第84話 イベントの恩恵
清掃ボランティアを終えて帰宅後、いつも以上の空腹感を満たすために昼食をとる。まだ運動不足が継続中の身体では屈んでゴミを拾うのも重労働だ。食後にまたひと休憩を挟み、DAOにログインした。
まずは囲炉裏の前で寝転がってごろごろする。ギルドホームの居心地が良く、ついのんびりしたくなった。実際にこんな和室をこしらえるのは大変だ。
家よりも快適なのは現実軽視につながるようで少し心配だが、何事もバランスか。思い返せば第二の人生に関連して広告に出てきたゲーム。ここまで夢中になるのだから正しい宣伝だったな。
とりあえず身体を起こし頭を働かせる。イベントのランキング報酬については、すでに運営から手紙が送られてきていた。見覚えのある文面で選択肢を提示されたが、前回の分すら棚上げ状態だ。
これだという欲しいアイテムがなく急かされてもいないので、迷惑なプレイヤーを承知で先延ばす。せっかく得た権利は有効活用したい。
さすがに今回の報酬を合わせて保留にするのはやりすぎだとの自覚がある。そこで、イベントを通し大活躍してくれたコヨミさんに任せておいた。初めは断られたが、他にも報酬があり最終的になんとか押し切れた。
追加分はギルドでの参加イベントらしく、ホームの拡張アイテムが二種類もらえた。どうせなら時間があるときにと昨日は受け取るだけで済ませた。コヨミさんがログイン後に使ってみよう。
そろそろ冒険に出たくなり王都のポータルへ移動する。イベントのおかげで各種熟練度が成長しているので新たなスキルを覚えておきたかった。
まずは回復魔法ギルドに赴く。建物内にいる人の多さは相変わらずで、勝手な仲間意識を感じて嬉しくなる。気軽に話しかけるのは難しいが今まで通りに支援を頑張りたい。
【コネクトヒールの魔法書】
『種類』魔法書
『効果』コネクトヒールを覚えることができる
回復魔法の必要熟練度:300
『説明』癒しの祈りを人から人へ繋ぐ術
繋がりの強さが影響を与える
名も無き聖職者が編み出した
彼の才能は誰にも評価されることがなかった
販売、ではなくお布施品の中から現在の熟練度に合う魔法書を選ぶ。ヒールに何かの効果が加わるのは分かっても、パッと見ただけではなんとも言えない。端的な説明があると助かるけれど、使うまでのお楽しみと考えれば納得できた。
【ターンアンデッドの魔法書】
『種類』魔法書
『効果』ターンアンデッドを覚えることができる
回復魔法の必要熟練度:300
『説明』死を拒絶する者たちへ仮初の生を与える術
異端の司祭コンセルブスが編み出した
彼の探究心は時に人々へ畏怖の念を抱かせる
さらにもう一つの魔法書を選ぶ。こちらはおそらく沼地で戦ったゾンビに、ヒールでダメージを与えられたのと似た効果か。きっと効率やダメージ量が良くなるはず。対象が限定的な分、活躍を期待だ。
遊びの幅が広がると楽しさやモチベーションが増す。すぐさま試したいが回復魔法ギルドを出て次は投擲ギルドに向かった。
ポータルを利用して地下通りに立つ。今は街を散歩しながら景色を眺めるよりもスキルを優先する。トタン風の建物が連なる場所は案の定、人がまばらだ。
クエストなどで訪れる機会が少ないのだろうか。このさびれた空間を好むプレイヤーはいそうなのに。原因は導線の弱さあたりと推測できるが、逆に言えばひっそりした雰囲気だからこそ映えるのかもしれなかった。
投擲ギルドは、回復魔法ギルドの賑わいと打って変わった静けさだ。どこか不遇な扱いも自分だけが知るという、ある種の魅力を持てる。ただし、ニッチだと投擲用のアイテムや素材がマーケットに流れにくい問題もあり、ほどほどには便利さが広まって欲しい。
【ラピッドスローの秘伝書】
『種類』秘伝書
『効果』ラピッドスローを覚えることができる
投擲の必要熟練度:100
『説明』素早く投げることで威力と命中率を高める
投擲における基礎的な秘伝書の一つ
そして、秘伝書を選んで入手する。真っ当な投擲物の効果向上で使いやすいスキルだ。成長した熟練度で覚えられるのはこれで最後。よしとポータルの近くに行くけれど、どこで試すかが悩みどころだった。
こだわっても仕方なく久しぶりにクエストを進めたくなる。確か重要な物資を奪われたとかなんとかで、巨大モンスターとのレイド戦を終えたのだ。その流れの中でコヨミさんと出会ったのも懐かしい。
タイミングが異なればすれ違うことすらなかった。未だに一人で遊んでいた可能性を考えると現状にホッとする。巡り合いに感謝だ。
騎士団の建物へ向かいエントランスに入る。この重厚さをギルドホームで出そうとして失敗もした。いくら参考にできても広さや間取りが変わると、やはりセンスが問われる。ホームの拡張に合わせて丸ごと内装を真似られる、ほどよく狭い和風の部屋があれば助かるのだが。
本棚に囲まれた部屋には以前も見た鎧を着た人物がいる。話しかけるとストーリーが進み、橋梁の砦とやらに行くよう頼まれた。盗賊団を手引きする何者かがいて調査したいとのこと。
身内の裏切りに警戒して外部の人間が必要らしい。そういう意味では、ストーリー的に信頼を勝ち取れたのだろう。自分が裏切る選択肢は特になかった。
橋梁の砦は坑道跡地のまた向こうだ。ポータルを使って移動し、道中で見つけたプレイヤーへ支援しよう。




