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ペケーニョ・デレーチョ  作者: クインテット
第一部 灯台で。
11/11

Room

僕が次にリビスさんから(おお)せつかった仕事は、「部屋を作れ」だった。ここに住むって決めたのは僕の勝手なんだから、せめて部屋は自分で作れってことなんだと思う。部屋と言っても、狭い灯台の中に作るわけにもいかない。仕方なく僕は素人(しろうと)ながらに努力して、灯台の脇に小屋を建てることにした。素材は倒木を細かく刻んでできた端材(はざい)。恐らく、嵐の度に吹き飛ばされるだろう。

「何してるんだ?」

僕が必死に地面に木切れを固定しようとしていると、大きな魚を手に持ったミザールに話しかけられた。

「小屋を立ててるんだ」

「小屋?これがか?」

「まあそう言うなよ…。僕だって、酷いものだと思ってる」

ミザールはビチビチと暴れる魚の尻尾を握りしめながら、口をくちゃくちゃさせていた。

「まあ、頑張れよ。今日は魚もいないし、手伝ってやるから」

そう言うとミザールはそのまま灯台の方へ歩いていった。あの口ぶりだと、もしかしたらミザールはここに住む気がないのかもしれない。僕は目に入ってくる砂埃(すなぼこり)に目をしょぼつかせながら、また釘を地面に打ち付けていた。


「お前、本当に何してるんだよ…。ヌカ(・・)に釘って言葉知らないのか?」

「読んだことはあるような気がするけど」

僕がそう言うと、ミザールはぴく、と頬を痙攣(けいれん)させた。

ぬかるみ(・・・・)に釘刺したって刺さらねぇんだ。

床なんていらねぇだろ、諦めろ」

ミザールはそう言って釘を引き抜いていく。残念でもあったが、確かに何の抵抗もない地面に釘を打ちつけていくのは不毛だろう。

「まずは柱だな」

ミザールはそう言って端材の中でも比較的長いものを選ぶと、強度を確かめた。

「穴を掘るんだ」

ミザールはそう言って地面を指差した。僕は穴を掘れそうな道具がないか探してきょろきょろした。

「手で掘りゃいいだろ、お坊っちゃん」

ミザールは鼻にかかった声でそう言った。否定するのも、ムキになるのも馬鹿馬鹿しい。僕は黙って手で砂に穴を開けた。

「で、こいつを立てるんだ」

ミザールはそう言って端材を渡した。僕は柱を立て、足で砂を被せて固めながら、こいつ指示ばかりで手伝わないな、と若干腹が立っていた。手順を教えてくれるだけありがたいと思おう、と言い聞かせながら、なんとか一本立てた。

「材木の質が悪いからな、最低でもあと5本はいるだろうな」

ミザールはそう言ってわざわざ(てのひら)を僕に見せた。

「じゃ、せいぜい頑張れよ、お坊っちゃん」

ミザールは最後の方に力を込めて言うと、灯台の方へ歩いていった。あんなやつをリビスさんと二人きりにしてたまるかよ、と僕は地面に穴を掘り始めた。


ようやく柱を立て終わった頃には、日は暮れかかっていた。僕は邪魔にならないところに材木と工具を置くと、走って灯台に戻った。

「泥だらけ、汚い」

「う…すみません」

確かに、汗と砂が混じって、服も体もベトベトだ。ミザールはそんな僕を酒瓶を片手にへらへらと笑いながら見ている。

「これ」

リビスさんはタオルと着替えを僕に渡すと、そのまま灯台のドアを開けた。

「着いてきて」


リビスさんに着いていった先にあったのは、小さな池だった。どうやら雨水が窪みに溜まったもののようで、僕達にとっては貴重な淡水だ。

「部屋は?」

「今日は柱を立てられたくらいで…。あ、リビスさんは危ないから近寄らないでくださいね。素人なので、柱もちゃんと固定されているか分からないですし」

「何、小屋かなにか作ってるの」

「え、ええ…。あ、勝手にまずかったですか」

リビスさんは服を脱ぎ始めた僕に背を向けると、溜息を吐いた。

「あの男押しつけといて何してるのかと思ったら、そういうこと」

「押しつけ……一応、小屋の作り方を教えてくれたんですよ」

不本意だったが、僕にもリビスさんにもよく思われていないと分かると、ミザールが(あわ)れに思えてきた。それと同時に安心して、僕は優越感からこんなことを言ってしまったんだろう。

「小屋じゃなくて、灯台の中に作れば」

「狭くなりますよ?」

「あんたが来た時点で狭い」

リビスさんはそう言って地面に座った。ほんの少し、ほんの少しだけ期待してしまう僕と、きっと妄想だと振り払う僕がいる。

「…お言葉に甘えて」

僕は気取ってそう言った。リビスさんは何も言わずに座っている。


汚れを落として着替えも終えると、空はすっかり黒に染まっていた。

「戻りましょうか」

リビスさんは黙ったまま立ち上がり、先に灯台の方へと足を向ける。僕は小走りに追いかけると、なんとかリビスさんの隣に並んだ。

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