第64話 墓場の攻防
『少々長引くかもしれません』
棺桶の中にいても激しい音が聞こえてくる。落ち着くまでこのまま待機とは。配信区域を巡ってようやくといったときに足止めを食らってしまった。
『む、別パーティが来ているでござるな』
さらに数が増えると益々出られなくなる。暗闇ではどうにも不安が大きくなり、ガイコツを抱く手に力が入った。なんとか外の様子を窺いたくなる。
『合流した後に戦っていたパーティが距離を取ったでござる。穴を開ける程度であれば気づかれないかと』
待ち望んだ連絡に短剣を持って早速行動だ。力を入れ過ぎると蓋自体が浮くため慎重に。小さな傷をつけて破片をペリペリ剥がす。刃の部分をあまり外へ出さずに穴を広げた。
微かな光が入ってくる。青いかがり火だけでは灯りが不十分なのか照明具があちこちに見えた。その中でも後衛は暗闇に紛れて動く。B級映画の墓場にありがちな枯れた木々や切り株など、身を潜めるところも各所にあった。
コヨミさんの隠れようを見た後では少人数のパーティであっても油断できないが、現状だと三組のパーティに上限の五人がいることは自分にも数えられた。
『穴は開きました』
『了解でござる! そろそろ準備も整ってきましたし、せっかくです。様子を見守って支援するのはいかがでしょうか』
『やっておきたいですね』
『では警戒を引き続き行うでござる!』
『お願いします』
ガイコツは邪魔だが魔法を唱える分には大丈夫。どのパーティが戦力的に押されるか、と捻くれ気味な見方で観察する。
それぞれギルドの色があるのか青色、緑色、黄色の装備や装飾で分かれている。一体感を出すのには憧れるけれど、回復代行結社はいい意味で自分勝手な方向性で構わなかった。お互いがやりたいことを補い合うのが一番だ。
戦いは小競り合いに終始する。深追いしたメンバーにはすぐさまフォローが入って中々崩れない。実に見ごたえのある攻防だった。
「うわ、全部フルパーティ?」
視界外からボリュームを抑えた微かな声が聞こえてくる。誰かが近くにいるらしく緊張が高まった。
「うーん、どこも強そうだよなー」
『教会建物の横、塀を挟んで三人のパーティが様子を窺っています。あれは……おそらくイベントの始まりに訪れた沼地の方たちでござるね』
『沼地の……』
あの三人組かと思い出して、こわばった身体が若干和らいだ。同じ方面からダメージゾーンに追われて逃げてきたのだろう。支援をしたパーティが生き残っているのは嬉しさがあった。
「とりあえず減るの待ち?」
「前回のイベントには討伐ポイントがあったろ。やるぞ」
「いやいや、あんなところに入ったらすぐ死んじゃうよ。数が少ないんだから考えな?」
「考えてる。リーダー役を見極めて一気に仕留めればいい」
「無理だって」
「余裕だろ」
「無理」
「余裕」
「場が乱れる何かがあればなー。お化けのモンスターみたいなやつ」
「そういえば今のところモンスターは見てないね」
「あまり気取られる真似はしたくないが」
「数は減って欲しいけどリーダー役は残ってくれないとかー」
「ほら、沼地であったじゃん。どこかから回復が飛んできたの。私たちもこっそりやるのはどう?」
「全パーティが残るようやってみるか」
話を聞いた限りは支援に似た作戦に出るらしい。この場にいるなかで戦力が最も低いのは三人組。再び助けになる行動を考えたかった。
せめてリーダー役の把握をできればいいのだが自分には難しい部分だ。一挙手一投足を見逃さずに手がかりを探そう。
「動くぞ」
さらに人が集まるのを危惧したのか青色パーティが攻勢に出る。そして、見事に双方から挟まれる展開になった。
狙われているプレイヤーをターゲットすると攻撃を受けて減った体力が即座に回復し、三撃目四撃目で減った体力も回復した。パーティ内にヒーラーは一人で、再詠唱を行うにしては間隔が短すぎた。
先ほどまで聞こえていた相談の声は止まる。塀に隠れて回復魔法を唱えたのは間違いない。戦うパーティも何かが起こっていると怪しむのは視線の動かし方で伝わる。てっきり数が減るのを待つかと思いきや支援が早かった。
ここは流れに乗らず任せよう。三人組に自分の存在を知られると余計な不信感を与える。厳しい目が向くのはもう少し後でよかった。
青色パーティは回復力に余裕を感じたのか攻勢を強める。数の不利を打開するための捨て身な動きで緑色側の後衛にまで斬りかかった。
集中攻撃でやられそうだったが、急に黄色側が攻撃を控えてしまう。共闘関係はここまでとばかりにターゲットを切り替え、次は緑色パーティが双方に狙われて魔法攻撃系の後衛が一人倒れた。
しかし、反撃も成功して青色側の前衛も一人倒れる。いつの間にか回復力は元に戻っており、三人組が支援を途中で止めたのが分かった。場の乱し方が見事だ。
戦況が目まぐるしく変わるので手の出しどころが難しい。結局は全員が敵同士で僅かな油断が命取りになっていた。
――キィィィン!
どのタイミングで三人組が仕掛けるのだろうか考えていると、覚えのある耳障りな音が聞こえてきた。これは古代の遺物が発動した合図……?
システムメッセージが流れず効果は謎に包まれるが、棺桶越しの光景には変化が訪れる。それぞれのパーティ内に一人ずつ、頭上へ赤い炎を揺らめかせるプレイヤーが現れた。




