第40話 変わり者たち
「水が溜まっているでござるな」
洞窟の奥へ行く最中に、案内ともう一つの目的だった広間に通りがかる。
「モンスターがいなくて安全に泳いで渡れますが、水底を見てください」
「ふむ? 青い光がいくつも見えますね」
「雫石と言って、周囲に回復効果を発生させるアイテムです。ゾンビにはダメージを与えられるので採取して行きましょう」
「了解しました!」
水の中へ勢いよく飛び込むコヨミさんの後に続いたが、すでに水底まで潜っていて驚く。あっという間に全ての雫石を回収し終えたらしく自分の出番はなかった。鎧を着てあの速度は感嘆ものだ。
「いやあ、ゲーム内では自由に泳ぎ回れていいでござるな」
向こう側に渡り水中から出て地面に上がると、コヨミさんがマフラーを乾かすかのように払った。
「上手く泳ぐコツはありますか?」
一言でどうにかなる問題ではないだろうけれど、何か参考になればと聞いておく。
「基本的には水泳スキルがあるので、泳げば泳ぐほどに思いのまま動けますよ」
「そんなスキルが……」
目が滑るぐらい数多くのスキルがあるため見逃していたようだ。
「ちなみに忍者スキルの中には泳ぐスピードを上昇させるものがあって、水中戦が得意だったりするでござる」
さすがは忍者、動きを補助する便利なスキルが揃っていて頼りになる。
「雫石はナカノ殿に渡したほうがよいでござるか?」
「いえ、コヨミさんのタイミングで使ってもらう分に持っておいてください」
「分かりました!」
完璧にサポート役をこなせる自信はない。最低限の仕事はするにしても、独自の判断に任せる余地は残したかった。
さらに洞窟を進んで水が溜まる広間を何度も経由する。自分も数個は雫石の入手をと頑張ったが全てをかっさらわれてしまった。
「ふふふ、忍者の独壇場でござるな」
コヨミさんもいたずらっぽく笑う始末。嫌味がなくムッと悔しがるより楽しく対抗心を持てた。
「ナカノ殿の手持ちはいかほどでしょうか?」
そして、素直にこちらへの配慮も見せてくれる。
「雫の洞窟は一度通っていて、まだまだ余裕はあります」
「少なくなった時は声をかけてくださいね!」
後を引かないやり取りには懐の深さを感じられた。お返し、と表現するのもおかしいが不意にどこかで軽口を叩きたいところだ。
そこからも雫石争奪戦には負け続け地図を確認すれば出口も目前だった。
「光が差し込んできたでござるな」
「あの先が沼地です」
「瞬歩!」
コヨミさんの声に目を向けるとスキルを発動させて姿を消し、一足飛びに出口へ走りだしていた。誰が一番に到着するかを競っているつもりはなかったのだが。
歩いて後を追うのは斜に構えているようにも見えそうだし、精一杯に走ってみた。
「キュル!」
何が影響したのかキュル助が自分を置いて二番手に躍り出る。モンスターの襲撃に備えての行動だとしたら随分頼もしいが、今は負けた気分だ。
結局は三番手で洞窟を越える。飼育管を使えばキュル助には勝てたと平静を保とう。
「ここが叡智の沼地でござるか」
ゴールがどんよりした空気感漂うエリアなのは、少々風情がなかった。
「まずはポータルへ行きましょう」
周りにいるプレイヤーの数は若干増えた程度だ。背中に羽が生えた人の像へ向かい、コヨミさんのポータル登録を済ませた。
「沼地には足が取られそうですね」
「歩きにくさはありました。移動は基本的に土が残る場所がお勧めです」
「飛び込みたくなる気持ちはありますが、覚えておくでござる」
真面目な顔で沼の中にとは。洞窟でのこともあるし変わり者に思えてくる。いや、合流する前に沼と戯れていた自分が言える立場ではないのだが。
「さあ、ナカノ殿! ゾンビを蹴散らしに行きましょう!」
コヨミさんが馬に乗ったのを見て、このエリアではライドできたのかと今さらに気づく。洞窟の続きですっかり忘れていた。
こちらもペンリルに乗って移動を始める。
「試しに沼の辺りを通ってみてもいいでござるか?」
「もちろんです」
ライド状態でどうなるかが気になって同じように沼の中に踏み込む。
「おお? これは走れない、のでしょうか」
コヨミさんの言う通り、確かにペンリルの移動速度が遅い。むき出しの土部分では他のエリア同様に走れるが、曲がりくねった道になっている。楽に通り抜けさせないという意志を感じた。
とりあえず、地図を確認しながら地下道の近くまで行ってペンリルから降りる。
「もうすぐそこです。おそらく地下道は坑道や洞窟と同じタイプのエリアなので、徒歩でお願いします」
「この近くですか? 一面の沼地でよく見つけられたでござるな」
「訪れた際はゾンビが群がっていて目印になっていました」
「それはまた珍妙な」
てっきり復活しているものとばかり考えていた。現象的に、あそこには沼地のモンスターが侵入できなくなっているはず。時間経過で引っかかったゾンビが群がったりするのだろうか。
なんにせよ地下道の存在を発見できたのは幸運だった。進んだ先に何があるのか楽しみだ。




