第48話 調教ギルドのカウボーイ
「さてと」
今日は少し遅い起床だった。昼食後に全ての雑事を終えて、しばし呆ける。
やはり誰かと一緒にゲームをプレイするのは楽しい。一人では攻略が困難なエリアに挑んだのもあり、興奮が残って中々寝付けなかった。
まるで子供みたいだなと自嘲しながら始めるのがゲームなのも、そろそろ気にならなくなってきた。ゲーム機をかぶってログインし、とりあえず新たなペット、デスヘッド・クロウの名前を変更する。
布団の中に入って考えてきたのはクロ蔵という、自分の誇れないセンスが光るものだ。
「クックック……」
名前が変わったばかりのクロ蔵が喉を鳴らす。町の中だとペットをずらずら引きつれるのは邪魔に思われそうで、今はキュル助を飼育管に入れていた。
残念ながら鳥かごはアイテムの使用後に消えてしまった。まずは調教ギルドに行って色々と見繕おう。
地図で確認したところ噴水広場のポータルが一番近い。移動してのんびりと歩きで向かうことにした。
調教の熟練度はいつの間にか243まで成長済み。回復魔法がもう少しで300に届くあたりのため、上り幅は良好だ。
テイムのスキルなどは普段使いしていない。攻撃の命令や何か他の要素が影響するのはお得感があった。
便利なスキルがあればいいなと、ぼんやり考えていたら頭の上にクロ蔵がとまる。キュル助とは違ったアクションが用意されているのか。ペットを増やせるなら様々なモンスターを飼うのもいいが、愛着心は大事にしたい。
噴水広場から近距離系のギルドがひしめく一帯を抜ける。道は平面に続く側と上り坂に分かれ、地図を頼りに平面な道を選ぶ。しばらくはファンタジーな街並みだったが、徐々に部分的に木製の建物が多くなってきた。
王都と銘打たれても地下通りであったように、さびれた場所もある。ただ、どこか田舎風でもファンタジー要素は見え隠れした。苔むした屋根や青い煙が立ちのぼる煙突など、観光気分で楽しめる。
途中に普通の畑が広がっているのを見たとき、魔法があるのだから効率的にできないものかと考えてしまう。一方で雰囲気づくりの必要性も楽しんでいる身としては十分に分かった。
目的地の近辺に着くと、柵で囲われた敷地に大きな毛深いネズミや魚に似たフォルムで二足歩行をするモンスターなどが放し飼いになっている。その横に建つのが調教ギルドで、逆さまのカウボーイハットをシンボルに掲げていた。
年季が入ったスイングドアを押し開けて建物の中に入ると、西部劇もかくやという内装に感嘆の声が漏れる。どこかで見た覚えのある酒場は実にリアルで、細部にこだわりがあった。
「注文は?」
カエルやイノシシ、キノコのペットを足元に連れるプレイヤーたちを横目に、カウンターにいたグラスを磨くNPCへ話しかけるとアイテムのショップ画面が開く。その一番上に飼育管があったので迷わず購入だ。
「次は熟練度が400になってから来てみな」
すると、NPCが気になるセリフを口にした。会話の項目に気づいて聞いてみたところ、二体目のペットは熟練度200から、三体目のペットは熟練度400から解放されるらしい。それに合わせて飼育管の購入が可能になるとのこと。
改めて早く来ていればとも思うけれど、クロ蔵と出会えたタイミングで知れたのは良かった。これもコヨミさんのおかげだ。
再びショップを覗いて目ぼしいものを探す。スキルの区分は、魔法書ではなく秘伝書になっていた。
【チェリッシュボディの秘伝書】
『種類』秘伝書
『効果』チェリッシュボディを覚えることができる
調教の必要熟練度:100
『説明』ペットの体力を回復する
調教者にとって愛おしむ心が何よりも大事になる
【オフェンシブチアリングの秘伝書】
『種類』秘伝書
『効果』オフェンシブチアリングを覚えることができる
調教の必要熟練度:200
『説明』ペットの攻撃力を一時的に上昇させる
通じ合う相手への応援は攻め込む勇敢さを与える
【ディフェンシブチアリングの秘伝書】
『種類』秘伝書
『効果』ディフェンシブチアリングを覚えることができる
調教の必要熟練度:200
『説明』ペットの防御力を一時的に上昇させる
絆を結んだ相手への応援は身を守る慎重さを与える
現状、体力の回復は精神力の消費量次第になるため要検証だが、攻撃力と防御力の上昇は使い勝手がよさそうだった。
さらに熟練度300では瀕死状態のペットを復活したり、熟練度400になるとペットの精神力を回復する秘伝書もある。
瀕死はペットの体力がゼロになった状態だろう。そういえば、キュル助には頼りながらも回復魔法でなんとか力尽きずにやってこれた。今後も安全第一で復活スキルの世話にならないようにしたい。
とりあえず三つの秘伝書を購入して覚え、調教ギルドを後にする。次は実戦で効果の確認だ。
どこに行こうか少し迷って始まりの村にポータルで飛ぶ。森を抜けて荒野に移動し、道中に現れたモンスターで試していこう。
雫の洞窟がある方向とは逆側に進んで新しいエリアを目指す。遊びしろしかないのだから一つ一つ確かめて楽しもう。
早速、スケルトンが立ちはだかったのでクロ蔵の戦いぶりを見ることにする。
「行け、クロ蔵」
「クカー!」
空を飛びながら爪で攻撃する姿は勇ましい。しかし、高度は反撃を受ける範囲に制限されているようだった。過信は禁物で体力の管理を忘れずに、覚えたスキルを使う。
「トリガー、チェリッシュボディ」
魔法とは違い詠唱が不要なのは便利で、クロ蔵の体力が最大まで回復した。そして、精神力は一切減らずに持久力を消費するだけだった。
ゲームのバランス的に大丈夫かと心配になるが、クールタイムが長めに設定されていた。回復魔法のように連続で使用できないからこその扱いか。




