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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第二章『回復代行結社でござる』

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第74話 埋葬未遂

 真っ暗な空間に息苦しさを覚える。地面の下へ埋められるのはタルなどと違って心理的な恐怖があった。


 壺の形状が土をかぶせるのに役立ち、コヨミさん曰く地上ではまったく気づかないらしい。なんとか他のプレイヤーが来る前に準備を終えられたが不安だらけだ。


 壺の口部分は少し地上に出ていて草の隙間から外の様子、丁度ダメージゾーンの収縮中央地点を窺える。森も夜なりに暗いが穴の中に比べれば遥かにマシで状況を把握できた。


「覚悟!」


「ふぬっ……!」


 それに、いち早くやってきたプレイヤーたちが照明具を気にせず使っているので賑やかしい。ここだと安全に支援を行える反面、最終局面では誰を対象にするのかが難しかった。


 余計な横やりにしかならないのは不本意、というのも勝手な考えだけれど。度々、自分の行動を振り返ってどう思われているかが心配になる。遊び方の一つとして容赦のほど願いたいところで、最低限は誰かの為にと繰り広げられる戦いを見守る。


『続々と集まっていくでござる。迫るダメージゾーンとの境界でうろつく方々はほとんどいません』


 コヨミさんが森の交錯模様を伝えてくれた。木々に登って飛び移る姿が容易に浮かぶ。


『それにしても紅騎士団の忍者は油断ならないでござるな。きっと警戒に喜びを見出す趣味人でしょう』


 趣味で済ますのが正解かはともかく、忍者のスキルを選択する人は細かいこだわりを持っていそうだ。


『紅さんたちの動きは分かりますか?』


『他の皆さまと同様に中央へ向かっています。接敵前に相手が逃げるため戦いは起こらず平和でござるよ』


 消耗がないのは何よりだが、最後に囲まれるのは目に見えている。コロッセオよりも逃げ場は少なく、周りが結託して倒しにかかるのは早いはず。


『引き続きになりますが、紅騎士団の支援をする方針でも構わないですか?』


 一緒のギルドにこそ入らなかったが、やはり協力したい気持ちが強い。単独で勝ち残る勇姿を特等席で観戦できることを期待し、もしも狙われて劣勢に立ったなら回復魔法の出番だ。


『もちろんです! では拙者も隠れ潜み、良きところで飛び出すでござる!』


『よろしくお願いします』


 能動的な活躍をしたくなるが適材適所と納得する。地面へ埋まって静かに機を待つぐらいが自分にはお似合いだった。


「おらおら! てめぇら逃げてばっかでつまんねーぞ! いい加減かかってこい!」


 その時、騒がしさと共に現れたのはギルド、いぶし銀の五人だ。相変わらずの勢いで場を荒らしだす。


「ちょっと早かったんじゃないかね。すぐに囲まれるよ」


「上等! 全員ぶっ飛ばす!」


 先頭に立つ角刈りさんには、コロッセオでの支援があまり喜ばれていなかった。誰もが必要とするわけではないのだと改めて考え直し、息を潜める。


「っとと、なんか手強くねーか?」


「ここまで生き残ってるんだ。あたしらと実力はさほど変わらないよ」


「そりゃ言いすぎ、だ!」


 複数のパーティが乱戦を繰り広げる中へ目立つ存在が加わった場合、必然的にターゲットが集まる。


「盾頼む!」


「プロテクトガード!」


 身体の大きな盾持ちが構えると青いエフェクトが浮かび、他のパーティメンバーに伝播していった。初めて聞くスキル名だ。


 どんな効果か気になっていると攻撃を受けたプレイヤーのエフェクトが弾ける。体力は減っていないのでダメージから身を守ったのだろう。


「ヒール!」


 直後の回復魔法は盾持ちに向かう。別のメンバーのエフェクトも攻撃を受けて弾けたが、盾持ちの体力減少と連動したように見えた。ダメージの肩代わりが起こっているのか?


 面白いスキルだが盾を使う自分の姿は想像しにくい。ただ、回復は言うなれば後手の行為。何か前もってのやり様があると落ち着いて支援できそうだった。


「精神力が心もとないね」


「尽きる前に倒す!」


「ちょっとは先を見越してくれると楽なんだけどさ」


「なんか言ったか?」


「賢いギルドマスター様で助かる、って言ったんだよ」


「だろ?」


 ヒーラーの苦労が感じられるやり取りが聞こえてきた。角刈りさんの支援嫌いは承知の上でも、他のメンバーに関しては別の考えを持つ可能性がある。


 彼らが倒されると後から来るであろう紅騎士団に矛先が向いてしまう。もうしばらくは耐えて欲しかった。


 精神力にはマナグレイス。魔導書を使わずとも位置はバレないので試しに詠唱して、たしなめ役のヒーラーへ魔法を唱えてみた。


「今のは……」


「問題か?」


「いいや、日頃の行いは大事だって話さ。神様に感謝だよ」


 周りを気にしながらも不満の声はない。どこまで喜ばれているかは不明だが、このまま支援を続けてよさそうか。


『紅騎士団の皆さま以外は戦闘を交えつつ数を減らしていますが、残るプレイヤーの実力は相応のものになるでござる。単純な数での判断は危険かと』


『気を抜けませんね』


 紅さんなら大丈夫と安心するのはほどほどにしよう。


「こんのっ!」


「右にも敵、下がるよ」


 角刈りさんも苦戦を強いられていた。きっと自分が知らないだけで実力者は何人もいるのだ。


「あ、くそ!」


 そして、いぶし銀のメンバーが一人倒される。コロッセオでは無敵に思えたが、さすがに厳しい状況だった。


「ほら、もっと後ろに!」


「逃げるのは性に合わねーんだが?」


「挟まれちゃ仕舞いだよ!」


 あまり遠くに行かれると魔法が届かなくなるものの、態勢を立て直すのはやむを得ない。他のパーティは一時的な協力関係で結局は敵同士。道中は避けられていた口ぶりだったし逃れれば平気なはずだ。


『もう到着するでござるよ』


 絶妙なタイミングの報告に少し焦る。いぶし銀に入れ替わりでいなくなられてはまずい。応戦しながら下がっていくのを見て引き止める手段を考え、すぐさま行動に移った。


「ん? 誰だ俺を回復したのは!」


 背中のヒーラーが回復魔法を唱えていないのを確認した角刈りさんが予想通りに反応する。まるで犯人を探すような勢いが自分にとっては珍しく感じるけれど、むしろ今までのプレイヤーが謎のまま放置しすぎなのかもしれなかった。


「お礼を言っておきな。どうせ妖精の仕業さ」


「んなわけあるか、って紅騎士団! またお前らかよ!」


 そこへ姿を見せた紅さんが標的になって首を傾げた。そういえばコロッセオでも勘違いに合わせてしまった気がする。

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