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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第四章 聖女編

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憤慨するテッド

「説明して貰えますか?」


 正直言って私はものすごく怒っている。

 昼間の喧騒が嘘のようにガランとした指令室で、ガインさんは気まずそうに椅子に座って頭を掻いていた。


「これにはちゃんとした訳があるんだ。とりあえず座れって」


 仁王立ちで怒る私に、愛想笑いのフェルネットさんが椅子を差し出しお茶を入れてくれる。


 ……そういうことか。

 私だけが事情を知らされていなかったんだ。


『警護の司令塔なのに何も知らされていないとは、マリーに危険が及ぶとは考えなかったのか!』と、言いたい事は沢山あるけれど、まずはその事情とやらを聞くことにした。



 私は一口お茶を飲むと、軽く息を吐いて気持ちを抑える。

 目の前に座ったガインさんと両脇に立つハートさんとフェルネットさんの顔を順番に見た。


「で、どういう訳なんですか? そのちゃんとした訳とは?」


 ガインさんは言い辛そうに口を開く。


「実はな、お前が見た女はマリーの双子の妹だ」


 あの薄汚いみすぼらしい女がマリーの双子の妹?

 脳内で必死に容姿を思い出して顔を歪める。


「あれが?」


「ああ、お前に隠していた訳じゃないぞ。マリーが5歳の時に家族とは縁が切れている。だから今まで話題にならなかったんだ」


「家族の事は聞いていますよ。妹に加護を奪われた為にマリーが5歳で家を出る事になったという事は。ガインさん、あなたから直接ね。今回言っているのは、その妹がここへ来る可能性の事です!」


 三人は顔を見合わせて文字通り『まいったな』という顔をした。

 その程度の話で誤魔化せると思ったのか?


「テッド達がランクを上げている時に僕達は、マリーの家族と旅をしたんだ」

「当時は『自分は聖女だ』と騒いだが、その辺の所は既に教育済みだ」

「移住先がこの町の隣の村でな。もしかしたら、とは思っていた」


 それぞれが、到底受け入れられない理由を話し出す。


「は? そんな事情なら先に言って下さいよ! 隠す事ですか?」

「違うんだよテッド。続きを聞いてくれ」


 はぁぁ。

 まだ隠していることがあるのか。


「分かりました。すべてお話しください」



 するとハートさんが話し出そうとしたガインさんを手で制した。


「万が一の時、マリーの家族を切れるのか。それを何度も自問した。しかも一緒に旅をして知らない仲でもない。そんな理由で一瞬の迷いや遅れが出たら取り返しがつかないだろ?」


 ハートさんが真剣な目で話す。


「そうなんだ。俺達はマリーの家族と知り合いなんだ。だから今回は、面識のないお前に警護の指揮を執らせたんだ」


 ガインさんがハートさんの話を補足した。


 甘い。甘すぎる。


 家族だろうが何だろうが危険なら即排除だ。

 警護に私情など挟む余地もない。


「なるほど。私は皆さんと同じように甘い人間だと思われていたのですね」


 嫌味たっぷりに表情を殺して言うと、ガインさんが席を立って私の前で膝を突いた。


「いや、そうじゃなくて万が一だ。な。万が一。今回は俺たちの判断が間違っていた。本当にすまん」


 ハートさんとフェルネットさんがガインさんの横に来て、一緒に膝を突いて頭を下げる。


 謝って貰いたかった訳じゃない。

 私が怒っているのはマリーの安全を第一に考えての事だ。


「いいですよ。許します。ただ、先輩達保護者と違って私の目は曇りませんので、今後そう言ったお気遣いはなさいませんようお願い致します」


 まったく、いい大人がガックリ項垂れて。


 マリーを害するものならば、たとえそれが自分の親でも躊躇(ためら)わない。

 私がどんな人間か、ガインさんなら一番分かっているはずなのに。



「でもハートの依頼人だと思ったんだろ?」


 ガインさんが私の肩に手を回し、ニヤニヤしながら聞いてくる。


「ええ、ハートさんに惚れた女性が付きまとっているか、現在の依頼人が急用で来ているのかと」

「言っとくが、そんな女いないからな」


 ハートさんがすかさず反論したけれど、誰も信用していない。

 フェルネットさんは笑ってハートさんを揶揄(からか)っていた。


「事情も聴かず問答無用で魔法を当てまくったって聞いたぞ」

「当り前です。『拘束せずに追い払え』なんて無茶な要求がなければ、相手の出方次第では殺していました」


「流石だね。今回の事で僕も気持ちに整理がついたよ」


 フェルネットさんがガインさんとは反対側から肩を組んでくる。

 この似たもの親子は暑苦しいな。


「ああ、お手柄だった。迷った俺が馬鹿だった。テッドのおかげで吹っ切れた」


 あのハートさんがマリーの件で一瞬でも躊躇(ためら)うとは思えない。

 本人の迷いが消えたなら良かったけれど。



 今後はハートさんと入れ替えで指揮権が貰える事になった。

 今回初めて警護の指揮を執ってみたけれど、緊張と責任と重圧できつかった。


 一瞬の判断ミスが怖くなり、もう少し修行してからでもいい……なんて少し思ったりもした。



 それにしても、あれがマリーの妹か……。


 光の加護の横取りは死罪なのに堂々と会いに来るなんて。

 マリーの家族だから悪く言いたくないが、品性に欠けるとても頭の悪い女だった。


これで、第四部 聖女編は終了です。

第五部 隣国編をお楽しみに! リリーが隣国行きます!

読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝です!

誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!


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― 新着の感想 ―
ヤバい表情筋が仕事しすぎて怪しい商人みたいになってる……口角が下がらない……
[一言] 真にテッドが怒るべきなのは甘々なお爺ちゃんなんじゃないですかね……罪人に罰を与えずの放置と、今の家族に罪人護衛輸送させたせいなんだから
[良い点] あの薄汚いみすぼらしい女がマリーの双子の妹? 品性に欠けるとても頭の悪い女だった 相手の出方次第では殺していました テッドの感想最高!!(再び) [一言] 100話おめでとうございます!…
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