第28話 レイド戦
「では坑道へ戻るでござるか」
カメリオルが見つからなかったことなど忘れたかのように、コヨミさんがあっさり切り替える。
「ナカノ殿もクエストを進めていたのですよね?」
「そう、でしたね」
クエストの途中だったのも焦りですっかり忘れていた。
≪パーティへの招待が届きました≫
そして、初めて見るシステムメッセージが表示される。承諾ボタンが視界の端に出て反射的に押すと、コヨミさんの名前が入ったバーが現れた。
「さあ、行きましょう!」
そのまま姿が消えたのでポータルを使ったのが分かる。後を追うように急いで坑道跡地へポータルで向かった。
朽ちた小屋には人だかりができているため少し離れ、コヨミさんと合流。一緒に坑道へ向かう。
期待させてすみませんでしたと謝っても逆に気を遣わせそうだ。自分もクエストのクリアに集中する。
「ナカノ殿、忍者を目指しながら鎧を着込むのは変だとお思いでしょう。ええ、拙者には分かります」
「……」
唐突ですが、と切り出しがほしいぐらいの急な話に一瞬戸惑ってしまった。
「確かに、忍者には軽装のイメージを持ってます」
「そうおっしゃる方が大多数のはずでござる。しかし、忍者に必要な能力を今一度お考え下さい」
「……速さ、ですか?」
今まで忍者について深く考えた経験はなく、ありきたりな答えが口を出た。
「それも大事な要素ですね。加えて、拙者は生き延びる力が重要だと思う次第でござる。古来より忍者は情報を収集して持ち帰るのが任務。その途中で命を落とすなどあってはならないのです」
熱のこもった力説は自然に納得できる内容で、頷いて同意を示す。
「現実でもゲームでも、身軽に攻撃を避けるのには限界があります。そこでひらめきました! とにかく防御を固めて耐えさえすれば生存率が上がることを!」
鎧の理由はなんとなく分かった。従来の忍者像に囚われないゲームならではの遊び方に好感を持てたが、身軽さを捨てすぎると攻撃の被弾が増える気もした。
「忍者のスキルには動きを補助するものがあるんですか?」
「もちろんです。ではでは、ナカノ殿にご披露させていただきましょう。まずは跳躍!」
コヨミさんはその場で立ち止まり、現実離れした高さで上に飛んだ。プレイヤーの身長二人分は越えていて身軽どころではなかった。
「次は瞬歩!」
地上へ着地すると間をおかずに姿を消す。
「ふふふ、こっちです」
声に振り向くとコヨミさんがいて得意気な顔をする。跳躍と瞬歩の名称はいかにも忍者らしい。
「現状はこの二つで攻撃に備えます。最後に静寂!」
身体が半透明になり驚くが、傍から見てこの状態だと完全な透明化とは別物か。
「気配を消す効果があってモンスターに気づかれにくくなるのですよ。他プレイヤーの皆様方に丸見えなのが不満点でござる」
戦う際には十分役立つスキルだ。自分にはあまり似合わないが忍者も新たに学ぶ候補として覚えておこう。
クエストの目的地を目指す分には、モンスターを相手にするプレイヤーが沢山いるため会話を挟む余裕がある。こういう場所も日にちが経つにつれて徐々に寂しくなりそうだった。
「ペットの使い心地はいかがでござるか?」
「透明になる以外にも戦闘で役立ってくれています。自分が回復役になれば安定してモンスターと戦えました」
「ふむ、回復魔法が合わさると便利なのですね。調合の他に罠のスキルにも興味があって、手を伸ばすかは悩ましいでござるな」
個人的に選択肢が多いのは嬉しい悲鳴だが、仕事などで忙しい場合はゲームへ割ける時間に限度があるはず。何か手伝いたくなるけれど、残念ながら提案するのは難しかった。
「そろそろでござるよ」
地面のレールが途切れて道が少し狭くなる。右に左に曲がりくねるが脇道は一つもなく、迷わずに広場へ出た。
多数のプレイヤーが集って奥の大穴を眺めている。地図のガイドが示すのはここだがクエストに関連するNPCがどこにも……?
――ゴゴゴゴゴ……!
疑問は地面の揺れですぐに打ち消された。天井から細かい岩の破片が落ちてくる様子は恐怖心を煽って、大穴より巨大なトカゲが這い出てきた。
名前はドクトカゲ・アビスで黒いオーラを全身にまとっている。
「ほう、これはレイド戦でござるか」
また初めて聞く言葉にクエスチョンマークが浮かぶ。
「強敵を相手に複数のプレイヤーが協力する戦闘です」
おそらくイベントのイワナマズと同様のタイプだ。自分の仕事はいつも通り回復魔法を使ってのサポートを行えばよく、透明になる必要はなかった。
「始まりますよ」
クエストがドクトカゲ・アビスの討伐に更新される。
「シャアアア!」
モンスターの叫び声が響き渡って空気の振動が嫌な感じを強めた。まずはコヨミさんに集中して、余裕があったら他のプレイヤーにも回復だ。




