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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章前半『おじメダル配布作戦』

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第88話 カレーと味噌汁

 ストーリークエストをクリア後、王都に戻り騎士団の建物で報告する。どうやら橋梁の砦にいた陽気な兵士の姿が消えたらしい。酒を持ち出した張本人で裏切り者の可能性にも及び、調査を進めるとのことだ。


 それにしても、多人数での協力は賑やかしくて楽しかった。終わってから感謝の言葉が飛び交い、自分は当然のようにおじさんと呼ばれた。現実よりも老けた容姿なので余計に言いやすいか。


 達成感を胸にギルドホームへ移動してログアウト。夕方も近く食事について考えながら身体を軽くほぐした。今日は少し歩いた場所にあるチェーン店のカレーに決める。


 手早く準備を済ませて外に出た。宅配を頼めば楽をできるが、僅かな運動を面倒くさがるのはよくない。最低限の健康を意識に毎日を過ごしたかった。


 ゲームに熱中してばかりの後ろめたさを散歩気分で紛らわせ、のんびり店へ赴く。朝の清掃活動と合わせれば帳消しだと、自分でも不可解な理論を盾に言い訳だ。


 大きな通りに出て歩道をしばらく行けば到着。時間帯のせいか、テイクアウト待ちを含め混み具合はほどほど。トッピングを盛るか悩むがスクランブルエッグだけにする。食べ過ぎにも注意し、サラダを付け加えた。味噌汁も欲しいが残念なことに置いていない。カレーへの汁物で市民権を得るのにはまだかかるようだ。


「あ、先生だ」


「あら、こんばんは。今日はカレーですか?」


「はい! 店カレーは家カレーとまた違って美味しいですよね!」


 注文を終えて家にインスタントのストックがあったか、ぼんやり思い出していると会話が耳に入る。学校の教師と生徒だろう。プライベートで教え子に会うのは気まずい面もありそうだが、生活圏が被る以上は間々起きる状況か。


 清掃活動一つとっても何名かの教師陣が忙しく動いてるはず。苦労が窺えて心の中でお疲れ様ですと頭を下げ、注文の品を受け取り店を後にした。


 そして、カレー店でカレーを食べるかを聞く当たり前の会話内容が、どこか面白く笑いかける。人の目が気になり咳で誤魔化しつつ帰路についた。




 ◇




「あぁ、ただいまー……」


 疲れを口で吐き出して家に入る。週末にはいつものことだけど、休みのおかげで回復効果は得られる。DAOの世界へ飛び込む前に体力補給しよう。


 テーブルに買ってきたカレーを置いて、くつろぐ準備をパッと終わらせた。飲み物には牛乳をチョイス。今日はインスタントのお味噌汁もお供にする。


 袋から容器を出し、ふたを開けるとスパイスの香りが一気に広がる。ついつい、辛さを増して頼んでしまった。ぐったりな時ほど辛みで自分を追い込みたくなる。


「いただきます」


 辛い物と戦う前は胃に膜を張るのがいい、という噂を信じて先に牛乳を飲む。一口目はルーをスプーンですくって食べる。


「んー、美味しい……でも辛い」


 味わい深さを前提とした辛さは満足度が高く、汗がじんわり出てきた。次はご飯と一緒にいただき、お味噌汁を合わせる。熱さの影響か辛さをより感じられた。


 トッピングの旨辛にんにくを加えて三口、四口と続ける。普段は遠慮するにんにくも、休日限定の身体が元気になるバフだ。


 本当は辛みや刺激から遠い、優しい味で消化にいい食べ物を選択すべきとわかっている。わかっているけど、すり減る精神力の回復には欠かせない。せめてもの懺悔にコーン多めのサラダを挟みながらカレーを食べ終えた。


「ふぅ、ごちそうさまでした」


 お腹が膨れて心地良さに眠気が襲う。食べてすぐの仮眠は汗も相まって避けたいし、お風呂に入るのも少し時間を空けたい。なので、DAOのサイトをスマホで開いてログインする。目を覚ますにはぴったりだ。もっとゲーム内の情報を参照できる専用アプリが出てくれると嬉しいのに。


 NEWの表示を反射でタップし、それがメッセージで差出人が運営なのを見て眠気は一瞬でどこかへ行く。タイトルにはイベントの報酬と書いてあった。


 各種アイテムの他、希望すれば特定のアイテムを選べるのはすごい。もちろん、後者の希望を伝えて心待ちにしていた。しかし、文面を確認すると要求そのままではなく、入手に遠回りが必要みたいだ。


 ふむふむ、過程は十分に楽しめる範囲でむしろあり。この報酬は譲り合いの末にもらったもの。遊びにつなげられるのが一番だった。


 目ぼしいのは新着メッセージのみ。キャラのステータスなどを眺めた後は、お風呂に入ってリフレッシュ。やることを片付けてDAOを始める。


 ギルドホームでまずは落ち着く。理想の和風空間でナカノさんには感謝しかなかった。あーしたい、こーしたいは頭の中にあっても、理想通りに仕上げるのは別の話。リアルの部屋も諦めてミニマリストかのようにシンプルだ。


 イベントの報酬には拡張アイテムもあった。ここから、さらに規模が大きくなるのを想像してわくわくする。新しい部分の内装は単に任せるだけでなく、私も何かお手伝いをしないと。生産系のスキルをひとつぐらい覚えて、家具を作るのはどうだろう。雰囲気抜群のホームで作業台に向き合うのも、きっと楽しい。


 当面はマーケットで家具をチェックしながら、気になったものを手持ちの資金と相談で購入かな。もし、簡単に作れそうなら生産に挑戦だ。充実したホームはちょっとした旅行気分を味わえる。積極的に家具を揃えて快適に過ごしたい。


 ギルド画面を開いてメンバーの状況を調べると、ナカノさんはログアウト中だった。運営に送られてきたアイテムを先に受け取る。詳細は二人になってから、と思ったところ囲炉裏を挟んだ正面にちょうど現れたため、姿勢を正して挨拶する。

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― 新着の感想 ―
途中からコヨミさん視点の話になってるのに 気づかなかった自分の読解力に嘆く。 書き物としては《何某Side》なんて貼付するのは 「野暮」なのだろう。
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