第59話 暗中飛躍
前衛の差は大きく思えたが二対三の攻防は少しの間続く。相手側、と不利な方に立って考えてしまうが慎重な攻めだ。回復量の高さに不信を感じているのだろうか。
しかし、時間をかけるのは悪手だった。支援の切れ目にタルで回転して周囲を確認すると、新たな五人パーティが喜々としながら向かって来ていた。おそらく横やりで一網打尽を狙うつもりだ。
戦っていたプレイヤーも気づいたのか距離を取る。
「行くぞ!」
これからどうなるか、魔導書にストックを済ますと声が響いた。不意をつかずのやる気満々な合図だが正々堂々には程遠い。二人組の方へ真っすぐに走り出した。
さすがに自分が回復を行っても勝負は見えている。過度な戦力差をひっくり返すのは無理だった。
クロ蔵の力を借りればプラスアルファで支援できるが、透明化との兼ね合いが問題だ。姿はカラスで飛んでいると目立つし、ターゲットになるとやられるのは早い。
「なっ、お前ら……!」
不甲斐なさをタルの中で感じていると離れていた三人組が動き出した。逃げも隠れもせず五人パーティへ突撃する。
この状況で分が悪いのは分かっているはず。生き残ることを優先するより無鉄砲に行くのもイベントの楽しみ方か。
「戻れ!」
数は同数でも統率が取れるアドバンテージがあるのに、横やりを入れたパーティが慌てて陣形を立て直したように見えた。初めの勢いと比べて若干の違和感を覚える。
なぜで終わらずに理由を考え、プレイヤーの動きでもしやと頭に浮かぶ。明らかに魔女帽子をかぶった杖持ちが一番に守られていた。
後衛なら当然の行動だけれど杖持ちはもう一人いて、そちらがヒールを撒いている。魔女帽子の方は攻撃系の魔法を唱えて戦いだした。
まずは回復役を守るのが自然だ。イベントの説明を思い返すと答えは一つ。魔女帽子がパーティリーダー役だった。
二人と三人も気づいたのがベランダで俯瞰して分かる。倒すべき対象が判明したのは大きくイーブンに近づいたかもしれない。
被弾覚悟で総攻撃すれば撃退できそうだが冷静になる五人パーティは手ごわかった。膠着が続くと結果は見えている。自分が加わっても各個撃破を徹底されるとお手上げだった。
『拙者、助太刀してもよろしいでしょうか』
回復をちまちま行って様子を窺うところに、コヨミさんの声が届く。
『助太刀というのは……?』
『始末に協力しようかと』
いつもより冷静に聞こえたかと思えば、やはり攻撃に関する内容だった。回復一辺倒の自分とは違うからこその方法だ。
確か人を応援するのが好きだと出会ったときに聞いている。先に戦っていたパーティへ肩入れする心情は理解できた。
『ぜひお願いします』
『ではタイミングを見計らって煙玉を使わせていただくでござる』
コヨミさんなりの楽しみ方で、どんどん動き回ってほしい。回復が目立つギルド名だけれど縛られる必要はなかった。
膠着する間にも戦況はじりじりと変化する。井戸を中心に五人パーティが固まり、当初争っていた組が挟むように位置した。
どちらに向かうか悩ませる押し引きで小競り合いが起こるものの、このままではまた別のパーティが来る可能性もあった。これ以上場が荒れるのは避けたいが、状況を動かすにはきっかけが必要だ。
考える時間はあまりない。となると僅かな手札で対応することになり、クロ蔵の出番だった。心配はあれど一瞬なら見逃してくれると信じて行動に移る。
回復した後に部屋へ視線を向けてアイテム欄を開く。急いで飼育管を選び隙間から静かにゲットアウトした。
さらに小さな炎の核石を投げると羽を広げたクロ蔵が器用にキャッチして食べる。身体の周りに赤いオーラが漂って準備は完了だ。
建物内にペットの飼い主がいると感づかれる恐れがあるため、ベランダではなく別方向の窓から外に出す。リスク管理は大事だった。
再び戦いに戻り魔女帽子をターゲットする。きっかけさえ作れば続いてくれる。クロ蔵に攻撃の命令を出した。
「上だ!」
「クァ!」
誰かの声に皆が上を意識するが、吐き出す小さな炎は早い。
――ボオン!
対象に命中したのを確認し、クロ蔵を遠回りに帰還させる。長く姿を晒すと反撃を受ける危険性があった。
「来るぞ!」
そして、一気に流れが変わる。魔女帽子を中心に攻めて守っての戦いだが、攻撃側のなりふり構わなさが顕著だった。
回復を繰り返すが三人組の前衛が一人倒れる。間に合うかどうかという瀬戸際で突然、煙が広場に充満した。
「このっ! 近くに集まれ!」
煙玉が投げ込まれたのはすぐに分かる。視界を奪われるのと同時にターゲットを阻む効果があり、ヒールをかけれなくなった。
きっとコヨミさんが暗躍中なのだろう。推移を見守るなか、争う音が消えて静かになる。煙が晴れると戦っていた五人パーティの姿はどこにもなかった。
◇
【DAO】イベント会場Part6【第二回】
675 名前:名無しの古代人
名前が売れたギルドとかはどんな感じ?
676 名前:名無しの古代人
紅騎士団はあんまり戦ってる風じゃない
677 名前:名無しの古代人
強いの分かってるし相手が接敵前に逃げるだろ
678 名前:名無しの古代人
倒してやるぜってギルドは少ないんだな
679 名前:名無しの古代人
上位入賞を狙うなら生き残ってなんぼでしょ
680 名前:名無しの古代人
戦いを避けられてるならポイントを稼げてない?
681 名前:名無しの古代人
いぶし銀なんかは必死に追いかけ回してた
682 名前:名無しの古代人
角刈りのギルドか
あそこもなんだかんだ人気だったな
683 名前:名無しの古代人
意外と番狂わせが起こりそう
684 名前:名無しの古代人
廃墟の戦いに漁夫が乱入したぞ
685 名前:名無しの古代人
さっきの話題か
686 名前:名無しの古代人
俺も見てた
やっぱり障害物があるとこに行きがちだ
687 名前:名無しの古代人
粘りすぎても悪循環
688 名前:名無しの古代人
これだから漁夫は
689 名前:名無しの古代人
二対三の構図も分かったうえで狙いに行ったか
690 名前:名無しの古代人
三人は逃げる余地があって見えたけど
普通に突っ込んでったな
691 名前:名無しの古代人
男気だ
692 名前:名無しの古代人
養分とも言える
693 名前:名無しの古代人
なんか今不自然だった?
五人の漁夫が一斉に動いたな
694 名前:名無しの古代人
リーダー役が帽子をかぶったやつ?
695 名前:名無しの古代人
なるほど
こう見たら挽回のチャンスが用意されてると
696 名前:名無しの古代人
ブラフじゃなければ漁夫られ側も気づいてる
697 名前:名無しの古代人
あからさまな動きは厳禁か
698 名前:名無しの古代人
二回目とはいえ別タイプのイベントだし
誰もが完璧にはできん
699 名前:名無しの古代人
仮に対策を練ってても突然だとな
700 名前:名無しの古代人
なんか変なカラスが飛んできた?
701 名前:名無しの古代人
タル動いてね
702 名前:名無しの古代人
火を吐いて帽子に攻撃か
ペットなら新しい漁夫かも
703 名前:名無しの古代人
茶々を入れてると楽しいんだが
戦ってるプレイヤーは堪らんだろう
704 名前:名無しの古代人
うわ
次は煙幕?
705 名前:名無しの古代人
何も見えねえ
706 名前:名無しの古代人
スキルかアイテムか
こんなのもあるんだな
707 名前:名無しの古代人
乱戦にはもってこいだ
708 名前:名無しの古代人
わからん殺しができるのは駆け出しにとって助かる
良くも悪くも
709 名前:名無しの古代人
実はまだまだ駆け出ししかいないっていう
スキル数が膨大だし今後も全てを把握するのは難しいが
710 名前:名無しの古代人
煙幕が晴れたな
711 名前:名無しの古代人
あれ
漁夫組消えてね?
712 名前:名無しの古代人
リーダーが倒されてゲームオーバーっぽい
713 名前:名無しの古代人
元からいたギルドが二人ずつ残ったか
714 名前:名無しの古代人
お?
それぞれ戦わずにどっか行った
715 名前:名無しの古代人
数が減って生き残りポイントに賭けたな
716 名前:名無しの古代人
また漁夫がくるかと思ったが
カラスはなんだったんだ
717 名前:名無しの古代人
妖精おじさんを忘れるな
718 名前:名無しの古代人
何にでも結びつけるのは便利に使いすぎでは
719 名前:名無しの古代人
煙幕も第四のプレイヤーがやってたり
忍の可能性もある
720 名前:名無しの古代人
妖精であり忍者でもあるおじさんか
721 名前:名無しの古代人
属性が多すぎる




