第八十話 赤い光
決着をつける、そのネクスの言葉に答えるかのように、赤く光る敵戦艦は急に選手を直下に曲げ急降下する。
「何を……!」
驚くドンキホーテ、しかしすぐさまその驚きが疑問へと変わる。
その戦艦のコースが明らかにおかしいのだ。
こちらに特攻でもしてくるのかと思ったのだが、しかしどうもその様子ではない。
しかし、不気味な赤い光を発光させたまま、遥か右方の雲の海に突っ込もうとしていた。
だが、雲海に衝突するわずか、手前で光がついに太陽光に見紛うほどの光度を放った。
「くっ!」
ドンキホーテとネクスが目を瞑った、次の瞬間だった、衝撃が起こった。
船に何か攻撃が直撃したのかそれとも、機関に異常が起こったのか。
焦りと共にネクスとドンキホーテは目を開けた。
すると彼らの目に映ったのは信じられない光景だった。
目の前に大地があったのだ。剥き出しの岩の地面、そこに苔のような草が若干覆われている。
そんな大地にまるで座礁したかのように、空中戦艦『ハイヴェントゥス』は阻まれていたのだ。
いや、ただ阻まれていたのではない。
大地に囲まれている。
「何……これ!?」
まるで湖の水が凍りつき、水面にいた魚やカエルなどの生物を捕え氷の牢に閉じ込めるように、ハイヴェントゥスの船体が大地に囲まれていたのだ。
「結界かよ……!」
「結界?」
「座礁結界だ、船を大地や氷などといったもので囲み、移動を制限する……まさか空中戦艦で適用するやつがいるとはな……!」
ドンキーホーテの説明でようやく、ネクスも空中で身動きの取れなくなったこの状況がいかにまずいかわかる。
「何事だ!」
すると、船内に続く扉が開け放たれ、オークのレーデンスが姿を表す。
「よぉ、レーデンス。ちょっとまずいかもしれねぇ」
「……座礁結界……!」
すぐさま、レーデンスもこの結界の正体を看破したのだろう、すぐさま顔が青くなった。
「ネクス……」
「なに? 先生」
「もう、下がってろって言えるほど安全な状況じゃねぇことはわかるな」
「……ええ」
「最悪、この船は落ちる、落ちたら落ちたで俺がなんとかするから、先生の近くになるべくいてくれ」
「わかった……!」
ネクスは頷き、サーベルを抜く。
「ネクス! なにやってるの!」
するとそんな心配する声と共に、ミケッシュが船内から顔を出す。
どうやら彼女はネクスが甲板に行ってしまったことを察知したようで、リリベルもアーシェもレヴァンスにもそのことを伝えて、ここまで来たようだ。
「って……なにこれ……!?」
ミケッシュは外の荒れ果てた大地、あるはずもない岩に座礁している戦艦、ハイヴェントゥスを目の当たりにして、戸惑っている。
無理もない、明らかに自然法則から外れたこの怪奇現象。動揺しない方がおかしい。
リリベルも驚き、思わずドンキホーテに尋ねる。
「先生……これって……!」
「二人とも、なるべくレヴァンス先生やレーデンスの近くにいろ……アーシェさんもだ」
ドンキーホーテの余裕の無さそうなその声を聞き二人は改めて事がもはや、どうしようもない緊急事態になったのだと気がつく。
「ドンキホーテ、どうする?」
反対にレヴァンスは落ち着いていた。ここで、レーデンスに聞かずわざわざドンキホーテに聞いたと言うことは、つまり、どうすれば生徒を守れるのか、と言うことを彼は聞いているのだろう。
それを察したのドンキホーテは、帽子の妖精に命じる。
「フォデュメ、吐け」
「アイアイサー」
魔女帽のサメのようなトンガリから口が現れ、「オエッ!」と言う嫌な吐瀉音と共に青の宝石が6つ吐き出される。
「自由落下の速度を軽減してくれる魔法がかけられてる、これをみんな持っといてくれ、危なくなったら石を持ち、『発動』と言うんだ。そうすればスピードを軽減する特殊な魔法が発動する」
「わかったな」と簡素な説明の後ドンキホーテは生徒達と自分自身、そしてレヴァンスとアーシェ教員陣に手渡す。
「レーデンス、悪い。ハイヴェントスの乗員の分は……」
「わかってる、大丈夫だそこまで世話にはならんよ」
フッと笑うレーデンス。どうやら彼にも彼らなりの対策があるようだ。
準備は万全だ、するとそのことを見計らったかのように男の声が響いた。
「ようようようよう!! 久しぶりだなぁ!!」
ちょうど、この座礁結界の発生源、ハイ・ヴェントスと岩の川のちょうど対岸に位置する空中戦艦の斜めに傾いた艦橋の頂点にその男はいた。
ジャンだ。
魔王の生まれ変わりジャンは大声でそのまま叫んだ。
「今日こそはテメーらをぶち殺しに来たぜ! オイ!」
ニヤケそして自信に溢れたその姿はまさしく愚王と形容するに相応しい。
「あれが……例の……」
レーデンスは呆れたように呟く。
初対面であるはずのレーデンスすらも感じ取っている、無能な者特有のまさしく無能感といった雰囲気。
軽薄、薄情、無責任、それらが全身から醸し出されている。
しかしそんな者が扱いきれぬ名剣を持った時ほど恐ろしいものはない。
「さぁ、勝負しようぜ、ネクス、俺の兵隊とお前の兵隊どちらが強いか!」
パチリとジャンが指を鳴らす。
すると甲板から出てきたのは、ドンキホーテのよく知る面々だった。
同じ顔と同じ顔と同じ顔。
「フォーン……!」
今度は16人などと言う小規模ではない、総勢──。
「おいおい……どうやって収容してたんだあの人数……」
──100人強。
ドンキホーテは冷や汗を垂らしながら笑う。
そのすべての銃口がネクス達に向けられていた。
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