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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第五章 隣国編

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隣国の馬鹿王子

 なんてことだ。


 兄上が『聖女巡礼の視察して来い』なんて言うからおかしいと思ったのだ。


 確かに教会の警備は参考になるし、新しい聖女の警備は今までとは違うらしいし。

 だからちょっと行ってみたいなんて思わなければ良かったな。


 まさか連れて来た護衛や側近達が、あそこに私を捨てて行くなんて。

 隣国で蛇に噛まれた事故として処理をするつもりだったのかな?


「はぁ。王位継承権などに興味がないと言ってるのに……」


 私がぐったりと項垂れると御者に扮した側近のブリッドが、肩を叩いて慰めてくれる。


 兄上の『私に殺される』という被害妄想にはうんざりだ。

 何度も違うと言っているのに。そして暗殺未遂は何度目だよ。


「私が死んだら次は可愛い弟が狙われちゃうよな……」


 それにしても運が良かった。いや、私は運だけが良い男だ。


「聖女に助けられるとは、私は本当についてるな」

「ええ、驚きましたね」


 味方はこの弱々しいブリッドだけだとは、なんと心細い。

 いや、ブリッドがいるから心強いのか。


 私は見た目は賢そうなスマート王子だが、剣も弱いし魔法もたいして使えない。

 見掛け倒しの馬鹿王子と、さんざん影口を言われているのも知っている。


「メイルスデビアス第二王子。これからいかがなさいますか?」

「町の警備の視察をしてから、堂々と国に帰る」


 何事もなかったように帰らねば。

 兄上が私を暗殺しかけたと父上に知られたら、きっと私が王位継承をさせられてしまう。


 次の刺客が子供でも勝てる気がしないが、運がいいから大丈夫だと信じよう。


「護衛も側近もいませんが、大丈夫でしょうか?」

「私を狙う者たちは、帰国して暗殺成功の祝杯でも挙げてるよ」


 ブリッドが変装してまで付いて来てくれて良かった。

 やっぱり私はついている。


 兄上が前回の暗殺の件の謝罪だと、人員まで全部用意してくれた。

 丸ごと信じた私も馬鹿だけど、私が死んだら誰が見ても兄上が犯人じゃないか。


 まさか兄上が私以上の馬鹿だったとは……。



 それにしても……。


「すごい美人だったな、あの聖女」

「ええ、驚くほどお美しい方でした」


 ブリッドも聖女が過ぎ去った方を見つめて惚悦(こうこつ)の表情だ。


「どうしよう。恋をしてしまったようだ」

「はい?」


 聖女だからじゃない。

 あの立ち姿、あの気品。いや、あの顔に惚れたんだ。


 これは運命の一目ぼれなのだ。


「王子。トラブルはごめんですよ?」



----


 町の視察を終えて帰ろうと門を出ると、馬車の窓からみすぼらしい若い女がふらふらと歩く姿が見えた。


 こんなところで若い女が一人で歩くなど、なんて危険な。

 この国の治安はそれほどまでに良いのだろうか?


 気になったのでブリッドに声をかけるように指示をする。


「お嬢さん。こんな所でどうしましたか?」

「私が聖女なのに……ぐすぐす」


 聖女?

 何を言っているのか分からないが、女の一人歩きは危険なのでブリッドの隣に彼女を乗せた。


 ブリッドと女の会話が聞こえてくる。


「どうして泣いているの?」

「私も聖女なのに。ハートを取られたくないの」


 女性に多い聖女妄想か。

 あの彼女を見たらそうなるのは仕方がない。


「なるほど」

「双子の姉だけが聖女ってずるでしょ?」


 女は泣きながらそう語る。

 双子の姉?


「なるほど」

「……」


 いや、ブリッド! もっと詳しく話を聞いてくれ。

 気になるじゃないか。私の未来の妹かも知れないのだぞ。


「ブリッド。彼女を中へ」

「でも……」


 ブリッドは刺客かもしれないと渋ったが、いてもたってもいられず彼女を馬車の中まで案内した。


「すごーい。馬車の中って初めて見た」


 すっかり泣き止んだ彼女は落ち着きがなく、座り方もだらしない。

 とても彼女の妹とは思えないな。


 だが、顔立ちはよく見ると同じなのだ。


 はしゃぐ彼女をじっと観察して見るが、顔以外に似た場所は無かった。


「本当に君は聖女の双子の妹なのかい?」

「うん、本当。私も綺麗なドレスを着たら聖女になれるよ」


 うーん、確かに顔は同じだな。双子の妹って言うのは本当かも知れん。

 この際、顔が同じなら嘘でも構わんか。


 これを教育してレディーにすれば……。

 これはあくまで提案だ。そう、提案なのだ。


「もしよければ、私の国に一緒に来ないか? 綺麗なドレスも用意するし」


 まるで誘拐の誘い文句みたいで気が引けるな。


 帰りたがれば帰してやるし、無理にとは言わないし、決して誘拐じゃないからな。

 うん、断じて違う。


「マリーみたいなドレスをくれるなら行ってもいいよ」


 マリー?

 あ、ああ、聖女の名前か。


 意外にあっさりだな。私は善人顔だから信用されやすいのかな。

 もちろん、断じて悪人ではないが。


「ところでお嬢さんのお名前は?」

「リリーだよ」


 マリーとリリー。

 なるほど。


「好きなだけドレスを作ってリリーをお姫様にしてあげるよ。ところで文字は書けるのかな?」


読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝です!

誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
馬鹿が馬鹿連れてったー!?!? そしてこの隣国きっと馬鹿しかいない!まともなの1番下の弟だけだ、きっと!!
客観視も出来るし変に野望もないのに「馬鹿王子」? 婚約破棄系でもないし…… と思ったら、地雷一本釣りしていきやがった…… うーん、読者視点だと「やらかしちゃった王子」なんだけど 「馬鹿王子」……ここ…
[良い点] みんないい人すぎて大丈夫かなと心配になる程。S級冒険者の皆さん、いきなりみんなお父さんになったけど、奥さんは誰一人としていないのか…。もったいない…。 [気になる点] マリーはそれほど気に…
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