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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第二章『回復代行結社でござる』

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第55話 ギルド対抗イベント開始

「作成したアイテムを渡しておきますね」


「かたじけない!」


 この三日間は役割分担で別々に行動していた。コヨミさんには素材やアイテムの収集をお願いし、自分は調合を主に担当した。イベントに向けての一体感はギルドのおかげか。



≪五分後にイベント専用エリアに転送されます≫



「いよいよでござるな」


「頑張りましょう」


 緊張が収まったと思っても、いざ始まるとなると不安が強くなる。ホームを落ち着き空間にしていなければ危ないところだった。


 前回よりも手に汗握るのは一緒に参加する相手がいるからだろう。迷惑をかけないように、と気負いすぎるのも逆効果。しかし、せっかくなら終盤まで生き残りたかった。


 イベントの内容には様々な行動にポイントが付与されるとあったので、最後に残ったギルドがランキングでトップになるとは限らない。自分ができるのは回復だが、今回は五人パーティが多いはず。その中に一人は回復役がいると考えられた。


 例え、回復行為でポイントを得られても突出したものになるかは疑問だ。参加賞ぐらいはと欲が出るけれど生存ポイント次第だった。



≪三十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫



 あっという間に時が過ぎてなぜか天井を見上げてしまう。一方のコヨミさんは囲炉裏に吊り下がる鉄瓶のふた開けたり閉めたり、余裕が垣間見えた。



≪二十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫



「そういえば裸足でござったな」


 言われて気づき、慌てて土間に移動して靴を履く。裸足のまま放り出されてスタートでは締まらなかった。



≪十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫



「さあ! 行きますよ!」


 カウントダウンが始まって手に力が入る。いきなり他のプレイヤーが近くにいるとは思えないが、まずは警戒だ。



≪イベント専用エリアに転送します≫



 浮遊感が身体を通り抜けて景色が一変する。所々に草が生える地面を踏みしめて周りに目を配ると、建物があった名残のように崩れた石壁や柱が点在していた。



≪ダメージゾーンが狭まるエリアの中で生き残りましょう

 パーティリーダーの体力がゼロになった時点で脱落となります

 開始時点ではギルドマスターをリーダーとして自動的にパーティを組んでいますが、三分以内であればリーダーの変更が可能です

 また、各所にある古代の遺物を使用するとイベントを有利に進めることができます≫



 簡単な説明が流れる。古代の遺物は前回も実装されていた要素だ。見つけたら積極的に使っていきたい。



≪イベントの終了条件は参加ギルドが一組になることです≫

≪プレイヤーの皆さま頑張ってください≫



「敵影はなしでござる!」


 いつの間にかコヨミさんが柱の上に立っていた。のんびり説明を読む自分と違って行動が早い。警戒は任せるのが一番か。


 地図を開くと全体のエリアが表示される。拡大と縮小を繰り返すと、かなりの広さなのが分かった。


「集落や城のシンボルがあるみたいです」


 柱を飛び下りたコヨミさんに話しかける。


「最終エリアが建物内になる可能性も考えられるでござるな。早い者勝ちで、ポジション確保に動くギルドもいるかと」


 説明の初めに生き残りましょう、との文言があった。事前内容と比べて生存ポイントが高い印象を受ける。同じ風に感じるプレイヤーが多ければ衝突が起こりやすい場所になりそうだ。


「地図上の小さな円が配信区域でござるか?」


「結構な数がありますね。まずは近いところへ向かって様子を見ましょう」


「了解しました!」


「トリガー、ゲットアウト」


「キュルル!」


 キュル助を出動させ、いつでも透明化を行えるようにする。クロ蔵は扱い方が難しいので、いざという時まで待機だ。いざと言っても追い込まれるのはなるべく避けたいが。


「トリガー、詠唱」



――シュンッ!



「トリガー、ヒール」


 魔導書へのストックも忘れずに。今回は多数同士の戦いが繰り広げられる環境だ。おそらく、物陰に隠れて支援する分には気づかれにくい。回復を放ってすぐの移動は我慢で、しばらくは見守りたかった。


「パーティチャットなら離れていても会話ができますので、拙者が偵察を兼ねて先行するでござる」


「お願いします」


「ではでは!」


 コヨミさんは障害物を越えながら走っていき、一瞬で姿が見えなくなった。


「……キュル助、カモフラージュ」


「キュル!」


 急に心細くなってキュル助に頼る。一人で残される方が危険なのではと呼び戻したくなるが、透明になれるからこその作戦か。


 カモフラージュが他のプレイヤーにも効けばよかったのだが、パーティメンバーであっても対象外だった。コヨミさんには苦労をかけると思う反面、忍者なら大丈夫と謎の信頼感があった。


 落ち着いて地図で方向を再確認して後を追う。自分の場合、障害物を素直に越えるのは余計な時間がかかる。イベント中はライドも禁止で楽ができなかった。


 壁の裏に誰かが潜んでないか怖がりつつも若干の迂回を重ねるうちに、エリアが草原に変わる。腰まで伸びる草が一面に生えているため身を隠すにはもってこいで、自然と姿勢を低く歩いてしまう。誰かがいたなら連絡がくると分かっていても不安だった。


 こういう場所だと見つからずに回復しやすいけれど、逆に待ち構えて有利な戦いにも持ち込めた。プレイヤーの討伐ポイントを狙うギルドがきっと現れる。


 注意を払って進む間にも地図上で示されたパーティメンバー、つまりはコヨミさんの位置が配信区域に入っていく。透明化もなしに止まらず行くのはさすがだ。


『戦闘中の二組を発見したでござる』


『了解です』


 早速の報告に背筋が伸びる。急ぎ気味に草原を抜けた先は沼地だった。


 まともな地面が少なく足を取られるが、少し上に木の足場があって四方八方に伸びている。設けられた梯子で上がると快適に歩くことができた。


 ただし、大小様々な木々が生えており見通しが悪い。灯りにかがり火が設置されていても、枝葉によって夜の暗さが一層増す。照明具を着けると居場所が特定されやすく、直線的な足場のせいで戦うのにも不向きだ。


 ここで回復を行うにしても魔法のストックには慎重さが求められる。木の影を上手く利用しながら支援しよう。

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