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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第一章『妖精おじさんがあらわれた。ただし、その姿は見えない』

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第26話 アイエエエ?

 ポータルを使って坑道に戻る。脇道で早速キュアポイズンを魔導書にストックして透明化だ。


 大きな通りに戻ると緑色の靄を身体にまとうプレイヤーがいたので、静かに癒す。


「お? なんだ?」


 回数を経ても周りを気にされると息を潜めてしまう。注意深く観察されたら見つかることもありそうだった。


「誰だか知らんけど、ありがとう!」


 意外、と言っていいのか分からないが律儀に感謝の言葉を伝えてくる人は多い。時には神様と呟かれて困惑もした。何かゲーム的なお約束だろうか。


 まだクエストの進行場所まで距離はある。どんどん毒を癒していこう。


 行き止まりの脇道へ入ると壁際に目立つオブジェクトを発見する。ごつごつした岩に光沢のある褐色の物体が混ざっていた。


 ターゲットも可能で銅鉱石と名称が出る。花のように自動で採取はされず、杖で叩いても変化はなかった。専用の採取道具が必要なのかもしれない。


 魔法をストックして透明になったところへ、タイミングよく腰エプロン装備のプレイヤーがやってくる。手にはツルハシを持って銅鉱石を躊躇なく叩いた。


 小気味のいい音が二度三度鳴り、あれが採取用の道具だと分かる。鉱石というからには鍛冶で使う素材か。広く手を伸ばしたくなるが、生産系はまず調合に集中したかった。


 採掘へ精を出す人に回復魔法をかける必要はない。脇道を戻ると毒を受けたプレイヤーが新たに現れる。鎧とマフラーの組み合わせは妙にマッチしていてこだわりを感じた。色々な装備を見ていると自分も整えたくなってくる。


 後ろから毒を癒すと鎧マフラーさんがすぐさま振り返った。反応の良さに驚きながら逃げるように脇道の行き止まりへ向かう。


 たとえ正体がバレても困ることはないけれど、せっかく始めた遊び方だ。イベントでは透明化を使わない場面もあったし、できるだけ守るぐらいの方向性で心に余裕を持っていきたかった。


「トリガー、詠唱」



――シュンッ!



「トリガー、キュアポイズン」


 使う魔法が増えると自分が上手くなったように思えてくる。


「キュル助、カモフラージュ」


「キュル!」


 透明化以外にも面白いスキルがあるなら試したい。王都のギルドを周って魔法書などを確認すれば、何かしら見つかるだろうか。


 準備万端に脇道を出ようとすると、正面に先ほど毒を癒した鎧マフラーさんが立っていた。


「ふむ? キュル助と聞こえたでござるが」


「……」


 存在に気づかれて後をつけられた? 独り言にしては誰かへの投げかけ感が強い。語尾も特徴的で対応に困った。


 右に左に視線を彷徨わせているので、透明になる瞬間は見られていないはず。このまま壁際に行って静かに横を通り過ぎ……。


「石ころが転がりましたよ」


 指摘に冷や汗で立ち止まる。確かに、地面には小さな石ころがいくつか転がっていた。


 キュル助と出会ったのも足跡が要因だ。どうも、はたからだと足元は気になるポイントらしい。


「拙者はコヨミ。忍者を目指しており透明になる手段に興味があるのです」


 話し方を含め、おそらくロールプレイという遊び方だ。忍者に鎧はミスマッチだが、黒髪のポニーテールにはなるほどと思わされる。女性キャラクターでも、くノ一呼びより忍者のほうが姿的に合っていた。


 少し違うがある種のルールを作るのは自分と同じ。何か参考になるのだったら協力したい気持ちが湧いた。


 逡巡もそこそこに、魔法を自分に開放することで透明化を解除する。


「初めまして、ナカノです」


「おお、やはり透明になる手段をお持ちなのでござるか!」


 鎧マフラーさん、もといコヨミさんが嬉しそうに語尾を強めた。


「一体どのような手段で透明化を? 忍者のスキルでは熟練度が600必要で困っていたのですよ」


 熟練度の値が600とは果てしない。キュル助が初期値レベルの調教スキルでペットにできたのを考えると、かなりの差があった。


「カモフラージュというスキルです。キュル助、はペットの名前でモンスターのカメリオルをテイムしたところ、初めから覚えていました」


「ペットが使うスキルは盲点でござるな。時間さえ良ければぜひ、湧き場所へ案内していただきたい」


「それは……もちろん大丈夫ですが」


「かたじけない!」


 まさかの展開に尻込みしかけるも、なんとか声を振り絞る。頼られたのなら応えたくなってしまった。


 きっと一期一会の出会いはオンラインゲームの醍醐味。イベントも紅さんのおかげで楽しく終われた。一人だったら最終戦も森の中でひっそり過ごしていたに違いなかった。


 自分から積極的になるのは難しいが、向こうからきてくれる分には断らずに受け入れよう。

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