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聖火  作者: 青山喜太


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第七十五話 涙

 レヴァンスの剣と男の拳がぶつかり合う。空気が揺れ木造の屋根が吹き飛ぶ。

 完全に生徒達から分断された今の状況、速やかに目の前の敵を倒さなければならない。だと言うのにレヴァンスと大男との決着は未だついていなかった。


「チッ」


 すると幾重にも大男の四肢とレヴァンスの剣が重なり合う、その最中におもむろに大男が舌打ちをする。


「ここまでのようだな、騎士殿」


 男の隆起した筋肉から徐々に力が抜けていった。

 それを戦闘終了の合図と受け取ったレヴァンスもまた剣を納める。


「どうやらうちの主人が危機的状況らしい」


「……貴様、名は?」


 レヴァンスが聞く。


「名はない……だが今はこう呼ばれている──」


「──囚人12号」


 その名乗りとともに大男は跳躍していった、民家の屋根、そして屋根へと着陸と跳躍を繰り返しやがて姿は見えなくなっていく。


「皆……!」


 だが安心はできない、未だやるべきことはあるのだから。

 レヴァンスは走る、生徒達の元へと。


 ─────────────


「なんだこれは……」


 レヴァンスが見たのは、まさしく惨状だった。


 倒れ伏すネクス達と血まみれのドンキホーテ。

 そして破壊され尽くした家屋。

 どうやら地中から生えてきた赤の円錐のせいのようだ。


 レヴァンスはすぐにドンキホーテに駆け寄る。


「ドンキホーテ……! これは……!」


「……ああ、センセか、ネクス達は大丈夫だ」


 ドンキホーテはそう言うが当の本人が、無事そうには思えない。

 血は流れ、しかしドンキホーテは未だ、二本の足で大地に立っていた。


「今すぐ止血しろ! 何をぼさっとやっている!!」


「あ……? ああ血ね…。大丈夫だよ最低限の回復の魔法は自分に施した……時期に血も止まる……そんなことよりネクス達だ……」


 ふらふらとネクス達に寄っていくドンキホーテにレヴァンスは思わず叫ぶ。


「馬鹿者! 無理をしすぎだ!!」


 その時、レヴァンスの体は自然と動いていた。

 ドンキホーテの側によりそい肩を貸す。


「……センセ……すまん……あと頼む」


 それに安心したのか、ドンキホーテの四肢から力が抜けていく。

 死んだわけでは無さそうだ。


「……世話をかけさせる……」


 心にも思っていない、愚痴をこぼしながらもレヴァンスはネクス達4人の様子を確認する。


 服は血に染まり破けている箇所があるものの、出血自体はでていないようだ。


 火災の方も周りの民家が倒壊したと同時に収まっている。


 まだ火災は他で広がっているものの、おそらく消化の目処は立つ筈だろう。


 だが──。


「……大きすぎるな被害が」


 レヴァンスの周辺には泣き崩れたり、呆然と立ち尽くしている民衆がいた。当然だ、一瞬にして自身の住処が奪われたのだから。


 それだけではない。

 瓦礫の下から正気のない腕や足がのぞかせいる。


 それも大量にだ。

 巻き込まれ死んだ民は数を数えられないだろう。


「……死人をここまで出して……下衆が……!」


 レヴァンスは敵に対して吐き捨てる、ここまで手段を選ばないとは完全なる社会の敵に他ならない。

速やかに奴らを倒さねば。


そんな考えをレヴァンスが巡らせたその時だった、風をかき混ぜるような駆動音が空から鳴り響く。


「……!」


 思わず、レヴァンスは剣に手をかけ空を睨みつける。

 レヴァンスの瞳に映ったのは巨大な影だった。


「これは……!」


 レヴァンスにとって、見慣れたその影は火の街とかした、ホワイトコールに迫りくる。

 まるで街を押しつぶすように。


 ─────────────


「イヴ」


「……」


「おいイヴ!」


「そのあだ名は好きじゃない」


「かわいいだろうが」


「俺は可愛いのはヤなの!」


「わるかったよ、エヴァンソ・ドンキホーテ」


「はぁ……クレイス……で? 首尾は?」


「飛行船に乗って10時間……もう直ぐだな、もう直ぐ本国が見える、戦争は終わりだ」


「は? 何を言って……ああ、そうだったな」


「どうしたドンキホーテ?」


「……いや、なんでもない、さっさと帰ろう、故郷に」


「そうだな……! そうだドンキホーテ! お前に妹を紹介したかったんだ! 前にも言ったが、いい子でさ腹違いなんだがな実の兄みたいに慕ってくれて──」


「── ん? どうした? ドンキホーテなんで泣いてるんだ?」


「すまない……クレイス……すまない……」


「何を泣いてるんだお前らしくない! 戦争は終わったんだぞ!」


「でも……お前に終戦の景色を見せてやれなかった……」


「……だったらなおさら笑っていてくれよ! 私の分も皆んなの分も!」


「クレイス……でも……!」


 ─────────────


 暖かい、なにかに包まれている、そんな感覚を感じ取ったドンキホーテはすぐさま目を覚ます。


 温もりを掻き分けるように上体を起こすとドンキホーテは次に頬に伝う、雫を感じ取った。


「ここは……」


「ソール国第13騎士団屯所、つまり最新飛空戦艦、ハイヴェントゥス.…の一室だ」


 ベットから起き上がったドンキホーテの質問に横の椅子に座っていたレヴァンスが答える。


「なんだセンセ……いたのか」


「悪いか?」


「いや、意外だっただけだ看病してくれたのがな」


「勘違いするな看病ではない、とりあえず目を覚ましたのならば状況を説明する役が必要だろうからな、一番余力のある私がそれを買ってでたまでだ」


「素直じゃないねぇ……」


「……減らず口を聞く余裕はあるようだな……」


 冗談を交わしたところでドンキホーテは本題に入る。


「なんでこんなとこに13騎士団がいるんだ? 嬉しいが、ここはコールランドだろ?」


「私も今しがた知ったのだが、コールランド王国との合同軍事演習にきていたらしい、そして今回の騒ぎを目視して慌てて……ということだ」


「なるほど」と頷いたドンキホーテは、おずおずと再び喋り出した。


「なあ、センセ、その秘密にしてくれるか?」


「何をだ?」


「俺が……その……泣いてたことを」


 するとレヴァンスは椅子から立ち上がりドンキホーテに背を向ける。


「当たり前だ、私は過去を詮索する気も傷を抉るような趣味も持ち合わせてはいない」


「……あんがとな」


「だが──」


 レヴァンスはドンキホーテに振り返った。


「背負いすぎた荷物があるのなら、それを軽くする手伝いをする程度の余裕はある」


「フッ」と思わずドンキホーテの口から笑いがこぼれ落ちる。

 同時に、何か肩に乗っていたものも少しだけ空気に溶けて消えていく。


「素直じゃねぇな」


「……なんの話だ」


 ドンキホーテはその返答にまた笑った。

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