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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章前半『おじメダル配布作戦』

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第86話 酒湯洞窟

 ガンセキドリを練習台に投擲の自信を取り戻した頃、一面の岩壁が行く手を遮った。所々に木材が乱雑に組まれたり、バルコニーのようなものまでがせり出す。おそらく雫の洞窟と同様にエリアを区切る場所だ。


 入口は分かりやすく木の扉で作られている。他のプレイヤーに混ざって中へ入ると広い空間が現れた。


 洞窟でありながら木材による補強が行われ灯りが多い。広場の中央には大きな灯籠が置かれてポータルの青い球体が見える。エリア名は酒湯洞窟だった。


 どうやらモンスターがいないらしく王都並みに賑やかしい。三方向に伸びる通路を適当に選らんで進み、途中に設けられたドアを開ける。何があるのか覗くと灯りの光量が控えめの部屋で、複数の円形テーブルに座ったプレイヤーたちが談笑する。奥のカウンターと後ろに並ぶ大量の瓶が酒場を印象付けた。


 興味本位にマスター風のNPCに話しかけると色々な種類の酒が売られていた。たとえ、飲んだとしても酔わないが雰囲気は味わえる。



【パワフルラム】

『種類』攻撃アイテム 料理素材

『説明』燃えるほど度数の高いお酒

    飲むには適さない



 なかには攻撃系のお酒もある。形は瓶なので投げるにも工夫が必要だ。今までアイテムの形状については考えなしで、投擲の奥深さへ思いを巡らしつつ購入した。


 通路に戻り他も見て回るとタルが積まれた部屋など、エリア名に酒の文字が付くだけあって関連する内装が多い。目についたのれんをくぐると期待通りに風呂場だ。洞窟との組み合わせには独特の趣があり、水着装備のプレイヤーたちが楽しんでいた。


 現実顔負けな観光地の様相で人の多さも比例する。ここに混ざると自分のファンタジーから外れた姿が原因で異物感が出ないか心配になり遠慮してしまう。とはいえ、等身大に近いキャラクターだと現実の延長線上でくつろげる利点もある。この場は諦めて、せっかくなら気兼ねなく楽しめる秘境を探そう。


 前向きに風呂場を離れて通路を進み、階段を上がって行くと木の扉に阻まれる。そこを開けると殺風景な荒野で、遠くに城のような建物が眺めた。


 洞窟に続いてモンスターの姿がなく障害物もない。周りのプレイヤーたちが馬に乗って移動していたので自分もペンリルを呼んで先を目指し、エリアの都合か特にイベントも起こらずに建物へたどり着いた。


 見張り台の多さや石積みの高い壁で四角く囲まれた様子は砦っぽい。地図ではクエストのマークが躍り、ストーリーで聞いた橋梁の砦という名称が表示された。


 ペンリルを降りて開いたままの門をくぐり、分厚い壁を越えると空の下で土の地面が広がる。砦と言えば敵が攻めてくるのを防ぐ機能を持つはずで、きっと緊急時はここで押しとどめるのだ。


 一度、奥まで歩いてもう片側の門へ向かう。こちらは閉じられていて小さな扉を使い外に出れた。待っていたのは馬車が余裕ですれ違えるほどの大きな橋だ。砦と同じく石造りで頑丈に見えた。


 下は深い崖で左右に長く伸びている。その光景に始まりの村から王都への道中にも崖と橋があったのを思い出す。上下の複雑なマップ構造には好奇心が湧く。王都が崖に囲まれる設定などにも想像が膨らんだ。


 観光もそこそこに砦内へ戻る。分厚い壁には通路が存在して中に入ることができ、クエストのガイドが道筋を示した。



≪プライベートエリアに移動します≫



 急にシステムメッセージが流れて他のプレイヤーがいなくなった。なぜ、と考えて狭い通路の影響かと納得する。行き来のしやすさ優先で幅を取ると壁の強度に疑念が向く。ゲームだからと手を抜かないこだわりか。


 階段を上がり高台下の小部屋に入る。休憩所になっているのかテーブルと椅子が置かれて数人の鎧を着たNPCがいた。トランプが散らばったりでくつろぐのが分かる。


 話しかけるとクエストが進んだ。自分が訪れた理由については、騎士や兵士に加え冒険者が国の防衛に参加する試みが行われている、という方向で裏切り者の内容は隠された。


 新人扱いで橋梁の砦が持つ役割に関した説明を受けるが、その最中に陽気な兵士が歓迎会を開くと言い出す。酒瓶を手にやる気満々で他の兵士がたしなめる。


 この中に隠れているかもしれない裏切り者を自主的に探すのは大変だ。会話だけで解決してくれればありがたいと思いながらも、念のため言葉を聞き逃さずに耳を傾ける。ただ、飲みたくて仕方ないのか度々酒瓶が登場する。最後には歓迎会の言い訳が通って軽いパーティが始まった。


 どうも人員に余剰がほぼなく仕事に追われる毎日で、陽気な兵士に限らずたまには羽目を外したい気持ちがあるらしい。冒険者の助けは望むところだと笑っている。NPCと理解したうえでも、お疲れさまとねぎらいたくなった。


 途中でクエストの進行に伴い時間経過が挟まり、外を見ると夜に様変わりだ。現実と乖離するのは珍しく時間帯の変化が新鮮に感じる。警戒に当たっていた兵士が部屋へ戻ってくると少し手狭になった。


 本来なら交代に出るはずの兵士はすっかり酔いに負けている。冒険者のプレイヤーはたくさんいてフォローも容易だろうし、今日ぐらいは楽しんでもらおう。パワフルラムの他に普通のお酒も買っていれば提供できたのだが。


 そして、役者はこの場に揃った。裏切り者探しも本番で目を光らせる、と言っても現段階ですら話しかける以外に行動がとれない。お酒を勧めて勧められての応酬だ。


 このまま怪しい人物はいなかったと報告に戻るパターンも考えられる。疑いすぎるのは良くないと反省しつつも、地響きに似た騒がしい音が聞こえてきた。

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