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王都警備隊・2  作者: 風羽洸海
智慧の守護者
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六章 暗闇に在りて(2)


 しばしの後、リーファはしきりにあくびをかみ殺しているシンハと共に、城下町に通じる地下の隠し通路を歩いていた。

「まったく、枕元に人の気配がしたと思ったら……あふ。相手がおまえじゃなかったら、喜ぶか、うろたえるかするところなんだがなぁ」

「なに考えてんだ、助平」

 リーファは冷ややかな目を向けたが、シンハは動じなかった。

「夜中に人の寝室に忍び込む奴に言われたくない。俺は寝不足なんだぞ」

「仕事さぼって厨房で遊んでるからだろ」

「その遊びの成果を当てにしたくせに……ふあぁ……しかし、この通路もおまえにまで知られてるんじゃ、あまりいざって時の当てにはならないな」

 緑の目を眠そうにしばたたき、シンハは狭い通路の石壁を軽く叩く。リーファはにやっとした。

「いざって時、てのはおまえが城から脱走する時のことか?」

「馬鹿。一応、敵に攻め込まれた時の脱出用に造られたんだ。まぁ、はるか昔、まだこのシエナが田舎の一都市でしかなかった頃に、だがな。その頃は東の遊牧民がこの辺まで攻め込んで来たこともあったらしいし、実際にこの通路も使われたんだろう」

 言いながら、シンハは壁に残る古い傷痕を指先でなぞる。武器や鎧を身につけて通った時に、こすれてついたものらしい。リーファはそれを眺め、ほんの束の間、古い時代に思いを馳せる。だが今は浸っていられる場合ではないので、すぐに肩を竦めた。

「ふーん。その頃からおまえの血筋って変わってないのな」

「なんだそれは」

「脱走癖。秘密の抜け穴好きってことさ。城ん中、ありゃなんだよ、まるで蟻の巣みたいじゃないか。あれは絶対そういう実用的な理由じゃなく、趣味で造ったと見たね」

 ふんと鼻を鳴らし、リーファは歩みを再開する。シンハは返す言葉もなく、黙ってちょっと頭を掻くと、後に続いた。

 しばらく歩くと上りの階段に突き当たり、そこを出ると神殿の裏手の木立だった。

「ははあ」

 霧雨の中に立ったリーファは、あることに気が付いてぽんと手を打った。後から出て来て石の扉を閉めていたシンハは、不審げな顔をする。それを見てリーファはにやにやした。

「おまえ、昔っからこの通路、よく使ってたんだろ。それでレア大神官に頭が上がらねえんだな?」

「うっ……」

 図星を指され、シンハはまたしても言葉に詰まる。愉快げなリーファを恨めしそうに睨み、彼は苦虫を十匹ほどまとめて噛み潰した。

「そういうことだ。まったく……あまり余計なことばかり言っていると、墓所に閉じ込めてやるからな」

「ぬっ。おのれ卑怯な」

「何が卑怯だ。そら、行くぞ」

 シンハはリーファの頭をぽんと叩くと、先に立って墓所の方へ歩きだす。リーファはその背中に隠れるようにして、後ろからこそこそとついていった。

 墓所の扉には、簡単な錠がつけられていた。シンハは疑わしげに振り返る。

「本当に確かめたいか? おまえじゃあるまいし、素人がここに入れるとは思えないぞ」

「頼むよ。なんか気にかかるんだ。あ、でも、もしその……オレが捜してる奴がここにいたとしても、おまえは余計な手出しはしないでくれよ」

 自分でなんとかするからな、と念を押し、リーファはポーチの中から聖水を取り出して、握りしめた。怯えているくせに決然としたその表情を眺め、シンハは目に苦笑の気配を浮かべると、黙って錠に手をかけた。

 彼が二言三言、口の中でつぶやくと、鍵もないのにカチリと音がした。リーファは目をしばたたかせ、後ろから手元を覗き込む。

「魔術かい? それとも、王家の人間専用の結界みたいなもんがあるとか?」

「まあ、一種の魔術だな。結界も張ってあるらしいが、悪意をもつものの侵入を防ぐといった性質のものだから、悪意さえなければ、人間だろうと化け物だろうと、中に入ることは出来る」

 そう言ってシンハは振り返り、意地悪く「もちろん幽霊もな」などと付け足した。リーファは顔をしかめ、やめろよ、と弱気の抗議をした。

(てことは、生ける死者であっても、ここには入れるわけだ)

 ここの鍵さえなんとかできれば、だが。

 リーファは自分の鼓動をうるさいほどに意識しながら、用心深く扉の前に立った。シンハは後ろに下がり、お手並み拝見と決め込んでいる。

 思い切って厚い木の扉を押すと、ギギッ、と嫌な音がした。リーファはその音があまりに大きく感じられて、身を竦める。雨がこの音を閉じ込めてくれたらいいのに。

 どうにか人ひとりが通れるだけ扉を開けると、リーファはそっと中に踏み込んだ。中は真っ暗闇……の、はずだったが、そうではなかった。

「シンハ」

 ささやくと、後ろからシンハも中を覗き込み、眉を寄せた。短い下り階段の下に、骨の納められた小さな石の柩が並んだ広い部屋がある。その奥から、ぼんやりと薄明かりが射し込んでいるのだ。

「穴が空いているらしいな。それも結構でかいのが」

 中で蝋燭などが灯されているような明るさではない。外の光が射し込んでいるのだ。今の場合、途切れがちな月の光が。

 リーファは深く息を吸い込んだ。墓所の空気は冷たく乾いており、独特の香の匂いが微かに漂っている。そして、そこにまじっているのは……

「ダン。いるんだろ」

 階段を一段下り、リーファは声をかけた。わずかな腐臭が墓所の静謐な空気を乱している。無意識に、聖水の瓶をぎゅっと握り直す。

「話がしたいんだ」

 もう一段。返事はない。

 リーファは足を止め、慎重に墓の中を見回した。最初に見てとった範囲よりも広く、光の届かない所はどの辺りまで続いているのか、不安になるほどだった。音の反響具合からして、途方もなく広いということはなかろうと分かるが、それでも、人が隠れているとしたら見付けられそうにない。

「……グリフィンの死体が見付かったぞ」

 その言葉で、やっと反応があらわれた。ガサリ、と何かが動く音がしたのだ。階段の途中で身をこわばらせて待ち受けるリーファの前に、暗がりから人影が現れた。

 外套にすっぽりと身を包んでいるが、その上からも、片足を引きずっているのが分かる。何だろうとリーファは考え、あっと思い出して唇を噛んだ。初めて遭遇した時、自分が斬りつけた足だ。死体の傷が癒えるはずもなく、その傷口は腐敗を速めただけだろう。だが本人は、そのことに多少の不自由さ以外の何も感じていないようだった。

「おまえがダンで、間違いないな?」

 リーファが確かめると、フードを被ったままの人影は、ゆっくりとうなずいた。何かしゃべろうとしているようだが、ああ、とか、うう、とかいうくぐもった呻きになってしまい、聞き取れない。

「そんな風になっちまったのは、グリフィンのせいなんだな」

 再びうなずき、ダンはずるりとこちらに近付いた。反射的にリーファは後ずさりかけ、辛うじて踏みとどまる。ダンは何かを伝えようとしているのかもしれない。

「本……」

 やっとそう聞き取れる声を発し、ダンはゆらりと手を上げた。リーファを指さしているようでもあり、何かを要求しているようでもある手つき。

「あの燃え残った紙なら、もうオレは持ってない」

 こんな姿になってもまだ執着しているのか。リーファは少し哀れになって、嘘をついた。

「あれは燃やしちまったよ。おまえの望み通りにな」

 実際はまだフィアナが持っているだろう。だが、あれがあろうとなかろうと、『不死者の薬』の作り方は他の本で分かるのだ。このぐらいのことは嘘の内に入るまい、とリーファは勝手に決めた。

「それに、あの薬の材料になる毒魚を売ってた連中も、今日、みんな捕まえた。もうおまえが心配することはないんだよ」

 諭すように言うと、ダンは喉の奥で低く唸り声を立てた。安堵なのか、警戒なのか。その声から感情を推し量ることは出来ない。リーファは相手の反応をじっと観察しながら、ゆっくりともうひとつの問いを発した。

「……グリフィンを殺したのは、おまえか?」

 びくり、とダンの体が震えた。リーファは聖水の瓶を握る手に力を込め、全身を緊張させる。相手が死者であることを、忘れたわけではなかった。それがダンという名の少年であったとわかっても、今はもう彼は死んでいるのだ。生きている者と話すようにはいかない。

(そうでなくたって、こいつは人をひとり殺してる)

 彼にとって、何が刺激になるか分からない。リーファは警戒しながら、もう一度、重ねて問うた。

「おまえが殺したんだな?」

「オオオオ!」

 いきなりダンが叫び、リーファはぎょっとなった。だが、ダンは暴れだしたり飛びかかったりはせず、己の頭を抱え、身をよじって苦しみ悶えていた。

 言葉はない。獣のように唸り、吼えるばかり。意の通じぬもどかしさに頭をかきむしる姿は、まるで慟哭しているように見えた。

「ダン……」

 リーファは恐れながらも、半歩、踏み出した。と同時に、腕を後ろからつかまれる。振り返るとシンハが黙って目だけで制止した。

「離せよ」

 ヘマしねえから、とささやくように言い、リーファはあえて手を振り払って、階段を最後まで下りた。腐臭が鼻をつく。

 リーファはためらいながら、ダンの方に歩いて行く。どうすればいいのか、どうしたいのか、あと数歩の距離まで近付いても、まだわからなかった。

 うずくまり、嗚咽のような声をもらして震えているダンの前で、リーファは立ち止まった。

 雨の音が微かに聞こえる。石室の最奥に木の根が張りだし、壁に裂け目を作っているのが見えた。そこから、わずかな光が射し込んでいる。

(あそこから出入りしたんだな)

 それだけ見て取ると、リーファはまた、目の前の死者に視線を戻した。

「おまえを裁くことは、もう誰にもできないよな」

 独り言のように、ぽつりとつぶやく。

 そう、既に彼は死んでいるのだ。生きている者の法は、もはや彼に対する力を持たない。いまさら彼を警備隊の本部に引きずって行って、何になる?

「オレ達に出来ることは……おまえをなんとか旅立たせてやることぐらいだ。オレはこの国の神様についてはよく知らないけど、きっと神官とかそういう人なら、おまえを助けてくれると思うんだ」

 まさか、あの世が存在しないわけはないだろう。だからきっと、神官なら死者の魂を送り出してくれるはずだ。もっとも、ダンにあの世へ行く気があれば、の話だろうが。それとも、人を殺した罪で彼は地獄に堕ちるのだろうか。

 暗い面を考えるのはやめて、リーファはつとめて平静を装った。

「もう、いいだろう? おまえを苦しめたグリフィンは死んだし、おまえが焼き払おうとした本も、もう……ないんだから」

(きっと後で、オレが燃やしておくから)

 心の中で言い訳し、リーファは説得の言葉を重ねる。ダンはうつむいて身じろぎもせず、それを聞いていた。

 リーファは相手に動く気配がないと確かめてから、シンハを振り返った。

「レア大神官か誰か、呼んで来てくれねえかな。夜中でも神官のひとりぐらい、中にいるんだろ?」

「しかし……」

「オレは大丈夫だよ」

 ダンの気が変わらないうちに、早く。リーファは声に出さず、目で訴えた。シンハはうずくまったままのダンを一瞥し、物音を立てずに墓から出て行った。

 二人だけになると、石室の中は急に寒くなったように感じられた。リーファは込み上げる不安を懸命に抑え、ダンを見つめる。

 と、雨が止んで雲が切れたのか、ふと外が明るくなった。ダンが顔を上げる。リーファはハッと振り返り、背後から射す光が月光でないことに気付いた。

 誰かが、明かりを持ってこっちに来る。シンハにしては早すぎる。嫌な予感がして、リーファはダンの様子をちらちら窺いつつ墓所の入口を見つめた。来るな、と言いたいのだが、それが吉と出るか凶と出るか、予測がつけられなかった。

「姉さん、そこにいるの?」

 問いかけてきた柔らかな声に、リーファはぎょっとなった。

「フィアナ!?」

 声を上げてから、しまった、と振り返る。ダンはゆらりと立ち上がっていた。逃げるのか、それとも……

「こんな夜更けに、どうしてお墓なんかに……」

 言いながら、角灯を持ったフィアナが入ってくる。リーファは上に向かって叫んだ。

「来るな!」

 同時に、ダンが咆哮した。

 狂ったように階段に突進し、フィアナに襲いかかろうとする。リーファは咄嗟にその進路に躍り出ると、聖水の栓を抜いて、

「やめろダン!」

 力いっぱい投げ付けた。瓶からこぼれた聖水が、角灯の光を受けて輝く。

「―――!!」

 ダンは我が身を庇うように腕をかざしたが、水を浴びると凄まじい悲鳴を上げた。強烈な酸を浴びせられたように、もんどりうって後ろに倒れる。そのまま、体に火がついたかのように、叫びながらごろごろ床を転がった。

 リーファは剣を抜いてフィアナを背後に庇っていたが、ダンが起き上がって襲いかかることはなかった。

 ふわっ、とダンの体が浮き上がったかと見るや、見えない手に投げ飛ばされたかのように、最奥の壁に叩きつけられたのだ。唖然となっているリーファの目の前で、もがくダンが、裂け目から地上へと押し上げられていく。リーファは慌てて階段を駆け登って、外に出た。辛うじて見られたのは、大樹の根元から黒い塊が浮き上がり、神殿の外へと飛ばされて行くところだった。

 リーファが呆然としていると、下からフィアナが、神殿の方からシンハが、それぞれ駆けつけてきた。少し遅れて、レア大神官もやって来る。

「リー、無事か!」

 シンハの声で我に返り、リーファはのろのろと剣を鞘に収めた。

「大丈夫、何ともないよ」

 そう答え、次いでフィアナに目をやる。シンハも気付いて眉を寄せた。

「フィアナか?」

「あ、今晩は、陛下」

「のんきに挨拶してる場合じゃねえだろ」

 リーファは額を押さえた。フィアナが現れた途端にダンの様子が一変したのだ。この義従妹殿は、また何かやらかしてくれたのではなかろうか。

「どうしてここに?」

 シンハが咎めるように訊くと、フィアナは拗ねた顔をした。

「どうして、はこちらが伺いたいぐらいですわ。こんな夜更けに墓場で逢い引きもないでしょうに、陛下も姉さんも、何をしてたんです?」

「誰が……!」

 リーファは真っ赤になって怒鳴りかける。フィアナはすっと手を上げてそれを制し、真面目な口調になって続けた。

「見たところ、ダンがここにいたのね。どうやって知ったの?」

「勘だよ」ムスッとリーファは答えた。「ものが死体だけに、墓場にいるんじゃないか、なんて蜘蛛の奴が冗談を飛ばしたからさ。それで思い出したんだ。ここはまだ調べていなかった、って。それよりおまえは? こんな夜中に何をしてるんだよ」

「私は学院で、明日から仕掛ける罠の準備をしていたのよ。そうしたら、姉さんがこっちに来る気配がしたものだから」

 言って、フィアナは金髪をかきあげて耳を見せた。あのイヤリングが揺れている。リーファはまだ小指に例の指輪をはめていたことに気付き、慌てて外した。

「忘れてた、返すよ」

 フィアナはそれを受け取ると、小さくうなずいた。

「これがあったから良かったけど、でなきゃ、姉さん一人でダンと対決することになってたわよ? 危険すぎるわ」

「おまえが来るまでは、ダンもおとなしくしてたよ」

 リーファは言い返し、レア大神官への説明もかねて、墓所でのことを話して聞かせた。

「いきなり飛んでったのには、助かったけど、びっくりしたな」

 苦笑まじりに言って、リーファはレア大神官に問うた。

「あれが結界の力ですか」

「ええ。ですが、墓所から弾き出されるどころか、神殿の敷地外まで放り出されるほどとなりますと……」

 言い淀んだ大神官に代わり、シンハがフィアナに向かって言った。

「悪意程度の可愛いものじゃなく、殺意だったかも知れん。フィアナ、何か奴の恨みを買った覚えはないか?」

 単刀直入な問いに対し、フィアナはしばし考えてから答えた。

「私個人に対する害意ではなかったのかも。グリフィンを殺してしまった後で、本まで焼くほど潔癖で徹底しているのなら、魔術師すべてを憎み、殺そうと考えてもおかしくはありませんから」

「いくらなんでも、そこまでするか?」

 疑わしげな声を出したリーファに対し、フィアナは平静に答えた。

「生きている人間なら、魔術師の誰もがグリフィンと同じではない、と理性が抑制をかけたでしょうけど。死んでしまった後では、生前どんなに聡明な人だったとしても、最期の妄念に囚われてしまうことが多いから……そうなったら、救う手立てはないわ。死者が恐ろしいのは、そういう点でなのよ」

「そういうもんなのか」

 なんともやりきれなくなって、リーファはため息をつく。シンハは墓所を見やり、何事か嫌な物思いを払うように頭を振った。

「だからこそ、ああしてこの世に留まっているわけだからな。妄念に囚われることがなければ、早々にあの世に旅立っているだろうさ」

「となると、あいつが魔法学院の学生を片っ端から襲ったりする前に、なんとか無理やりにでもあの世へ送ってやらなきゃならないわけだ」

 リーファは言うと、助けを求めるような目をフィアナに向けた。それを受けて、フィアナはにこりとする。

「ええ。それが、私の準備している『罠』ってわけ。明日には父さんから姉さんにも伝達があると思うわ。私はまた学院に戻るけど、ここからなら結界がないのは裏道一本だけだから、送ってくれなくてもいいし。今夜はもう休んでおいて」

「ほかの神官には、私から説明しておきましょう。墓所の修復に関してもね」

 騒がしくなりはじめた神殿の方を見やり、レア大神官が言う。それから彼女は、悪戯っぽい笑みをシンハに向けた。

「秘密の抜け道が皆に知られる前に、お帰りになった方がよろしいのでは? 陛下」

 シンハは苦笑いを浮かべ、そうですね、とうなずく。リーファは少し迷ったが、帰って良いと言われると急に眠気が差してきて、あくびを噛み殺した。シンハの方は、隠そうともせず大あくびをする。

「お言葉に甘えさせてもらうとするか。リー、帰るぞ」

「ん……わかった。それじゃフィアナ、気をつけて」

 一抹の不安はあったものの、フィアナの魔術の腕前と頭の良さはよくわかっているし、今は大神官もついている。心配無用だろう。

 二人はフィアナに別れを告げ、再び隠し通路を城に向かって歩きだす。リーファは半分眠りながら、シンハの背中を追って足を動かしていた。

(そういえば、こいつ、ダンの事とか何も訊かずに、普通にフィアナと話してたな)

 今回の件について、オレは何も話してないのに。

 リーファはそんな疑問を抱いたが、眠気に負けて、それ以上のことは考えられなかった。


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