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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章前半『おじメダル配布作戦』

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95/155

第95話 記念品の行方

「回り込め!」


「どこ行った?」


「あっちだ、あっち!」


 広い森の中にプレイヤーたちの声が響き渡る。木々の上で軽快に動くコヨミさんを追うのは大変らしい。みんな地面を走っていることから、あの芸当は簡単に真似できないのだとよく分かる。パーティの戦闘ログを開いて攻撃を受けた際の判定で抽出すると、まだ何も出てこなかった。


 用意した記念品は回復代行結社の文字とキュル助の頭部、カメレオンを裏表に刻んだメダルだ。五百円程度の大きさながら、コヨミさんの忍者チャレンジでは素材に金を使ったものを贈る。値段が最も高く数に限界があるため、この調子でほどほどに翻弄してほしい。イベント後であれば追加で作れるが、渡せるならその場で渡したかった。


「あの中には入れんなー」


「ワンチャン隠れてたら近くにくるか?」


「魔法もすぐに射線を遮られると困る」


 諦めて傍観するプレイヤーには、自分がこっそり銅素材のメダルを配る。トレードを介さずとも、装備の隙間などに放り込んで落ちなければアイテム欄に入る仕様だ。細かいログの非表示状態では気づかないのも確認済みだった。


 透明化を欠かさず適当に相手を選ぶ。比較的安価な銅もこれだけ人がいると数が心もとない。余裕があったら合間に生産を挟みつつ、できる限り多く用意したい。


「あっちにも行きたいけど……」


「せっかくここまで並んだしな……」


「で、中には何があるんだ?」


 蔵へ並ぶ列に対しても銅のメダルを配る。内部に作ったのは大きな地図の掲示物だ。どのエリアかを当てるクイズ形式で、答えてくれた人へ抽選で銀素材のメダルを贈る予定だった。


 実はコヨミさんが望んで得た前回のイベント報酬、宝の地図が示す在り処を、みんなの知恵に頼って解こうという下心が先行したもの。オリジナルだと肝心のお宝までプレゼントしてしまうので、低い執筆スキルで不正確に複製し赤い目印を省いた地図を使った。


 さらにダミーで八枚の地図を用い、合わせて九枚を正方形につなげている。答えが複数存在する残念なクイズだが、半分ほどにまともな宝の地図を混ぜていた。


 特殊な宝箱で作る自家製で中身は四種類目の記念品、メダルと同じデザインの鉄プレートに生産のアイテムセットだ。赤い目印は全て消したため、きっと調べに行くのは物好きぐらいだろう。クイズの正解は宝箱と引き換えで、と少々投げやり感は否めない。


 こんなに盛況なのは予想外で色々と計画に甘い面がある。せめて銅のメダルだけでも渡して、漠然に得をしたと思ってもらいたかった。


 ホームを歩き回り賑やかさに改めて驚きのため息が出る。しっかり挨拶をすべきかとも考え直すがこの数だ。今さらだし目の前のことに集中か。


 戦闘ログの動きは未だになし。準備の差があるとはいえ、コヨミさんの活躍がすごかった。さすがに金のメダルが値段的に高くても在庫を抱える意味はない。急なアドリブになるが難易度の調整に隠れてクロ蔵を出動させる。


「クカー!」


 ターゲットはもちろんコヨミさんだ。回復どころか積極的に攻撃を仕掛けるなんて。イベントは普段とまた違う遊び方になるのが面白い部分だった。




 ◇




【DAO】イベント会場Part5【第三回】


 92 名前:名無しの古代人

    ランダム訪問も楽しいぞ

    だから混雑中の席を開けろ


 93 名前:名無しの古代人

    生産イベントとして見ればな

    ホームで売ってるアイテムを見て回るべき

    だから混雑中の席を開けろ


 94 名前:名無しの古代人

    実際おもろいけど

    オリジナルの凝った意匠とかあるし


 95 名前:名無しの古代人

    アイテムを作っても話題にならんと誰も来ない


 96 名前:名無しの古代人

    宣伝手段がゼロっていう

    自演で紹介してくれても構わんが


 97 名前:名無しの古代人

    前回のイベントが宣伝っちゃ宣伝だ

    個人勢はギルドに入ってどうぞ


 98 名前:名無しの古代人

    別開催のPvPイベントは来場者が多すぎる

    期待はほどほどにな


 99 名前:名無しの古代人

    観戦で滞在時間が終わるやつ


100 名前:名無しの古代人

    記念に紅と戦いたかったが

    諦めてランダム訪問か


101 名前:名無しの古代人

    好き勝手にイベントを開くのは運営も想定外


102 名前:名無しの古代人

    妖精おじの忍者イベントも普通に難しい


103 名前:名無しの古代人

    攻撃を当てたら記念品だっけ


104 名前:名無しの古代人

    鎧であの俊敏さは意外

    スキル制ならではか


105 名前:名無しの古代人

    妖精おじのとこから戻ったら見知らぬアイテムが?

    名称は銅のメダルだってさ


106 名前:名無しの古代人

    それが記念品?


107 名前:名無しの古代人

    回復代行結社の名前が入ってる

    地図クイズは答えたけどもう抽選?


108 名前:名無しの古代人

    俺はクイズを答える前に銅のメダル持ってた

    忍者にも攻撃当てられんかったし謎


109 名前:名無しの古代人

    帰ってきたのにないんだが?


110 名前:名無しの古代人

    妖精おじさんが密かに配ってた説


111 名前:名無しの古代人

    マジかよ

    また行かなきゃ


112 名前:名無しの古代人

    これ以上の混雑は勘弁


113 名前:名無しの古代人

    メダルのデザインが結構いい

    文字の反対側がカメレオンで洒落てた


114 名前:名無しの古代人

    リアルでも映えるやつ

    メダル系はコレクションしやすい


115 名前:名無しの古代人

    そういえばDAOのグッズが売ってたな

    個人のオンラインショップで珍しく感じた


116 名前:名無しの古代人

    申請で許可が出るとか書き込みで見たかも

    同人的なノリか?


117 名前:名無しの古代人

    俺が申請しておじグッズを売ろう


118 名前:名無しの古代人

    さすがに細かな実績の確認はされるでしょ

    おじモチーフだと本人の許可も必要だ


119 名前:名無しの古代人

    フットワークが軽い運営だな


120 名前:名無しの古代人

    プレイヤーのグッズは諦めろ

    このイベントで楽しむしかない


121 名前:名無しの古代人

    ホームを歩いてればメダルをもらえんのかな


122 名前:名無しの古代人

    地図も何か怪しい

    単なるクイズにするかね


123 名前:名無しの古代人

    地図関連だとお宝?


124 名前:名無しの古代人

    ちょっと探してくる


125 名前:名無しの古代人

    落ち着いてランダム訪問しとけ

    ゲーム内でお前らと鉢合わせるの恥ずかしい




 ◇




【DAO】幸運の妖精おじさんPart13


730 名前:名無しの古代人

    思いがけずな神との邂逅イベント

    混雑の解消はまだか


731 名前:名無しの古代人

    ギルドは回復代行結社であってる?


732 名前:名無しの古代人

    ≫731

    過激派は否定しがち


733 名前:名無しの古代人

    結局みんな黙って行くから


734 名前:名無しの古代人

    触手頭の忍者はいるけど

    おじはどこ


735 名前:名無しの古代人

    記念品のメダルを配り回ってる噂


736 名前:名無しの古代人

    どっかで鉢合わせてる可能性も


737 名前:名無しの古代人

    詳細な見た目さえ分かれば……


738 名前:名無しの古代人

    おじさんの度合が問題だ


739 名前:名無しの古代人

    そもそもの話

    本当におじさんなのか疑惑


740 名前:名無しの古代人

    信仰が全てを解決する


741 名前:名無しの古代人

    見た目など些細なこと

    信じるものが全てだ


742 名前:名無しの古代人

    記念品はぜひとも手に入れたいが


743 名前:名無しの古代人

    高値で売れそう

    競争率は上がる一方だ


744 名前:名無しの古代人

    トレードと売買不可の属性が付いてるってさ


745 名前:名無しの古代人

    金に物を言わせるのもダメとは


746 名前:名無しの古代人

    宝の地図があるとかないとか


747 名前:名無しの古代人

    スクショ頼む


748 名前:名無しの古代人

    後でな


749 名前:名無しの古代人

    仕方ねー

    信者のためにそっくりなメダルを作ろう

    十万ぐらいで売れるはず


750 名前:名無しの古代人

    はい不敬


751 名前:名無しの古代人

    オリジナルアイテムには個人やギルドの署名が入る


752 名前:名無しの古代人

    信じろ……

    信じるんだ……

    信じればきっと……


753 名前:名無しの古代人

    壊れちゃった

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