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聖火  作者: 青山喜太


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第七十六話 飛空戦艦

「よう、みんな」


「え、せ、先生!?」


 飛行戦艦ハイヴェントゥスの一室でリリベルが驚きの声を上げた、ネクスとミケッシュ、そしてアーシェの4人がこのハイヴェントゥスの談話室で回復祝いに話し合っていたところ、急にレヴァンスに連れられたドンキホーテがドアの隙間から顔を覗かせたのだ。


 まるで、何事もなかったかのように笑みを浮かべ、部屋に入ってくるドンキホーテ、そしていつも通りの真面目そうに、悪く言えば神経質そうに口を固く結んでいる。


「も、もういいんですか!?」


 リリベルがソファから立ち上がり、ドンキホーテに駆け寄る。

 リリベルの記憶が確かなら、この戦艦に乗せられる前のドンキホーテはとても生きているとは思えないような状況だった。


 ボロボロのマントに血だらけの鎧、眠るように瞑る瞳。


 側から見れば死んでいるようにしか見えないその姿に絶望を感じたものだったがこうもあっさりと姿を見せられるとまるで夢現の中にいるかのように錯覚してしまう。


「いやはや……心配をかけてすまない……この通り元気だ、アーシェさんが治療してくれたのか?」


 ドンキホーテの問いにアーシェは首を横に振る。


「いえ……私じゃなく」


「僕だよ」


 するとアーシェの言葉を遮るようにドンキホーテの背後から声が響く。

 ドンキホーテはゆっくりと振り向くと、そこには──。


「久しぶりだねドンキホーテ」


 艶のある髭のない顔、緑髪で白衣姿、そして特徴的な半目の男は少年にしか見えない。わかるものは一目でわかるドワーフの青年だ。


 自身を気だるげそうを見上げているその半目のドワーフを見た瞬間ドンキホーテは微笑んだ。


「ミゼル? 久しぶりだなぁ! おい!」


 わしゃわしゃと犬を撫でる様にドワーフの青年、ミゼルの緑髪を右手でかき分けるドンキホーテ。


「うざったい……!」


 ミゼルはそう言い、ドンキホーテの手を払い除ける。


「僕は子供じゃないんだぞ、ドンキホーテ。年上を敬え」


「悪い悪い、ありがとうなミゼル」


 親しげなミゼルとドンキホーテ。

 そんな2人の姿にネクス達は疑問符を浮かべる。


「先生……知り合いなのミゼルさんと」


 ネクスの質問にドンキホーテは答えた。


「ああ、もちろん! 俺の戦友だからな!」


 時が止まった様に一瞬、驚愕の間がネクス達の間に流れる。


「え? それって……ね、ねぇ先生、先生って4年前戦争に参加してたのよね?」


「ああ、してたぞ」


 ネクスの質問に頷く、ドンキホーテ。


「先生の所属してた騎士団って……」


「そういえば言ってなかったな」


 ドンキホーテは笑顔で言い放つ。


第13騎士団(ここ)だ」


 驚きの声が談話室に響き渡った。


 ─────────────


 第13騎士団、主に平民や冒険者、傭兵などの成り上がりの騎士達に寄って構成された騎士団。


 本来、貴族や武家が多い騎士というその職業に珍しく、血統のないもの達によって構成されたその騎士団は戦前、対して注目もされていなかった。


 何せ業務は遊撃隊、とは名ばかりの魔物対峙や災害救助などの、貴族や武家からすれば《《雑務》》ばかりをしていた隊だったからだ。


 さらに騎士団団長や副団長は貴族と武家の出身であったが、そのほとんどは平民の出ともあって、立場的にかなり軽んじられていた団でもあった。


 所謂の左遷の部署、それが第13騎士団の印象だった。


 そう戦前までは。


 4年前の世界大戦の時だった。

 絶望的戦況だったリングラード平原の塹壕戦、敵国グルム国に追い込まれつつあったソール国軍は撤退しようとするも嵐にあい後退ができなくなってしまう。


 暴風の中、目の前に迫る敵、この時の絶望を第七歩兵中隊の中隊長は語る。


「もはや絶望的でした、ここで皆死ぬのだと、誰もがそう思っていたんです。そんな時でした嵐の中に影が見えたんです」


 全員が目を疑った、絶望が幻覚を見せたのだと誰もが思った。

 だがその幻覚は風の壁を突き破った。


 突き破り姿を表したのはソール国軍の国旗。


 第13騎士団がなんと鹵獲した敵軍の飛空戦艦を用いて嵐の中から強襲を仕掛けてきたのだ。


 嵐という悪天候の中、敵国のグルム国すら予測していなかった飛行戦艦の襲来。


 その日たった一隻の空中戦艦とその乗組員の騎士達により奇襲は成功し、戦況はひっくり返ってしまった。


 後に『ワイルドハント』と呼ばれたこの第13騎士団の作戦は4年前の世界大戦で生まれた数多くの伝説の1つである。


 ─────────────


 そんな、英雄達を生み出した騎士団にドンキホーテが所属していたなどと、初耳だ。


 いや、そもそも、とネクスは思い至る。


(先生って経歴のことあんまり喋ってない気がする……)


 少なくとも貴族や武家の出身でないことはわかる、自らのことを遍歴騎士だと名乗っていたこともネクスは覚えている。


 だが、それ以上ドンキホーテのことをネクスは知らなかった。


 ──ガチャリ


 すると再び唐突にドアが開く。


「……その、入ってもいいかな?」


 緑肌の大男が談話室の中に足を踏み入れる。

 ただの人間ではない。

 

 ネクス達は3人は思わず身を固める。


 その男はオークだったからだ。


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