第60話 タルへの信頼プライスレス
広場に残ったのは互いが二人組になったパーティだ。第二ラウンドが始まる前に回復魔法の準備をするが、結局は何も起こらず別方向へ立ち去った。
一緒に戦って友情が芽生えたのか、それともクロ蔵と煙玉の出どころが気になるのか。単純な仕切り直しにはならなかった。
「お疲れ様でござる」
タルの中で身体がびくりと動く。明らかにコヨミさんの声だけれど、不意だったので驚いてしまった。
「お疲れ様です」
部屋へ視線を移すと触手頭をかぶったままの格好で立っている。周りから浮くのに先ほどは最後まで隠れ通した。障害物を利用しても勝負所で咄嗟に飛び出るのは難しいはずだ。
「コヨミさんのおかげで無事に乗り切れました」
「いえいえ、ナカノ殿の回復魔法があってこそです」
上手く対応できたが攻撃的な支援はまったく考えていなかった。普段だと誰かが戦っているモンスターへ殴りかかることになる。それでは横取りを疑われて険悪な空気が流れたりで揉め事の元。巨大なボス以外に、こういうイベントだから可能な遊び方だった。
幅が生まれると楽しさが増す。コヨミさんが動きやすいような意識を持って挑みたい。
「煙玉が予想以上に効果を発揮したでござるな」
「お見事でしたね」
まだ目を付けてるプレイヤーが少ないのは投擲ギルドの閑散振りで分かる。使い方が上手いのも相まって勝負を決定づけた。自分だと煙幕の中で右往左往するのがオチだ。
「では警戒に戻るでござる」
コヨミさんが窓側から静かに飛び出る。休憩はイベントが終わるまでお預け。タルに入ったまま次の戦いの場へ向かうことにした。
『少々お待ちを』
「キュル!」
すぐさまの連絡に床の隙間へつま先を引っかけると、頭の上にいるキュル助が不満の声を漏らす。
『どうしました?』
『移動中のパーティをいくつか発見したでござる』
この一瞬でよく見つけられるものだ。跳躍のスキルで周辺を一気に確認したのだろうか。
『また広場でぶつかり合う勢いでござるな』
自分たちがそうだったように、配信区域を目的地にすると出会ってしまうのかもしれない。もちろん侵入経路は複数あるので合流地点の一つか、コヨミさんが空高く飛んで何だあれはと呼び水になってる可能性も考えられた。
ただ、プレイヤーが自然と集まるのは好都合。警戒をいくらしても移動には危険が付きまとう。待機でいいのなら楽をできた。
『ここで構えてみましょうか』
『了解しました。引き続き周囲を警戒するでござる』
『よろしくお願いします』
動き回る方針を変えて部屋の中でキュル助と一緒にタルから出る。窮屈さはなくても解放感があった。
クロ蔵も死角で大人しくする分には出しっぱなしでも大丈夫だ。いざというときに出動させて助けてもらおう。
ペットを前に伸びをして気合を入れると、ジッと見られているせいか餌をあげたくなってきた。何かしら楽しめる要素があることを期待したい。
『来たでござるよ』
連絡にキュル助を頭へのせてタルをかぶる。ベランダに出て回復の準備を済ませた。
広場は多方向に視界が開ける。初めに訪れたパーティが周囲に目を配り、走ってくる別パーティを見つけて陣形を整えた。
戦いは遠距離の攻撃魔法を皮切りに始まる。しばらく静観して一人のプレイヤーが倒れたのをきっかけに、どちらの実力が上かを確かめて支援に入った。
さっきとは別のパーティなため回復力を不審に思われても、具体的な対策を打ってはこない。隠れての回復は何度も遭遇しなければ、戦いに手一杯で終わるらしい。
そして、リーダーが倒れたのか相手側のパーティが消えていった。支援を行った側は周りを気にしつつも離れていく。害を受けていないからか不思議で済まてくれた。
多少こなれてきたが油断は禁物だ。また誰かが来るはずだと待っているところへ連絡が届く。次は別方向からのパーティがタイミングよくぶつかって乱戦模様が繰り広げられた。
タルへ全幅の信頼を寄せて回復を行っていると、さらに他のパーティが横槍を入れる。やはり初めに戦っていた同士は共闘関係になり、コヨミさんが煙玉に合わせて的確にリーダー役を仕留め切った。
共闘組は友情が芽生えるかと思いきや、血の気の多さを見せて倒れるまで戦い合う。それでも最後に残ったパーティは家探しすらせずに立ち去った。姿が見えない存在に構って同じ場所へ留まり続けるリスクを考えてのことか。
≪一分後にダメージゾーンが追加されます≫
≪徐々に安全地帯へ向けて収縮が行われますのでお急ぎください≫
その後も支援を続けているとシステムメッセージが流れる。地図を開くと半透明の赤いゾーンが新たに表示され、円形にくりぬかれた場所が安全地帯に見えた。
「中心からずれた地点へ向けて収縮していくのでござるか」
部屋の中に戻ってきたコヨミさんが手元に視線を落とす。地図を開いているのだろう。
「単純にエリアの中央へ移動するだけではダメージゾーンを避けられないようです。おそらく第二収縮や第三収縮もあるでしょうが、安全地帯を推測するのは難しいでござるな」
「現在地はダメージゾーン内ですね」
「収縮は端から行われるかと。時間はありますが急いだ方がいいでござる」
安全地帯を目指しての移動は、きっと配信区域を目指す以上にプレイヤーの数が多くなる。後れを取らないように駆け足だ。
◇
【DAO】イベント会場Part7【第二回】
363 名前:名無しの古代人
古城とかは待ち構える側が有利だな
364 名前:名無しの古代人
何も攻める必要はないんだが
365 名前:名無しの古代人
そこらは配信区域に設定されてる
目立ちたがりは行きがち
366 名前:名無しの古代人
そんな穿った見方しなくても
やってやるぜで戦う人もいるだろ
367 名前:名無しの古代人
イベントだしな
エンジョイ勢はいくらでもいる
368 名前:名無しの古代人
攻め攻めでゲームオーバーになってきました
369 名前:名無しの古代人
配信見てたら各所で小競り合いが起こってるし
脱落者も結構出てるか
370 名前:名無しの古代人
リーダー役は機能してんのかな
ラッキー要素どまり?
371 名前:名無しの古代人
逆転劇になることはありそう
372 名前:名無しの古代人
脱落組だけど判別するのは難しかった
でもヒーラーは違うんだろうなって感じ
373 名前:名無しの古代人
真っ先に狙われるしね
374 名前:名無しの古代人
ヒーラーに攻撃しながら様子見が正解?
間に入ってこないのが本命とか
375 名前:名無しの古代人
実際は戦闘中にそこまで気を回せないんだよな
376 名前:名無しの古代人
この配信って建物内は見れない?
377 名前:名無しの古代人
規模の小さいとこは無理っぽい
378 名前:名無しの古代人
配信区域内でもいくつかカメラがあるだけだし
379 名前:名無しの古代人
もうちょっと見やすくてもいい気はした
380 名前:名無しの古代人
まあローアングルに固執する輩もいるわけで
制限は致し方なし
381 名前:名無しの古代人
タルが建物に入って行ったから追いたかったな
382 名前:名無しの古代人
転がったとかではなく?
383 名前:名無しの古代人
誰か中にいるんじゃ
384 名前:名無しの古代人
ダンボールに隠れる伝統芸のリスペクトか
385 名前:名無しの古代人
すぐバレるだろうに
386 名前:名無しの古代人
パーティ全員でタル移動してたらシュールだな
387 名前:名無しの古代人
お?
ダメージゾーンがきたっぽい
388 名前:名無しの古代人
まだエリア的には余裕がある
時間経過でどんどん狭まるなこれ
389 名前:名無しの古代人
逃げ惑うプレイヤーを見るのが楽しみです
390 名前:名無しの古代人
戦いを中断するとこもあるな
391 名前:名無しの古代人
さすがにダメージ量が分からないと
まずは安全地帯を目指すでしょ
392 名前:名無しの古代人
逆にチャンスと捉えるのが玄人
393 名前:名無しの古代人
安全地帯で待ち構えるのが一番だ
394 名前:名無しの古代人
ダメージゾーンか安全地帯か
初めにどちらへ入ってるかの運要素もある
395 名前:名無しの古代人
運に左右されるぐらいが実力差を埋められて良さそう
リーダー役を含めて
396 名前:名無しの古代人
タルがゆっくり動きながら配信区域を出てった
397 名前:名無しの古代人
タル監視勢がいるな




