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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第二章『回復代行結社でござる』

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第63話 ホネホネ

「外からだと中に誰かがいるとは思わないでござるよ」


 試しに棺桶の中に入ってみたがサイズはファンタジー仕様で大きく、余裕を持ってうつ伏せにも仰向けにもなれた。タルより快適性は上だけれど気持ち的に居心地の悪さがある。それに、どうやって移動するかの問題が残っていた。


 底面に手と足を出すための穴を開ける案は姿がモンスターじみていて、動く瞬間を見られると怪しいどころか攻撃対象になりそうだ。底全てを抜く方がいくらかマシだろう。


 しかし、棺桶の蓋は横へずれるようにして開く構造になっている。背中で持ち上がるのは蓋のみで、本体部分を伴うには地面を這いずるしかなかった。


「さすがにこれは……」


 使い方に難ありと肩を落としながら外に出る。


「ふむ、ではこうして……」


 あっさり移動パターンを諦めたコヨミさんが棺桶を持ち上げて引きずり、建物の壁に立てかけた。


「この状態だといかがです? 場所は固定になりますが蓋に穴を開ければ見渡しやすいかと」


 確かに地面へ伏せるよりは楽で、特に不自然さもなく安全に支援ができる。初めから言ってもらえると前向きに取り組めたのだが。


「棺桶の前方で上手く戦闘が行われるでしょうか」


「配信区域内を巡っての下準備次第でござるな。他のところにも棺桶があると考えられますので、戦闘が起こりそうな開けた場所を狙って設置しましょう!」


 あらかじめ舞台を整えれば確率は上がる。ダメージゾーンが近く逃げてきたプレイヤーも集まりやすいはずだった。


「下準備の途中に見られる心配はありますね」


「拙者が警戒に当たり、ナカノ殿が透明になって実行するのが一番でござるな」


 オブジェクトを触る分には透明化も解除されない。かけ直しも棺桶の中でなら平気で納得の方法だった。


「分かりました。やってみます」


「では先に行ってくるでござる!」


 コヨミさんを見送って早速心細くなる。プレイヤーの目がどこにあるか注意を払いつつ、キュル助を頼った。


「キュル助、カモフラージュ」


「キュル!」


 最低限は自分でも警戒を怠らず後を追う。塀の間に作られた通路から別ブロックへ渡っていくと配信区域にはすぐ着いて、五人パーティが教会の建物前に構えていた。


『別のパーティが向かって来ているので戦闘が始まりますね。混乱に乗じて棺桶を設置するでござる』


 戦闘が起こりそうな場所ではなく、まさにその最中にとは無理難題を言ってくれる。ただ、おっかなびっくりに近づいてもバレる様子はない。透明効果への対策、があるのかは謎だが今まで通りに信じてもよかった。


 棺桶は建物の横に置かれている。足元の石ころを蹴るのに注意し慎重に側へ行って待機すると、別パーティがやる気満々に走ってきて剣と盾がぶつかった。


 両者が正面衝突した今がチャンス。教会入口には段差と柱があり邪魔になるのか離れて戦っている。棺桶を引きずるも中々の重さで大変だ。コヨミさんは軽々と動かしていたし、筋力のスキル値が影響しそうだった。


 建物の横から入り口横へ斜めに立てかける。目に映れば一発で不審に思われることも簡単に終えられた。相手に警戒役がいないとこんなものかと拍子抜けするが、戦いに集中せず周りを見るのは自殺行為でもある。


 もうひと仕事に棺桶の蓋を最低限にずらし、キュル助と共に中へ入った。短剣を手に目線の位置へ突き刺し穴を開ける。


『まったく気づかれていません。時間をかけても大丈夫でござるよ』


 多少の傷は墓場に馴染む。他の箇所にも偽装で傷をつけて僅かな隙間から外を窺う。視界は確保できた。これで隠れながら回復魔法を唱えられる。


『一度試すのはいかがでござるか? 何かあれば煙玉を使いますので』


『了解です』


 実力が拮抗するパーティ同士であまり邪魔はしたくない。体力が満タンの後衛をターゲットに魔法を放ってみると、回復は成功して一瞬周りを気にされるだけで済んだ。


『成功しました』


『棺桶作戦は通用するでござるな。ここで支援を続けるのもいいですが先に他を周りましょう。皆さんに教会入口へ棺桶が立てかけられているのが普通だと感じてもらえれば、簡単には見つからないはずです』


 一理どころか全面的に同意できる方針だ。タイミングを計って蓋をずらし外に出る。今回は高低差のなさに若干の気がかりもあり、最後まで見守らず場所を転々とするのが安心につながった。


 戦いに巻き込まれるのを避けて塀伝いに移動する。コヨミさんも付かず離れずの位置にいてくれて助かった。障害物がないのにどう隠れているのか見てみると、塀の横に屈み潜んでいた。


 かがり火による影のせいか地図上で示されても分かりにくい。透明化なしにあの仕上がりは参考にすべき身のこなしだ。


 配信区域は狭いようで広い。小さな教会をめぐり棺桶をひたすら立てかけていく。無人のブロックや二パーティが争う場に三つ巴まで。様々な状況に遭遇しての緊張もどこ吹く風で順調に目的を果たせた。魔導書にストックした回復魔法を解放する余裕も出てくる。


『遠くから訪れるパーティが何組もいますね。ダメージゾーンの近辺効果でござる』


 忙しくなるのは歓迎だけれど下準備が先だ。棺桶を引きずり立てかけて蓋を……?


「っ……!」


 ずらしたところで予想外の光景に尻もちをついた。


『ナカノ殿?』


『中にガイコツが……』


 モンスターでなくオブジェクトなのはすぐに気づく。まさか中に入っているなんて、と思うが棺桶にガイコツはお似合いだった。


 後ろでは戦いが繰り広げられている。息を飲む方の驚きで助かった。


『戦闘が行われる範囲が広くなりそうでござる。お気を付けください』


 近くで剣戟の音が聞こえて慌てる。ずらした蓋を戻す手が滑りかけ、見られていたらまずいと焦り棺桶の中に入ってしまった。


 ガイコツを抱いて蓋をしっかり閉める。そして、暗い空間で冷静になると建物の裏にでも逃げればよかったのだと深いため息が出た


 今、蓋に穴を開けるのは危険だ。コヨミさんの連絡を待って息を潜めるしかなかった。

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