上に子供用の台を置いてくれたので、ひとりで座れるのがうれしい。

 野営の時は塩味ばっかりだから、少し甘いバーベキュー味は感動だわ。



「“光適性” ってだけで死に物狂いで誘拐しに来る奴らがいるのに、更にあの加護がバレたら……」


 “光適性” ってところだけ、声をとても小さくするハートさん。



 むしゃむしゃ、もっ、もっ、こくこく。ぷはー。


「……実際はこんなんなのにな」


 ただ食べて飲んでるだけなのに、目尻のしわを深くしたイケおじ顔の師匠にデコピンされた。


 なんて理不尽な。



「で、どうするよ」

「遠回りだが今後は町には寄らず街道を避けて森を抜け、春になったら山越えを目指すのが一番じゃないかな?」


「物資調達と素材の売買はどうすんだ?」

「通りがかりの行商人を捕まえればいい」


 おお、このスープ、チーズ味だ。

 んーー。あったかくてめっちゃおいしい。


 幸せ顔で味わっていると、突然ガインさんに手を取られる。


「むむ。そっちにも同じスープがあるのですから、これは渡しませんよ」


 するとガインさんはプハッっと笑って「さっきからスプーンの持ち方や食べ方が上品すぎて目立つんだよ」と手を放してくれた。


「お前の家は上級貴族みたいにマナーがうるさかったのか?」



 確かにうちの村じゃ棒で刺すだけでスプーンや箸など無かったし、リリーはまだ幼いから手掴(てづか)みだったな。


 でもカトラリーが目の前にあれば使うし……。

 ついカトラリーに目を落とす。



「……。これが普通だと思っていました」

「フン。まぁいいや。野営の時は手で食べたり出来るんだし、少しは周りに合わせて食べろ」


 周りを見ると座る姿勢は悪く、スプーンはかき回すだけのもので、飲むときはお皿に直に口をつけて飲むようだ。


 なんて器用な……。


 私は言われた通りに周りを見て同じように食べた。


 旅の約束を思い出す。

 これも私に必要なことなのだ。


 ---


「ちょっとちょっと! 私れっきとしたレディーなのになんでハートさんと同じベッドなの?」


「5歳児が何言ってんだ。お前なんか頭数(あたまかず)に入る訳ないだろ。まだベビーベッドを使う気か? 嫌なら床で寝ろ」


「嬢ちゃんはハートが嫌なら誰がいいんだ?」


 師匠がニヤつくのがムカつくな。



 ……。


 全員の顔を見回して、……父であるハートさんのベッドにもぐりこんだ。


 フェルネットさんでも良かったけど、そうなるとフェルネットさんの事好きみたいに言われそうだし……師匠とガインさんが嫌なだけで……。


 と、ぐるぐる考えているうちにあっという間に朝になった。



「ほら起きろ」

「さ、寒い……」


 いきなりガインさんに布団を剥ぎ取られて、気だるげで色気ムンムンのハートさんの横で、(よだれ)だらけの浮腫(むく)んだ顔のボサボサの頭の私は、寝間着のまま洗面所に放り込まれた。


 扱いが雑なんだけど。

 犬だってもっと優しくされてるわ。


 顔を洗って髪をとかし、買ってもらった冬服に着替えてから部屋に戻ると、ハートさんだけが待っていてくれた。


 優しく抱きかかえられて宿屋の食堂に向かう。

 うん、ガインさんには少しだけ扱いの改善を要求しよう。



「おはようございます」「おはよう」

「おはよう」「ふふん。顔洗ったか?」


 朝のあれは無かったことにして、ムカつくから優雅ににっこりと笑って挨拶をした。


 子供用の台がない時にお父さんがよくやってくれたように、ハートさんが私を膝の上に座らせてくれる。


「これか?」

「はい。あ、あのパンも」


 ハートさんがパンをナイフで切って、ベーコンとサラダを挟んで渡してくれる。


「わぁ、おいしそう」


 にっこり笑ってハートさんを見上げると、ハートさんもニコニコして頭を撫でてくれた。

 えへへ。


「完全に親子にしか見えないな」

「ああ、親子だわ」

「ほのぼのだね」



 ……。

 確かにお父さんに少し似ているような気もするけど、ハートさんの方が全然若い。


 ハートさんが「せめて兄妹で」と苦笑いする。

 たしかに。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
まさか追手が教皇様だとは思うまい……
S級冒険者といわれてる人達が「護衛任務の護衛対象」にこの対応って、正直大丈夫?って思う。作者さん自身が人生経験が少ない人なんだろうけど、B級くらいにしておけばよかったのにね。
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