第87話 攻撃系のヒーラー
兵士たちは急いで走っていくが、ごく一部にとどまる。飲み潰れてしまっては駆けつけるのも難しい。やはりタダでは終わらなかった。
日常的に起こるものならともかく珍しい事態だとタイミングが完璧すぎる。酒を勧めた兵士が単純に怪しく、歓迎会のきっかけになる自分を送り込んだ騎士も怪しいと思えてきた。組織内に敵対勢力が潜むのは大変だなと、部屋を出て階段を下りる。
≪プライベートエリアを離脱しました≫
≪クエスト専用エリアに移動します≫
再びシステムメッセージが流れて、取り込み中の門前で状況を把握する。
「門が破られるぞ!」
「後ろに引け! 巻き込まれる!」
NPCの剣幕を背中に砦の中央へ行くと何人ものプレイヤーが待っていた。これはレイド戦と同様に力を合わせての戦いか。
集団に混ざって後方へ下がる。門は慌てように反し頑丈で鈍い音を立て続けた。その最中にも壁の通路からプレイヤーが一人、二人と現れる。時間や人数で参加が区切られるのだろう。
「もう限界だ! 構えろ!」
ついに来るかと回復魔法の準備をする。ここは協力が当たり前のエリアで、わざわざ隠れなくても大丈夫。持ちつ持たれつ、戦力の勘定に入れてもらってクリアを目指したい。
――バキ、ドゴオン!
派手な音と共に重々しい門の扉が吹き飛んだ。複数の大きな岩が組み合わさり人の形を成すモンスターを先頭に集団が流れ込んできた。
「うお、めっちゃいるな」
「デカブツは何人かで対応するほうが安全か」
「あいつはタンクで押しとどめて、火力職で雑魚を先に蹴散らさん?」
「それがいいね。後衛は十分に距離を取ってよ!」
慣れたプレイヤーたちを中心に話がまとまり動き出した。早い判断に称賛を送りつつ、広がった前線を目標にターゲットの切り替えを繰り返す。
見たところヒーラーの数は最も少ないが、役割的に多すぎるよりは遥かにマシ。モンスターを押しとどめてくれる人がいなければ右往左往で、貢献する隙すら作れなかった。
「空のモンスターを優先に頼む! 届かねえ!」
「ファイアボール!」
火の玉が宙を飛び当たった鳥型モンスターが燃えて地面に落ちる。自分の出番と思ったが手際の良さに感心するしかない。
横目で捉えた限り、攻撃魔法は回復と同じくターゲットだけで対象に向かう。威力も高そうで投擲の完敗だ。毒の状態異常を与えたり便利な面があるというアピールも、腐り玉のおかげなのがなんとも。
「うひー! 二匹はきつい!」
コネクトヒールで回復を飛ばす。
「回復うめー!」
声を上げてくれると咄嗟に動きやすくて助かる。他のヒーラーとは自然に距離を取って持ち場を限定し、効率的に仕事をこなす。余裕ができる度に周りへ視線を巡らして必要であれば、すかさずフォローだ。
「デカブツゴーレムに攻撃がほとんど通らん。特殊なバフ積んでる?」
「ギミック見当たらんし周りを減らすのが正解でしょ」
戦いは順調に進み飛行タイプのモンスターがあらかた片付く。プレイヤーの犠牲はゼロ。戦力差が生まれたことによりこちら側の勢いが増した。
「こりゃ決まったな、と?」
「フラグ乙ってやつだ」
「集まれ!」
突然の異変に陣形を皆で整える。討伐済みモンスターから黒い煙の渦が巻き起こり、巨大岩人形に纏わりつく。煙は徐々に肉を帯びるがゾンビのように崩れていた。
「オオオオオオ!」
叫び声が空気を震わす。ターゲット名はゴーレム・アビスだった。
「げげ、えんがちょ系モンスターか」
「ゴーレム改め、でかゾンビだな」
「回復魔法で楽勝?」
ゾンビの特性を持つならあり得る。すでに別のプレイヤーが魔法を唱えているので結果を待つ。
「ヒール!」
モンスターへ回復を放つのも妙な光景だ。
「くらってる?」
「残念、ノーダメージ」
「本体は中身のゴーレム部分で、腐った肉はただの鎧か」
「地道に剥がすしかない」
「第二ラウンド開始だな」
ゴーレム・アビスに集中砲火が浴びせられる。大人数での攻撃は圧巻だ。
「やべ! 避けろ!」
しかし、相手も黙って倒されるつもりはないのか突進してきた。
「なんか動きがスムーズになってんな!」
質量に対する機敏さが不釣り合いで反撃の予測を立てづらい。進行方向にだけは気をつけて位置取る。
「短期決戦がいいかも! ヒーラーの皆さん、回復お願いします!」
確かに、広く暴れられるのは厄介だ。息を合わせながらコネクトヒールを使い、魔導書へのストックで次に備える。その間に少しでもダメージの足しになるよう投擲を行う。
腐り玉の在庫はまだあるけれど、効き目は薄そうだ。直前のエリア、酒湯洞窟で購入したパワフルラムを試しに出して瓶の口部分を持つ。普通のお酒に見えてもったいなく感じるが飲むには適さないとの説明を信じ、狙いを定めて投げた。
手首のスナップを意識すると一直線にゴーレム・アビスへ向かって命中した。身体自体が大きいため外す方が難しいか。
「ファイアボール!」
そして、体力が多すぎて威力については分からないものの、火の玉が当たった直後に燃え広がり驚いた。
「おー、ド派手に燃えたぞ!」
おそらく、パワフルラムのアルコールらしい効果だ。毒といいテクニカル方面で支援には適する。
「やっぱゾンビぽいし燃えやすい?」
「というか落ちた肉が戻ってるね。タフなやつめ」
「序盤のストーリーで色々と盛られてるな」
パワフルラムを投げ続けたいが、役立つ確証がなく所持数は控えめだった。再び酒場へ訪れたときにはもっと仕入れておこう。
何本かを消費し終えて次はあれも試そうと準備する。新しく覚えた回復魔法、ターンアンデッドだ。
ゾンビ系のモンスターにはヒールよりも攻撃的に使えるはず。コネクトヒールのストックができずに忙しさが増すなか、状況を見極め唱えてみた。
「オオ、オオオオ……!」
ゴーレム・アビスが今までにない呻きを漏らす。さらに、通常の攻撃に比べて帯びた肉が剥がれ落ちる量も多かった。これは有効な手段と考えていいだろう。
「今のは?」
「回復魔法のターンアンデッドが効いたみたいです!」
伝えるべきとの気持ちが先行して、若干ボリュームを間違えた声が出てしまった。
「ナイス! 他に使える人は?」
「俺はまだ覚えてないから無理っす!」
「私もまだ!」
「じゃあ、回復は他で回そう! おじさんは攻撃に参加お願い!」
「分かりました!」
流れで不慣れな役割を任される。位置は後衛のまま、攻撃魔法を駆使するプレイヤーを手本にしよう。
◇
【DAO】総合スレPart169
65 名前:名無しの古代人
スキルに優遇不遇がある気がした
各熟練度で覚えられるのが一種類だけとか
66 名前:名無しの古代人
不遇を愛せ
とはいえ遊び幅が欲しい
67 名前:名無しの古代人
実は低熟練度でもドロップ専用のやつが存在する
68 名前:名無しの古代人
67≫
それマ?
69 名前:名無しの古代人
高熟練度だけと思ってた
70 名前:名無しの古代人
クエスト報酬の場合もね
71 名前:名無しの古代人
早く情報をまとめてくれ
72 名前:名無しの古代人
まあ稼ぎにもなるし
黙ってる人は多い
73 名前:名無しの古代人
執筆なんて特殊なスキルもある
秘伝書と魔法書の複製ができるよ
74 名前:名無しの古代人
まるで金儲け専用スキルだな
75 名前:名無しの古代人
レア素材を使うのが問題だ
複製回数に制限もあって手間に見合うかと言われると
76 名前:名無しの古代人
地道に探せ
普通に遊んでればそのうち拾う
77 名前:名無しの古代人
ゲームを楽しむやつのところに運は回るってこと
78 名前:名無しの古代人
自分楽しくストーリー進めてます
感覚マルチ多めなんかな
79 名前:名無しの古代人
ぽいね
今のうちに進めるのがよさそう
80 名前:名無しの古代人
みんなクリアしちゃうとね
たぶん周りがNPCになって味気ない
81 名前:名無しの古代人
クリア後も参加可能なんだなこれが
報酬もらえるからやってみ
82 名前:名無しの古代人
知らんかった
それなら賑わいも残るか
83 名前:名無しの古代人
初心者へのちょっかい出したがりが列をなすぞ
84 名前:名無しの古代人
あんま強い人が来ると楽勝にならん?
85 名前:名無しの古代人
レベルがないからスキルシンクで調整されるみたい
86 名前:名無しの古代人
ほな大丈夫か
87 名前:名無しの古代人
そもそもの難易度がわりと高くね
88 名前:名無しの古代人
マルチ部分はその傾向があるかも
プレイヤーの数に合わせた補正とか?
89 名前:名無しの古代人
橋梁の砦で戦うゴーレムは下手すりゃ何人か死んでた
90 名前:名無しの古代人
一応はジョブの数でバランスをとってるでしょ
91 名前:名無しの古代人
さっきクリアしたけどターンアンデッドが活躍してたぞ
92 名前:名無しの古代人
弱点は用意されてんのか
93 名前:名無しの古代人
あの時点だと熟練度が高い部類なんじゃ
寄り道しまくるのが運営の想定?
94 名前:名無しの古代人
そういえば使ってたのは見るからにおじさんだった
95 名前:名無しの古代人
寄り道おじさんか
96 名前:名無しの古代人
悪霊退散おじさんだろ
97 名前:名無しの古代人
普通に遊んでる野良おじさんだ
ほっといたげてよ
98 名前:名無しの古代人
か弱く儚いのがおじさん
99 名前:名無しの古代人
おじさんの保護活動始めるか
100 名前:名無しの古代人
ゲームでおじさんのキャラクリするんだぞ
図太いに決まってる




