教皇様来訪
「こ、これはいったいどういうことじゃ?」
教皇様は適性と違う加護に驚き、困惑していた。
「殺して奪ったあのおとぎ話じゃあるまいし。何があったのじゃ」
「違うんです。双子の姉が加護を受けている最中に、この子が誤って部屋に入ってしまい、お互いに逆の加護を受けてしまったんです」
“認定書” が貰えなければ、冒険者ギルドにお金が下りない。
そうなったらマリーは知らない街でひとりきりになってしまう。
どうしたらいいの。
あの後怒り狂った夫は、意地だけで入る予定だったお金を全部マリーの旅の費用に使ってしまった。
『これで借りはない。野垂れ死んでも関係ない』とあれからずっと怒っている。
我が家には他にお金のあては無い。
マリーの為にもリリーの光の加護を認めてもらわなければ。
「嘘はよくないぞ。そんなことはありえん。精霊は間違えんのじゃ。どうやったのか分からんが、光の加護の横取りは死罪じゃ」
死罪……。
リリーがマリーにどれだけの事をしでかしたのか、人から言われて実感する。
死罪という罪の重さに気が遠くなりそうになるが、この子の為にもしっかりしなくては。
「それで、双子の姉はどこじゃ。その子を連れて来なさい」
「それが……ひと月ほど前に、王都にいる私の父の所へ向かわせました」
「なんじゃと? 王都に5歳の子供をひとりで? おぬし、それでも母親か?」
教皇様はキッと鋭い目で私とリリーを見ると、上を向いて息を吐いた。
お付きの白神官様がお茶を差し、教皇様はそれを断り大きく息を吐いている。
「はぁ。すまぬ。あまりに酷い仕打ちでの。つい取り乱してしまったようじゃ」
私は只々恐ろしく、この場が無事に乗り切れるよう心の中で祈っていた。
「おぬしはなぜ妹が姉から加護を奪うのを止めず、そして姉を家から出したのじゃ?」
「実は……」
それからは、リリーの “マリーの物が欲しくなる” 癖の事、今回の件で『リリーとは一緒に暮らせない』とマリーが望んで出て行った事を、精一杯に説明をする。
「……うむ。それで光適性用に出る助成金や教育費を全部、その冒険者を雇うために使ったと……」
「はい」
教皇様はお付きの白神官様に目配せをすると、一人が外に消えていく。
「困ったことじゃ」と呟くと、しばらく頭を抱えていた。
「その話が本当なら一刻も早く旅を中断させ、教会で保護した方が良いじゃろう。魔法を使わない高度な職に就く事も優遇できるが、どうする?」
「お願いします! マリーを保護してください! ……それで、この子……妹の方はどうなるのでしょうか?」
腕の中で無邪気に笑うリリーを見下ろし、お腹の芯から震えてくる。
守らなきゃ。
「拘束せよ……と言いたいところじゃがまだ5歳。未熟さゆえの過ちであるから今回は不問とする。娘可愛さに唆したのであれば、おぬしを死罪にするところであった。だが、金もすべて姉の方に使ったようじゃしな。加護の無いその子を支えて正しく育てる事が、おぬしの償いだと思って精進せよ」
私を見る教皇様の鋭い目が、本気で死罪にするつもりだった事を確信した。
きっと、きっと、そうに違いない。
「今後はリリーが姉と接触する事を固く禁ずる。故意に破れば無条件で投獄じゃ。よいな?」
ああ、マリーとは二度と会えないのね……。
仕方がない。
「はい」
「加護を奪ったことが公になれば庇い切れん。絶対に漏らすでないぞ」
「はい」
「もし、この事が公になれば、加護を奪う行為の抑止力の為に、最も処分の重い “関係者全員の死罪” になる。肝に銘ずるのじゃぞ」
関係者全員の死罪……。
なんて事なの。夫に相談できないし、ひとりで抱えきれるのかしら。
「はい」
その後はマリーの性格や今までの生活の話を、聞かれるままに答えていると、先ほど一人で出て行った白神官様が戻ってくる。
何かしら。恐ろしい。
「よし、冒険者ギルドには確認が取れたようじゃ。そちらの支払いはこちらでしておいた。とにかく、今すぐにどんな手を使っても姉を保護するのじゃ!」
そう言うと教皇様ご一行は急いで我が家を後にした。
あああ、良かった。
体の力が抜けていき、私はその場に崩れ落ちる。
これでマリーは無事に保護され、きっと最高の教育を受けられるのだわ。
リリーも私も死罪にならずに済んだ……。
本当に良かった。
教皇様が帰った後、マリーが私と夫の前で決別宣言をしたあの日を思い出した。
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