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聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます  作者: ななみ
第一章 旅立ち編

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教皇様来訪

「こ、これはいったいどういうことじゃ?」


 教皇様は適性と違う加護に驚き、困惑していた。


「殺して奪った()()おとぎ話じゃあるまいし。何があったのじゃ」


「違うんです。双子の姉が加護を受けている最中に、この子が誤って部屋に入ってしまい、お互いに逆の加護を受けてしまったんです」


 “認定書” が貰えなければ、冒険者ギルドにお金が下りない。

 そうなったらマリーは知らない街でひとりきりになってしまう。


 どうしたらいいの。


 あの後怒り狂った夫は、意地だけで入る予定だったお金(リリーの助成金など)を全部マリーの旅の費用に使ってしまった。


『これで借りはない。野垂れ死んでも関係ない』とあれからずっと怒っている。


 我が家には(ほか)にお金のあては無い。

 マリーの為にもリリーの光の加護を認めてもらわなければ。


「嘘はよくないぞ。そんなことはありえん。精霊は間違えんのじゃ。どうやったのか分からんが、光の加護の横取りは死罪じゃ」


 死罪……。


 リリーがマリーにどれだけの事をしでかしたのか、人から言われて実感する。

 死罪という罪の重さに気が遠くなりそうになるが、この子の為にもしっかりしなくては。


「それで、双子の姉はどこじゃ。その子を連れて来なさい」

「それが……ひと月ほど前に、王都にいる私の父の所へ向かわせました」


「なんじゃと? 王都に5歳の子供をひとりで? おぬし、それでも母親か?」


 教皇様はキッと鋭い目で私とリリーを見ると、上を向いて息を吐いた。

 お付きの白神官様がお茶を差し、教皇様はそれを断り大きく息を吐いている。


「はぁ。すまぬ。あまりに酷い仕打ちでの。つい取り乱してしまったようじゃ」


 私は只々(ただただ)恐ろしく、この場が無事に乗り切れるよう心の中で祈っていた。


「おぬしはなぜ妹が姉から加護を奪うのを止めず、そして姉を家から出したのじゃ?」


「実は……」



 それからは、リリーの “マリーの物が欲しくなる” 癖の事、今回の件で『リリーとは一緒に暮らせない』とマリーが望んで出て行った事を、精一杯に説明をする。


「……うむ。それで光適性用に出る助成金や教育費を全部、その冒険者を雇うために使ったと……」

「はい」


 教皇様はお付きの白神官様に目配せをすると、一人が外に消えていく。

「困ったことじゃ」と呟くと、しばらく頭を抱えていた。


「その話が本当なら一刻も早く旅を中断させ、教会で保護した方が良いじゃろう。魔法を使わない高度な職に就く事も優遇できるが、どうする?」


「お願いします! マリーを保護してください! ……それで、この子……妹の方はどうなるのでしょうか?」


 腕の中で無邪気に笑うリリーを見下ろし、お腹の芯から震えてくる。

 守らなきゃ。


「拘束せよ……と言いたいところじゃがまだ5歳。未熟さゆえの過ちであるから今回は不問とする。娘可愛さに(そそのか)したのであれば、おぬしを死罪にするところであった。だが、金もすべて姉の方に使ったようじゃしな。加護の無いその子を支えて正しく育てる事が、おぬしの償いだと思って精進せよ」


 私を見る教皇様の鋭い目が、本気で死罪にするつもりだった事を確信した。

 きっと、きっと、そうに違いない。


「今後はリリーが姉と接触する事を固く禁ずる。故意に破れば無条件で投獄じゃ。よいな?」


 ああ、マリーとは二度と会えないのね……。

 仕方がない。


「はい」


「加護を奪ったことが(おおやけ)になれば庇い切れん。絶対に漏らすでないぞ」

「はい」


「もし、この事が(おおやけ)になれば、加護を奪う行為の抑止力の為に、最も処分の重い “関係者全員の死罪” になる。肝に銘ずるのじゃぞ」


 関係者全員の死罪……。

 なんて事なの。夫に相談できないし、ひとりで抱えきれるのかしら。


「はい」


 その後はマリーの性格や今までの生活の話を、聞かれるままに答えていると、先ほど一人で出て行った白神官様が戻ってくる。


 何かしら。恐ろしい。


「よし、冒険者ギルドには確認が取れたようじゃ。そちらの支払いはこちらでしておいた。とにかく、今すぐにどんな手を使っても姉を保護するのじゃ!」


 そう言うと教皇様ご一行は急いで我が家を後にした。



 あああ、良かった。


 体の力が抜けていき、私はその場に崩れ落ちる。

 これでマリーは無事に保護され、きっと最高の教育を受けられるのだわ。


 リリーも私も死罪にならずに済んだ……。

 本当に良かった。



 教皇様が帰った後、マリーが私と夫の前で()()()()をした()()()を思い出した。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
関係者全員だとマリーも死ぬが??まぁ、マリーの全ステータス見たら更に驚愕すると思うけどね……聖女どころの話じゃないし
>まだ5歳。未熟さゆえの過ちであるから今回は不問とする。 5歳だと人の加護を奪っても不問になるんならそもそもの「人の加護を奪ったら死罪」って決まり自体が無意味になるのでは? 教会で加護を貰える歳が5…
[気になる点] ふと冷静に考えましたが、なぜ教皇猊下はリリーと毒両親に対してマリーと永久的に関わったり接触する事を禁止する契約書を書かせてその代わりに、一生分遊んで暮らせる程度の大金を渡さなかったので…
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