第98話 観光案内
『雰囲気が良いでござる』
小高い丘、というには急な斜面が続いている。見上げた先に巨大な門がそびえ立ち、舗装された坂道をプレイヤーたちが進んでいく。ギルド、紅騎士団のホームにようやく来られた。
高さが出る造りは素直に圧倒される。似通ったロケーションに和風の城壁を築きたくなるが、あれもこれもと望んでも軸がぶれる。回復代行結社の名称らしく隠れ家のイメージを大事にしたい。
坂を上がると自然に呼吸が早くなった気がした。ゲームなのにと一人で恥ずかしくなって咳ばらいをする。リアルすぎるゆえの錯覚か。走り回るのに慣れても、まだまだ経験不足を感じた。新鮮な体験ができると、たまにはポジティブな考えを持っておく。
頂上へ近づくにつれて門のスケールがより分かる。使われる石材の汚しは歴史を抱かせる按配で、ざらざらした触り心地も満足に頷けた。
『扉がないでござるな』
『ギルドの規模にかかわらず、建造物の大きさには手を焼くみたいです』
門を越えると空き地が広がる。柱からつながる壁も中途半端で建設途中なのは明らかだ。
しかし、それでも人だかりが見えた。何が行われているのか確かめるために近寄ると、多くの椅子が円形に並んでフィールドが作られていた。そこだけは綺麗に石が敷き詰められ、プレイヤー同士が戦闘を繰り広げる。
『ふむ、これはPVPイベントを開いているのでしょう』
『紅さんはいませんね』
『おそらく我々と同様に休憩中でござるな』
白の制服を着た三人組と、様々な装備の三人組が武器を振り合う。奥で揺らめく旗には46勝6敗と書かれている。もちろん、紅騎士団の勝敗数だろう。
前回のイベント参加者が見当たらないなか、層の厚さが窺えた。交代制をとれるのもギルド所属人数が多いおかげだ。
『例の忍者がいれば拙者もリベンジに挑戦したかったのですが』
コヨミさんが相打ちになった相手か。紅さんに続く主要メンバーが初めに登場済みなら、休憩を終える時間は予想しにくかった。
ふと今も自分たちのホームへ来てくれているプレイヤーに考えが及ぶ。そろそろ遊びを提供する側に戻る頃合いだ。
PVPには不参加を決めて人だかりを離れ、城の予定地を簡単に周る。門以外の端は崖で守りに堅いのが見て取れた。こういう説得力を感じられる場所は魅力的に映る。
『完成した城内にも訪れたいでござるな』
『いつか探検できるといいですね』
現状、ギルドメンバー以外をホームに招く手段はないけれど、実現が可能なのは今回で分かった。ぜひアップデートで細かに追加してほしい。
紅さんの勇姿を見たかったが機会はあると信じ、お邪魔しましたで次に譲る。混雑は尚も継続中だった。
『いぶし銀のホーム予約が回ってきたので、最後に行きましょうか』
『了解です!』
自分も楽しんでこそのイベントだ。ポータルで移動すると荒れた平原に出る。各所には天幕やたき火が作られていた。
「おらおらー!」
「この……!」
「こっちだ!」
そして、プレイヤーたち全員が縦横無尽に走りながら戦っている。
『エリア全体でPVPが行われているでござるな』
『思い切った設定ですね』
どうやらポータルの機能を持つ石碑周辺のみが安全らしい。観光するには危険な場所だ。
「おっしゃあああ! これで100人目!」
ひと際大きい声に視線を向けると、見覚えのある角刈りさんが刀を掲げていた。頭の上に数字で100のマークが浮いている。
『倒したプレイヤーの数が頭上に表示される仕様でござるか』
確かに、周りの人たちにも数字が浮かぶ。コヨミさんには0で、顔を上げると自分も0だった。
『いやあ、色々と見せ方があるものです』
無秩序な空間に思えても一種のまとまりが生まれている。ひと工夫が面白さにつながっていそうだ。
ただ、個人的にPVPへの参加は戸惑う。公式のイベントなら前のめりで記念にとなるけれど。自分たちのホームを優先する気持ちが上回るからなのかもしれない。
『コヨミさんはどうします?』
『拙者は遠慮しようかと。何か目的があれば飛び込みたいでござるが』
先ほど言っていたリベンジに似た理由だろうか。PVPでなくとも、人それぞれ意欲が湧くポイントは違う。また遊びを考える日がやってくるかは運営次第だが、心に留めておきたかった。
◇
【DAO】イベント会場Part7【第三回】
531 名前:名無しの古代人
おじのとこ入れてたのに
忍者イベントが休止中だった
532 名前:名無しの古代人
ギルドのメンバー数自体が少ないっぽいしな
空き時間はできるだろ
533 名前:名無しの古代人
開催予告をしてほしい
534 名前:名無しの古代人
その時間に予約が殺到するだけ
535 名前:名無しの古代人
PVPのとこは参加できたけど
ちょっとでお腹いっぱい
536 名前:名無しの古代人
個人開催の限界ってやつ?
537 名前:名無しの古代人
言うて公式は時間が限られてるわけで
日を跨ぐし大味になるのはしゃーなし
538 名前:名無しの古代人
商品の用意はもちろん
トーナメントを組んだりの手間は必要か
539 名前:名無しの古代人
僕はランダム訪問で一人見て回るのだった
色々買い込んだわ
540 名前:名無しの古代人
わりと値段設定が安くてお得だよな
売値に色が付く影響?
541 名前:名無しの古代人
マーケットの価格は上昇傾向だしね
542 名前:名無しの古代人
日が経つにつれて高くなるものだ
イベントを有効活用すべし
543 名前:名無しの古代人
つられてマーケットが落ち着くと助かる
544 名前:名無しの古代人
おじの宝はどうなった?
545 名前:名無しの古代人
ちょっと見に行ったがさっぱり
人多かったしもう誰かが持ち出したかも
546 名前:名無しの古代人
あの地図に該当するエリアは複数あった気が
547 名前:名無しの古代人
お宝が何個か埋まってそう
548 名前:名無しの古代人
記念品がほしかった
また似たようなイベントを待ってる
549 名前:名無しの古代人
開催期間の二日が短く感じるな
550 名前:名無しの古代人
いくら期間が長くても個人のイベントだとね
ゲームに割ける時間には限りがある
551 名前:名無しの古代人
こんなとこにいないでゲームをやれ
妖精おじのホームに忍者が現れてるぞ
552 名前:名無しの古代人
相変わらずの混雑っぷりで入れん
553 名前:名無しの古代人
なんか他のホーム紹介みたいなの増えてる
554 名前:名無しの古代人
何それ
貼って
555 名前:名無しの古代人
おじが巡回済みのホームっぽい
ここが良かったとか書いてある
556 名前:名無しの古代人
みんな殺到するなこれ
557 名前:名無しの古代人
普通にありがたいやつ
イベントを真っ当に楽しんでるな
558 名前:名無しの古代人
俺のとこも紹介してくれ
おじの偽サイン入り色紙で稼ぐから
559 名前:名無しの古代人
妖精おじさんにホームへ訪れてほしい人生だった




