第45話 吊るされたゾンビたち
「オクトパスですか。忍者との関係性が気になるでござるな」
個人的にはゾンビよりもオクトパスの方が奇妙に映る。寄生されていそうで別種の恐怖を感じた。
「様子見を兼ねて、一撃入れての離脱と行きますね」
「はい。お願いします」
コヨミさんが短剣を手に走り出す。
「成敗!」
相手に動きはなく攻撃は簡単に通った。
「ギ、ギギギギ……!」
そして、下忍オクトパスが呻き声をあげる。現実でタコの鳴き声など聞いたことはないが、何かの昆虫に似ており気味の悪さがあった。
「瞬歩!」
先ほど言った通り、コヨミさんが近くに戻ってくる。
「さてさて、始まりますよ」
行き止まりに一体だけいるモンスターで、ボスに準ずる存在なのは明らかだ。しかし、今までと違ってサイズは小さい。どんな攻撃がくるか対策を講じるのは難しかった。
「フシュゥゥゥ……」
下忍オクトパスの身体が震える。絡まった触手の隙間から黒い煙が噴出し、地面ではなく天井に上がっていく。
嫌な予感がすると同時に下忍ゾンビを吊るしていた一本の縄が切れた。
――ドチャリ……!
一体の下忍ゾンビが地面に落ちて生々しさのある音を立てる。黒い煙が縄になって首へ巻きつき、天井に滞留する黒い煙とつながっていた。
引っ張られるように立ち上がると移動を始める。やはり、ただのオブジェクトでは終わらなかった。
「下忍オクトパスのほうは動かずですか。倒すごとに増える気はしますが、まずはゾンビの相手をするとしましょう」
作戦を聞いて頷く。天井には大量の下忍ゾンビだ。考えなしに動かないボスへちょっかいをかけ、場を混乱させるのは危ない。流れに反するよりは素直に沿うべきだろう。
「ナカノ殿、複数体が襲ってきたときにはフォロー願います」
「分かりました」
道中、キュル助には色々と試すに当たり静かにしてもらっていた。ここで頼りに頼りたい。
コヨミさんが下忍ゾンビと戦闘を始める。黒い煙が首に巻かれているものの、行動は特に変わらなかった。
「トリガー、ヒール」
回復も一回だけで事足りる。
「瞬歩!」
最後は爆符を使って華麗に仕留めた。もはや単体だと余裕さえある。
「次はどうくるでござるか?」
――ドチャリ……!
――ドチャリ……!
――ドチャリ……!
数が増えるのは想定内だが三体の下忍ゾンビが天井から落ちてきた。一体飛ばして二体追加のペースに、後の大変さが垣間見える。
「行け、キュル助!」
「キュル!」
コヨミさんが向かう相手とは別の個体にキュル助を行かせ、余ったのを自分が引き受ける。
「トリガー、詠唱」
――シュンッ!
「トリガー、ヒール」
魔導書を使わずに回復を飛ばすとこちらに向かってきた。移動速度は遅く、距離を取るのは容易だ。
念のため部屋全体を見渡せる通路へ戻ろうとしたが、松明と同じ青い炎に遮られている。どうやら、倒すか倒されるまで抜け出せないらしい。
「トリガー、詠唱」
追ってくる下忍ゾンビを視界に入れた。この際の移動や行動は詠唱が取り消されるのでジッと耐える。自分が狙われながらの詠唱は緊張との戦いだ。
――シュンッ!
「トリガー、ふぃ、ヒール!」
効果音が聞こえて即座に回復魔法を唱える。
≪爆符を入手しました≫
危うく噛みそうになったが無事に倒すことができた。音声コマンドは便利だが焦りが伴う場面では難しさもあった。
落ち着くのはまだ早い。急いで確認するがコヨミさんの体力は安全圏内。問題はキュル助で回復が間に合うか怪しかった。
「トリガー、プットイン!」
飼育管を使って魔導書を手にする。
「ここはお任せを!」
魔法をストックし準備をしているとキュル助が戦っていた下忍ゾンビへ、コヨミさんが走り一撃を入れた。
ターゲットを上手く取ってくれた後に回復する。残りのどちらにもダメージは与えられているが、攻撃に回るか最後まで任せるかは悩ましい。
「瞬歩!」
迷う前にいつも通りのサポートへ移ろうとしたところ、二体の下忍ゾンビに挟まれたコヨミさんが動く。
――ボゴオン!
爆符を用いてとどめを刺したのがすぐに分かった。
――ボゴオン!
「……?」
ただ、続けての爆発音には驚いて周囲を見る。
「成功しましたね」
聞き返さなくても状況を確かめれば理解できた。爆発で最終的に残った下忍ゾンビへダメージが及び、体力を削り切ったのだ。モンスター同士でも影響するのは大助かりだった。
――ドチャリ……!
――ドチャリ……!
――ドチャリ……!
――ドチャリ……!
安堵するのも束の間、追加の下忍ゾンビが落ちてきた。一体、三体ときて四体か。
「ギ、ギシシ……! ギギ……!」
一貫性を考えると先が心配になるが、なんと五体目に下忍オクトパスまでもが動き出した。




