憎しみの系譜
会議は夜中にまで渡り繰り広げられた。
その間に一度だけ国王が信頼出来る将軍と共に来たが、ティヨルの容態のことばかりで会議の中身には一切触れなかった。
そればかりか将軍が会議に参加している知恵者達に対して、高圧的な態度を取るばかり。
「作戦などいらん、我等グルイナード王国が誇る騎士の力は無敵だ! どんな化け物と相成ろうと突貫! 突貫! 突貫だ!! 一念を以て敵に挑めばどんなものも穿ち砕ける!」
そう言って豪快に笑い飛ばす将軍。
それを頼もしそうに見る国王。
上に立つ者がこれで一体なにが対策本部か。
対策本部などとは聞こえはいいが、結局は国王に安心を与える為に重鎮達が作ったハリボテに過ぎないのか。
ティヨルは心内で危惧する。
こちらが作戦を立てても結局は古き良き騎士の伝統になぞらい、無謀な突貫作戦が強行されるのではないか。
いづれ民百姓を徴兵し同じように突貫させるのではないか。
そんな未来を思わず浮かべた。
「必ずなにか穴があるはず……なんとかして探さなければ」
巨怪グリフォは必ず帰ってくる。
勇者レクレスを殺す為に。
そのときこの国が無事である保証などどこにもない。
彼はきっと国すらも憎んでいるのだから。
一端解散。
ひとり暗い会議室に残り思案に耽っているとセバスがノックの後会議室に入って来る。
「王女様、アルマンド殿が王女様の武器工房で待つとのことでございます。……その、申し訳御座いません。止めたのですが……」
「私の……? ふぅん、色々いじくっていなければいいですが」
あの女が勝手に自分の大切な空間に入り込んでいるのには虫唾が走ったが敢えて我慢した。
あの女に礼儀を説いた所で意味はない。
無礼が美女の姿で歩いているようなものだ。
兎に角自分の工房へと向かう。
その工房であの魔導ボウガンは生まれた。
あそこには幾つもの発明品がある。
勝手に触られてはたまらない。
心なしか歩調を速める自分に確かな焦りを感じている。
そして工房の前に辿りつくや、勢いよく扉を開いた。
「おいでなすったな。悪いね、見物させてもらってたよ」
「悪いと思ってるなら事前申告をお願い申し上げます。もっともアナタをここへ入れること事態論外なのですが」
「そう言ってなんやかんや許してくれる王女様オレちゃん大好きよホント」
相変わらず人の精神を逆撫でするのが上手い女だ。
たがここはグッと堪えて彼女を椅子に座らせる。
「……で、話があるとのことでしたね。まず先に個人的な理由でアナタを待たせてしまったのは謝罪しましょう。それで……私の工房に勝手に侵入してまで話したいこととは?」
「決まってンだろ? あの巨怪のことだ」
アルマンドは足を組んでティヨルと向き合う。
蝋燭の火が工房を薄暗く照らす中で、彼女はいつの間にか普段見せない真面目な顔をしていた。
「あれは憎しみの系譜、その使徒と言っていい」
「憎しみの……系譜?」
「憎しみが紡いできた歴史そのもの。いわば人類史そのものだ。7000万年前、人類が初めてこの地上に現れたと同時にこの系譜も産声を上げた」
アルマンドの突拍子のない話に怪訝な表情を浮かべるティヨル。
そんな歴史は聞いたことがない。
ふざけているのかと思ったが、なぜかそう思えない自分がいる。
「知能を発達させ、幾つもの文明を開発した人類だったが同時に巨大な負債を抱えることになった。聞いたことがあるだろう、"この世の不条理"若しくは理不尽と言われるものだ」
「憎しみはその中で人類と同じように進化したと?」
「その通りだ。世に蔓延る正義も平和も、全ては敵や不条理への憎しみから生まれたもの。戦争が絶えない理由だな。憎しみから新しい憎しみが生まれるのはごく自然的な現象だ」
淡々と話すアルマンド。
魔術師の中にはこういった小難しいことを言う者は何人もいる。
だが、彼女は別格だ。
他の魔術師とは違う得体の知れないなにかを感じる。
「平和や平等、愛国を血眼になって説く連中をよく見てみろ。アイツ等は他人が思ってる以上に常にイラついてる。憎しみを克服出来ないあまり平和そのものを殺しの武器に変えることもある。それがテロだ」
「そう……ですか。それで、この話とグリフォになんの関係が?」
そうだ、肝心なことを聞きたい。
彼女の話に呑まれそうになったが踏みとどまる。
「……人間の異能や知能如きじゃ勝てないって会議で言ったろ? 憎しみは英雄を生む、救世主も生む。だが奴はそんなものでは倒せないし救われない。憎しみから派生した力や知能では奴は止められない」
「どういう……ことです?」
「わからんか? グリフォ・ドゴールはこの世の憎しみとなんらかの理由で一体化した存在なんだ。憎しみを浄化出来りゃもしかしたらワンチャンあるかって話なんだよ」
憎しみを浄化……?
ティヨルの頭にそれは重く響いた。
「……この城には初代国王が見つけたとされる"神罰兵器"があると聞く。使用条件がかなりシビアだとも聞いたが、今はこれが最善策だと考える、どうだい?」
いつになく真面目なアルマンドに驚きを隠せない。
そしてなにより突然提案してきた"神罰兵器"の使用。
あれは神自らが創ったとされる兵器で初代国王が神託を受け見つけたというのが伝説だ。
「……生憎アナタの話は規模が大き過ぎて簡単には理解が出来そうにありません」
「ありゃ」
「少し考えさせて下さい。私ひとりで判断出来ることではありませんので。……ひとつの選択肢として考慮させていただきます」
そう言うやティヨルは工房を出ようとする。
それに続いてアルマンドも出る。
しんとした夜の静けさの中に不気味な影を見てしまったかのような空気がティヨルの肩にのしかかった。
アルマンドはいつもの調子に戻って鼻歌交じりに去っていった。
「一体……何者なの?」
ますますあの女がわからない。
そしてグリフォ・ドゴールも。
あれを魔術師特有のただの妄言として捉えるか。
それとも、真実と捉えるか。
(もしかして……あの女とグリフォ・ドゴールは裏で繋がっている? ……まさか、ね)
混乱する頭の靄を振り払いながら、ティヨルは自室へと戻って行く。
(憎しみの浄化、か……。ククク、オレも芝居が凝りすぎたもんだ)




