第78話 ニンジャナンデ?
パーティメンバーを三人に減らしながら、紅さんが周りのプレイヤーを全て倒し切る。安定した立ち回りに加えコヨミさんの支援が効いていた。
これで魔導書を手に殴りかかる必要もなくなって安心する。回復魔法が助けになったのなら何よりだ。
『ではでは、古代の遺物周辺で拙者は待つでござる』
『よろしくお願いします』
ここまで生き残れたのは僥倖でゲームクリアと言ってもいい。しかし、単純なリタイアは締まらない、というのは少し違うか。正直、相手が紅さんでも勝ち残りたい欲がまだあった。
実質的なイベント勝者に正面切って戦うのは無謀そのもの。地味になるがダメージゾーン内でしか同じ土俵に立てなかった。
地図が真っ赤で分かりにくくても配信区域は設定されているはず。動画映えには遠いけれど、最後にわがままを通すぐらいは許しを請わず行いたい。
今思うと地面に埋まった様子はさぞ間抜けなことだろう。どう映るか気になるが壺の中は暗い。自分の姿は闇に紛れると信じて緊張を和らげる。
紅さんたちはきっと話し合いの最中だ。コヨミさんがダメージゾーンに入って行くのは見ている。すぐに追わないのは自滅を想定できるからか。
回復手段はポーションと雫石の他、調合で作成した罠で使えるアイテムがあるため短時間の活動は見込める。クロ蔵をサポートにとも考えたが、現状はキュル助よりも体力が低い。途中で死んでしまっては無駄に終わるし諦めた。
活かしどころに気をつけて、と動向を窺っていたら広場へ立つ人数が二人になる。
『忍者が広場から消えました』
『了解です!』
そろそろダメージゾーンが自分を飲み込む。こちらにはイベント専用アイテムのアドバンテージがあるものの、詳細な効果は使って初めて明らかになる部分が多い。上手く作用することを祈って安全破壊の巻物を手にした。
◇
【DAO】イベント会場Part11【第二回】
891 名前:名無しの古代人
やはり紅騎士団が残ったな
892 名前:名無しの古代人
数は三人に減ったけど
終わってみればオッズ通りの結果だ
893 名前:名無しの古代人
まだ終わってない定期
894 名前:名無しの古代人
参加中ギルドの一覧も寂しくなった
回復代行結社と紅騎士団の耐久勝負になりそう
895 名前:名無しの古代人
妖精おじさんはこのまま埋まってるつもりか
896 名前:名無しの古代人
協力したが勝ちは譲らんと
897 名前:名無しの古代人
さすがに殴り合いは紅に分がある
898 名前:名無しの古代人
意外と妖精おじが強いパターン
あると思います
899 名前:名無しの古代人
触手頭はダメージゾーンに逃げたのか?
長くは生きてられないでしょ
900 名前:名無しの古代人
無策で行くかね
901 名前:名無しの古代人
とはいえ狙われても死ぬし
妖精おじの加護も距離が開くと難しいが
902 名前:名無しの古代人
もっと耐久狙いのギルドがいてもよかったのに
全員退場したんかな
903 名前:名無しの古代人
耐久はヒーラーをリーダーに設定するのが効率的だから
不意の遭遇戦にはめっぽう弱い
904 名前:名無しの古代人
現状が全て
ダメージゾーンに入りっぱなしは難しいんだろう
905 名前:名無しの古代人
範囲ぎりぎりの待機組がつぶし合ったとか
同じ考えを持つ以上は遭遇確率も上がる
906 名前:名無しの古代人
筋金入りの妖精おじに並ぶ隠れ師は現れなかったな
907 名前:名無しの古代人
紅騎士団の忍者も移動を始めた
908 名前:名無しの古代人
数の有利を捨てて別行動だ
909 名前:名無しの古代人
他にメンバーが潜んでるかの確認かも
910 名前:名無しの古代人
残ってる人数は配信見ないと分からんし
911 名前:名無しの古代人
足元にいるんだよなぁ
912 名前:名無しの古代人
でも収縮の中心点からずれてる
ダメージの蓄積による差がどうなるか
913 名前:名無しの古代人
あれ?
一気にダメージゾーンが広がった
914 名前:名無しの古代人
なんやこれ
バグ?
915 名前:名無しの古代人
公式の仕掛けにしては思い切りすぎ
916 名前:名無しの古代人
アナウンスはないみたい
917 名前:名無しの古代人
紅とヒーラーがすぐに動き出した
判断が早い
918 名前:名無しの古代人
一方そのころ妖精おじさんは
919 名前:名無しの古代人
埋まったまま寝てるまである
920 名前:名無しの古代人
さすが妖精と呼ばれた辻ヒーラー
面構えが違う
921 名前:名無しの古代人
脱落前にイベント専用アイテム拾ったからそれかも
効果は全く違うけど
922 名前:名無しの古代人
そんなもんがあったのか
923 名前:名無しの古代人
紅側が使ったとは考えにくい
妖精おじさんの計略と見た
924 名前:名無しの古代人
つくづく意外性を出してくるな
◇
木々を飛び移りながら紅騎士団のメンバー、デスコが急ぐ。
(ポーションだけではダメージの相殺が難しいですわね。先に行かれた方も同じ状況のはずなのですが)
イベントの継続時点で別パーティが生き残っているのは確か。ヒーラーを含む複数人の可能性を考慮に周囲へ目を向ける。
『回復には古代の遺物と巻物もある。距離で効果が届くかわからないけど、ポーションが間に合わなかったら言って』
『ええ、わかりましたわ』
(紅ちゃまの回復優先で、先に倒れるブルースちゃまを復活させるのがベスト。ダメージゾーンが急に広がったのは気になりますし、穏便に済むとは思えませんわね)
デスコはポーションの合間に、回復効果の発動に時間がかかる包帯を巻く。あっという間に目的地へ着くと古代の遺物を見下ろせる木に留まり警戒を強めた。
(同業者に隠れられると探し出すのは骨ですけれど……)
息を潜めて待ち構える側はやって来るプレイヤーを察知しやすい。躊躇は余計なダメージにつながるため、彼女はあえて木を下りて古代の遺物と対面した。
(先に厄介ごとを済ませましょう。誰もいないのであれば重畳。邪魔をされて復活が失敗するのだけは避けたいですわね)
誘いを狙いに手を伸ばした瞬間、後ろを向いて振るった短剣が金属音を響かせた。
「ほお、よく気づかれましたね」
攻撃を仕掛けたのは鎧を着込んで触手を頭にかぶるコヨミだ。距離を取って軽い調子で応対する。
「一端の忍者を気取るのなら、殺気の隠し方を学ばれるようお勧めしますが」
「師がいないもので。しかしながら、地面を踏みしめる音や空気の震えは慎重に動いてもゼロにならずデータ化されます。ゲームにおける表現の素晴らしさには一役買うのかもしれませんが、完全な無を目指したいプレイヤーにとっては少々不都合でしょう。普段は環境音に紛れても用心を重ね耳を澄ませると、聞き分けることが可能になるわけです」
「長々としたご高説は時間稼ぎのつもりですか?」
「そう思わせる拙者の作戦でござる」
「役に入り切った振る舞い、嫌いではありませんわね」
「そちらの語尾も大概ですが素敵かと」
二人は手に持つ短剣を芝居がかった様子で向け合った。




