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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第二章『回復代行結社でござる』

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第65話 三人組ギルド ジーニアス

『なんか炎が見えるね』


『さっきの音は古代の遺物だろ。俺の上にも浮いてるし、リーダー役があぶり出されたと推測できる』


『棺桶の上にもあるなー』


『……』


 塀の陰に隠れる三人は顔を見合わせた。配信視聴者へ向けてギルドの気軽さをアピールするオープンチャットも、パーティ用に切り替えて話し合う。


『もしかして誰かが中にいるのかな』


『何のためにだ?』


『うーん……棺桶が好きとか?』


『そんなわけあるか。教会建物内に仲間がいるかもしれん』


『あそこって入れるんだ』


『知らん。俺たちと同じ考えで一網打尽を狙っての行動だろう』


『棺桶の人も建物の中に行けばいいのになー』


『リーダー役を隠したまま有利に進めるつもりだったんじゃないか』


『だったら先にやっちゃう?』


『その場合は残りの三組に睨まれる。戦いに飛び込む方がポイントを盛れる目があるし、そこに隠れてる連中が加わってくれれば万が一に失敗しても逃げやすい』


『タイミングはどうすんのよ』


『今だな』


『まだまだ数が多いんだけど』


『塀に潜んだところでこっちの位置もバレる。この混乱に乗じるのが一番だ』


『よーし、行くかー』


『森灘は遠くから回復を続けてくれ』


『プレイヤー名はルミミだって。じゃ、川伊利と海直は行ってきな』


『ナオとトールな。オープンチャットで本名を呼ぶのはやめろよ』


 弓を持ったリーダー役、ナオが姿勢低く塀との間を通って飛び出す。三組のパーティは浮かぶ炎の意味を理解して我先にと集中攻撃に出始めるタイミングだった。


 リーダーを狙っての行動は死角を生む。各自が守りを最低限にするため回復力をダメージが上回った。


 短期決戦のさなか第四のパーティが乱入する。三人組ギルド、ジーニアスが一気に距離を詰めた。


「マルチショット!」


 全員を範囲内に含める位置取りで複数の矢がばら撒かれる。威力は少量だが個々のプレイヤーに僅かな戸惑いを与えた。


「ディープリーピアース! リコイルショット!」


 短剣に持ち替えて急所への一撃、さらに弓へ持ち直して後ろに飛び距離を取りながら矢を打ち込んだ。狙いは赤い炎を揺らすリーダーで、体力が減ったところに立て続けの攻撃スキルは致命的だった。


「マジかよー!」


 青色装備の前衛が振るう剣は半透明になって空振り、パーティそのものが消えていく。


「シールドタウント!」


 遅れて盾を持つトールが姿を現し盾を叩いた。残った緑色と黄色のパーティが構える暇なく、ターゲットを強制される。


「スライディングショット!」


 その隙にナオが開けた距離を再び詰めてリーダー役に矢を放った。


「クイックステップ、バックスタブ!」


 次に背後へ回って青く光る短剣を突き刺す。瞬間的にダメージを稼ぐスキル構成は手負いの相手に最大限の効果を発揮して、容易に二組のパーティを沈めた。


 しかし、息切れの後は反撃に弱い。残る黄色パーティは回復役が一人に攻撃役が二人。数は同じだが攻め手の数に違いがあった。


「シールドバッシュ!」


 盾役のトールが守るもダメージは蓄積する。


「あれ?」


 万事休すと壁になるため、回復を続けつつ飛び出すルミミが気の抜けた声を出した。自分以外の影響でナオの体力が持ち直したからだ。


「スパイクシールド!」


「スライスペイン!」


 そして、ぎりぎりで耐え抜き相手のリーダーを倒し切る。最後に立っていたのはギルド、ジーニアスだった。


「ふぅ、なんとかなったー」


「まだだ」


 落ち着くのは早いと棺桶を視界に捉える。


「結局外に出てこなかったんだなー」


 想定したもう一パーティは影を潜めたままで、身構えながら近づいた。


「ねぇ、さっき誰かに回復されてなかった?」


 合流したルミミが不思議そうな声音で首を傾げる。


「あー、それは思った」


「沼地でもあったよね」


「とにかく確認が先だ」


 ナオは棺桶の前に立って恐る恐るに蓋をずらした。


「っ!」


「わっ……ガイコツ?」


「おー」


 姿を見せた中身に三人は驚いて少し距離を取る。無言で観察すること数秒、動かない対象に短く息を吐いた。


「モンスター、じゃなくてオブジェクトだな……」


「これが古代の遺物に反応してたのかー」


「罠というには控えめだが戦闘中だと気を取られる」


「びっくり要素にもなってるじゃん」


「何はともあれ、ポイントは稼げたか」


「アピールもばっちり! ジーニアスをよろしくお願いしまーす!」


 全てのパーティを仕留め切った三人組はそれぞれに喜び、棺桶の蓋を元に戻した。背を向けてその場を離れるが、後ろで微かに漏れた安堵の息には気づけないでいた。

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樽じゃないのにナカノさん危機一髪
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